2019年07月31日 12:41 弁護士ドットコム
みなさんの職場に「結婚休暇」はありますか。労働基準法で定められている「法定休暇」とは異なり、会社が自由に設定する「特別休暇」(法定外休暇)の一つです。
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この休暇を使って新婚旅行に出かける人もいるようですが、弁護士ドットコムには「取得を拒否された」という相談が複数、寄せられています。何があったのでしょうか。
ある女性は、挙式から約半年後に申請をして新婚旅行に行きましたが、人事部から「挙式をして4カ月以上経っているので取得できない」と言われました。その理由は、「(取得期限は)昔から内規で4カ月以内と決められている」というのです。しかし会社の就業規則には「取得可能日数は連続して5日間」としか書かれていません。
また別の男性も、就業規則には「本人が結婚するときは5日付与する」と書いてあったのみで、期限は明記されていませんでした。婚姻届を提出した数カ月後、新婚旅行で制度を使おうとすると、人事部に「婚姻日から原則3カ月以内に取得」と言われ、取得できなかったそうです。
期限が定められていないのに取得ができなかった場合、法的にはどう考えられるのでしょうか。櫻町直樹弁護士に聞きました。
ーー休暇というのは、どういうものですか
「休暇」とは、労働義務がある日について、労働者からの申請に基づき、使用者が労働義務を免除した日(期間)のことをいいます。本来は労働義務があるという点で、もともと労働義務が免除されている「休日」とは性質が異なるといえます。
そして、休暇は、法律に規定されている「法定休暇」と、特段の規定がない「法定外休暇」とに大まかに分けられます。
法定休暇には、年次有給休暇(労働基準法39条)、産前産後の休業(同65条)、育児休業(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律5条)、子の看護休暇(同16条の2)などがあります。使用者は、労働者がこれらの休暇を取得できるよう就業規則等に規定し、制度を整えておかなければなりません。
ーー法定外休暇は、無くても良いのですか
法定外休暇の場合、法定休暇とは異なり、どのような要件を満たす場合に、どのくらい付与するかについて、使用者が任意に決めることができます。付与しない場合でも、法律違反になるということはありません。
ただし、付与すると決めた場合には、就業規則に記載する必要があります(労働基準法89条、同条1号)。
また、就業規則で定められている労働条件は、使用者と労働者の雇用契約の内容となり(労働契約法7条本文)、労働条件を労働者に不利益な内容へ変更する場合には、原則として労働者の合意が必要(労働契約法9条本文)です。
ただし、就業規則の変更による労働条件の変更が、「労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき」(労働契約法10条本文)には、労働者の合意がなくても労働条件の変更は法的に有効とされます。
ーー「結婚休暇」は法律に規定されていない「法定外休暇」という位置づけです
法定外休暇である「結婚休暇」の取得要件、内容、取得手続などについては、使用者が任意に決定することができます。
例えば、「結婚してから●か月以内に申請しなければならない」と申請可能な期間に区切りを定めることも、問題ないといえます。
ただ、例えば「結婚後1週間以内」のような、事実上休暇の取得が困難であるような期限を定めた場合には、法的に有効とは認められない可能性があるでしょう。
ーー今回の2つのケースはどうでしょうか
今回のケースでは、「取得期限は「昔から内規で4ヶ月以内と決められている」、「期限については明記されていませんでした。人事部に尋ねたところ『婚姻日から原則3カ月間に取得』と言われた」とあり、取得可能な期間については労働者に周知されていなかったようです。
就業規則で定めている内容が、労働者との雇用契約の内容として認められるためには、「合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合」(労働契約法7条本文)でなければなりません。
申請できる期間につき就業規則に記載がなかったときは、雇用契約の内容になっているとはいえず、結婚休暇について取得を認めないとの扱いはできないと思われます。
ーー就業規則に記載があった場合は、どうなりますか
仮に、結婚休暇の申請期限が就業規則で定められており、労働者にも周知されていた場合であっても、単に「申請期限を過ぎた」という理由だけで取得を拒否するのは難しいのではないかと思われます。
申請期限などの休暇取得に関する手続きが定められているのは、「使用者において、労働者の休暇取得状況を把握し、業務の運営に支障が生じないようにするため」が主たる目的と考えられるためです。
休暇取得にまつわるトラブルを避けるためには、就業規則において、休暇の取得要件、有給か無給か、年次有給休暇や賞与など「出勤率」が問題となる労働条件との関係で、休暇取得日を「出勤日」と扱うかどうか等を定めておくことが望ましいといえます。
【取材協力弁護士】
櫻町 直樹(さくらまち・なおき)弁護士
石川県金沢市出身。企業法務から一般民事事件まで幅広い分野・領域の事件を手がける。力を入れている分野は、ネット上の紛争解決(誹謗中傷、プライバシーを侵害する記事の削除、投稿者の特定)。
事務所名:パロス法律事務所
事務所URL:http://www.pharos-law.com/