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これが新時代の「自由な働き方」? Uber配達員、事故にあっても「補償なし」に募る不満

2019年07月31日 13:31  弁護士ドットコム

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フードデリバリーの「Uber Eats(ウーバーイーツ)」の配達員が、労働組合の結成に向けて動いている。好きな時間に働いて報酬を得られる「自由な働き方」が注目されている一方、個人事業主は労働基準法などの保護はない。Uber配達員は配達中にケガをした時でも、補償されないのだ。


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6月12日に東京都内で開かれた「ウーバーイーツユニオン準備会」には、ツイッターでの呼びかけなどを見て約20人の配達員が集まり、中にはビデオチャットで参加した人もいた。





現状の課題、組合を作ったらUber側にどのような改善要求をするかーー。呼びかけ人となった弁護士らと共に話し合った。



●報酬システムは?

「配達距離を短くされた」、「事故にあったけど、補償がない」。呼びかけ人の川上資人弁護士は、数カ月前から、ツイッターでUber側の運営に対するつぶやきが増えてきたように感じていた。5月には「労働組合は二人いれば作れます」とつぶやき、配達員数人と「ウーバーイーツユニオン準備会」を重ねてきた。







Uber EatsのHPによると、報酬システムは、基本料金(×)ブースト(+)不定期の特別キャンペーン。ここからサービス手数料35%が引かれたものが、配達員の手取りとなる。



基本料金の内訳は、店で商品を受け取った際に300円、注文者に商品を渡した際に170円、店から配達先までの距離に応じて1キロにつき150円。



ブースト倍率やエリア区分は定期的に見直され、月曜日の午前4時を締め日として、原則1週間に1度支払われる。



●オーダーの仕組みはブラックボックス

また、一定の配達回数をこなすと、通常の配達報酬にボーナス(インセンティブ)が加算される。12日の準備会で、名古屋市でバイクで配達しているという男性は「件数をこなせないとお金を稼げない」と嘆いた。





配達員は登録時、主に自転車か原付バイクかのどちらを使って配達するか決める。店から配達先までの距離に対して報酬が支払われるが、どこに配達するかは店に到着した後初めてわかる。



男性は「バイクだと現在地から遠い場所にあるお店に商品を取りに行く『ロングピック』ばかりが来て、件数がこなせず売り上げが落ちた。名古屋ではバイクと自転車の格差(報酬の開き)が大きくある」と訴えた。配達員が現在地から店まで商品を取りに行くまでの料金は支払われない。



配達員側からすると、オーダーはランダムに入って来るため、仕組みはブラックボックス化している。東京都内の配達員も「都心から始めても、だんだん海の方に流され、海と陸を往復させられる」と苦笑いする。



●走行距離の集計ミス「1万円報酬少なかった」

距離料金に加えて、連続3日間の間に、指定回数の配達を達成すると報酬が加算される「日またぎインセンティブ」と呼ばれるシステムもある。





「バイクと自転車で、仕事の件数や条件に差がついていないか。公表されていないから想像だが、バイクは長い距離の配達オーダーが多く回数がこなせない」と話す配達員もいる一方、「バイクの人も長時間やれば達成できる」と答える配達員もいた。



また、運営側が指定したエリアで稼働した時に報酬が加算される「ブースト」についても、京都市で配達している男性は「前は2.1倍だったのに、今は1.4倍ほどだ」と話す。「配達員が増えて来て、お金を出さなくてもやる人がいるから(会社側の対応としては)合理的」(東京都内の男性)と一定の理解も示す人もいた。



ツイッターでは、ドライバーアプリの不具合について言及する声も多く見られる。準備会でも、走行距離の集計ミスがあり「直近1カ月で約1万円ほど報酬が少なかった」と訴える男性配達員がいた。



●事故にあった時の補償は

労働組合に加入することが、自分にとってメリットになるのかーー。集まった配達員は「組合を作ると、どんなメリットがあるか」、「組合の交渉力に疑問がある」などと質問を投げかけ、組合加入について冷静に見極めている様子だった。



中でも配達員の関心が高いのは、配達中に事故にあった時の補償についてだ。



現在、Uberが配達員むけに提供している保険は、配達中の対人・対物事故の補償のみ(上限1億円)。しかし、配達員は業務委託契約ではたらく「個人事業主」だとして、労災保険に加入させていない。



「労災保険の適用があるかどうかは未決着の論点。だが、経済的な従属性が強く『何をどこまで配達するか』について完全な自由がないことから、『労災保険の適用がある』という考え方も十分成り立つ」と準備会に参加した菅俊治弁護士は話す。





労組を作った場合、配達員の事故に関する保険契約を締結するよう、Uber側に求めることも考えられるという。



菅弁護士は「保険システムは、利益を得ている事業主が、リスクを被った人に対する負担をしなければいけないという思想のもとで存在する。保険会社とUber(保険契約者)が保険契約を締結し、配達員が被保険者になる。要求事項の重要な柱だ」と話す。



●組合として認められる?

集まった配達員からは、「労働組合を作った場合、本当にそれが組合として認められるのか」という疑問の声も上がった。



労働組合として認められれば、会社側は団体交渉を拒否できない。まず、 Uberの配達員が労働組合法上の労働者と認められるかがポイントとなる。



これについて、菅弁護士は「配達員が配達システムに組み込まれていることから、労働組合法上の労働者性は間違いなく認められるだろう」とみている。



また、契約条件についても、団体交渉の要求内容の一つとして考えられる。



独占禁止法では、優越的な地位にある事業者が、それを利用して取引の相手に不利益な要求をする「優越的地位の濫用」を禁止している。



「売り上げの分配条件に関して、今はUberが配達員と交渉することなく決めている。優越的な地位の濫用として、公正取引委員会の指導の対象ともなりうる」(菅弁護士)



●全国に散らばる配達員、どう結集するか

「一部の配達員が勝手に暴走して、要求した結果、Uberのサービス自体がなくなってしまうのではないかと誤解している人もいる」。準備会ではツイッターで広がる「誤解」を見た配達員からこんな声も上がった。



現在 Uber Eats は、東京、神奈川、埼玉、千葉、愛知、京都、大阪、兵庫、福岡の10都市以上でサービスを提供している。全国に散らばる配達員が、組合を結成する作業は簡単ではない。前述の配達員は「組合に何をして欲しくて、何をして欲しくないのか。きちんと話すべきだ」と話した。



菅弁護士は「すごくチャレンジングな動き。同種の働き手による組織化のモデルとなるのではないか」と期待する。8月1日、再び「ウーバーイーツユニオン準備会」が開催される。