中央最低賃金審議会は7月31日、2019年度の最低賃金額を、全国加重平均で27円増額し、全国平均901円とする方針を固めた。国は6月、2019年の「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)の中で、最低賃金の全国加重平均を、早期に1000円になるよう目指すと記していた。今回の引き上げはこのための布石と言える。
目安通りの引き上げが行われた場合、東京都の最低賃金は1013円、神奈川県は1011円と、初めて1000円台になる。しかし、地方には1000円台に遠く及ばない県も多く、格差は広まるばかりだ。最も低いのは鹿児島県で787円、沖縄県や宮崎県、佐賀県や高知県なども788円と、1000円台にはあと200円以上必要だ。
高知県労連の田口朝光執行委員長代行は、決定された目安額は「生活改善には全然つながらない。格差もそのまま」と語った。
「現在の最賃の決め方では上のランクほど上昇額が高くなる」
最低賃金は、中央最低賃金審議会が示した引上げ額目安を参考に、各都道府県で審議し、都道府県労働局長が決定する。中央最低賃金審議会は物価などに基づいて全国の都道府県をABCDの4ランクに分け、ランクごとに引き上げ目安額を提示する。
今回は、東京都や千葉県、神奈川県などが入るAランクが28円、茨城県や京都府などが入るBが27円、そしてCとDが26円だった。高知県は鹿児島県などと同じくDランクに分類されている。
田口氏は、こうしたランク分けによる最低賃金の決め方が、地方との格差を拡大させる一因と指摘する。
「最低賃金は本来、市場原理に任せていたら拡大してしまう格差を是正するためのものです。しかし、現在のランク分けは実勢価格に基づいていて、上のランクほど上昇額が高くなる仕組みになっています」
厚労省はこれまで最低賃金の地域間格差について、最高額と最低額との比率が縮小していることを理由に、格差が是正されているという主旨の説明をしてきた。しかし、厚労省のこうした姿勢に田口氏は疑問を持つ。
「本当に必要なのは実額差の是正です。2018年度の、東京と高知の最低賃金の差は223円でした。今回発表された目安を反映すると、差は225円と2円増えています。比率を出して格差が縮小しているというのは、詭弁に感じます」
高知県で最低賃金1000円が実現した場合、経済波及効果は167億円
高知県の2019年度の最低賃金が審議会の目安通りに上がっても、働く人に余裕はなさそうだ。1日8時間、週5日フルで働くと、月々の給料は約14万円にしかならない。
最低賃金で働く人は非正規雇用や学生アルバイトなど、そもそも労働時間が短い人が多い。田口さんも今まで、窮状を訴える声を聞いてきたと言うが、今回の引き上げで状況が改善されるとは考えにくいだろう。
高知県労連では2017年、最低賃金を800円、1000円、1500円に引き上げた場合の経済波及効果を試算した。1000円に引き上げた場合の経済波及効果は167億円で、県内のGDPを0.7%押し上げるという。1500円だと884億円、3.7%の押し上げ効果が見られた。
田口氏はこうした試算から、最低賃金の引き上げに渋る経営者らには「長期的な視点で見ないとだめ」と苦言を呈する。
「当面は人件費の支出が増えますが、回り回ってそれは消費に繋がります。地域に循環が生まれるわけです。目先のことだけ見ていたら、中小企業の労働者は低い賃金で我慢しないといけなくなるというのはわかります。しかし、このままでは中小企業も潰れてしまいます。展望がありません」
最低賃金の地域間格差を巡っては日本弁護士連合会も今年4月、「見過ごすことのできない重大な問題」として、大幅な引き上げを求める声明を発表している。