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『ダンベル何キロ持てる?』『コップクラフト』……夏の新作アニメ主題歌をピックアップ

2019年07月30日 14:02  リアルサウンド

リアルサウンド

紗倉ひびき(ファイルーズあい),街雄鳴造(石川界人) 『TVアニメ「ダンベル何キロ持てる?」OPテーマ「お願いマッスル」/EDテーマ「マッチョアネーム?」』

 人気シリーズの続編もの・スピンオフ(『とある科学の一方通行』『からかい上手の高木さん2』など)からベストセラー作品の初映像化(『Dr.STONE』『彼方のアストラ』『炎炎ノ消防隊』など)まで、夏をさらに熱くする話題作が目白押しとなっている2019年夏クールのTVアニメ。どんなタイトルが放送されているのかは各種まとめサイトでご確認いただくとして、ここでは50タイトル近くにもおよぶそれらの新作アニメの中から、音楽的に注目すべきオープニング/エンディングテーマをいくつかピックアップして紹介したい。


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 まず、今期のアニメ主題歌の中でもとりわけ話題となっているのが、筋トレを題材にしたコメディー作品『ダンベル何キロ持てる?』(AT-Xほか)のオープニングテーマ「お願いマッスル」。同アニメの主人公でダイエットのために肉体改造に励む女子高生・紗倉ひびき(CV:ファイルーズあい)と、彼女が通うジムのイケメンマッチョトレーナー・街雄鳴造(CV:石川界人)が歌うこのキャラクターソング。Berryz工房のカバーでも知られる懐かしのディスコヒット「ジンギスカン」あたりを参考にしたようなノリノリのサウンド、筋トレするJKらしさを全開にしたファイルーズの明るくかわいく元気いっぱいな歌声、そこにテンポよく差し込まれる石川の〈(イエス、マッスル!)〉〈(ナイスマッチョ!)〉〈(肩にちっちゃい重機のせてんのかい!)〉といった合いの手が、聴けば聴くほどに楽しくなる中毒性の高いナンバーだ。


 そのユニークかつ親しみやすい曲調とアニメ作品自体の面白さ、さらに筋肉アイドルの才木玲佳とボディビルダーの横川尚隆が出演する遊び心満載なMVの効果もあって、アニメファンの間で瞬く間に人気となった本楽曲は、7月24日に発売されるや同日のオリコンのデイリーデジタルシングルランキングで堂々の1位を獲得(参照:https://www.oricon.co.jp/rank/dis/d/2019-07-24/)。今期アニメの台風の目として一気に注目を集めることとなった。みんなで話題にして楽しめるネタ感は、例えば昨年のDA PUMP「U.S.A.」や『みんなで筋肉体操』(NHK総合)などと近しいところがあり、街雄鳴造による筋肉数え歌的なエンディングテーマ「マッチョアネーム?」とともに、さらなるバイラルヒットを引き起こしそうな予感。両楽曲を共同で手掛けた篠崎あやと(本作ではシックスパック篠崎名義)と烏屋茶房(本作ではサイドチェスト烏屋名義)という、このところのアニソンシーンを賑わす注目クリエイターの名前と一緒に、ぜひチェックしてほしい。


 また、TVアニメ『けものフレンズ』のオープニングテーマ「ようこそジャパリパークへ」の特大ヒットを含む作家活動や、Tom-H@ckとの音楽ユニット・OxTなどを経て、今やアニソン界隈を代表するヒットメイカーとなった大石昌良が、今期はオーイシマサヨシ名義でTVアニメ『コップクラフト』(TOKYO MXほか)のオープニングテーマ「楽園都市」を担当。この楽曲が、従来のオーイシらしさはありながらも作品の世界観に寄り添うべく新しいことに挑戦した、アーティストとアニメ作品のタイアップ曲として理想的な作りになっている。


 まず『コップクラフト』という作品について説明すると、本作は異世界とのゲートが開いて妖精や魔物との共存を余儀なくされた世界を舞台に、刑事のケイ・マトバと異世界人の騎士・ティラナ・エクセディリカがタッグを組んで凶悪犯罪に立ち向かうバディアクションストーリー。ファンタジー要素が加わっているものの基本はハードボイルドな刑事もの路線となっており、鬼才・岩崎琢による異国情緒あふれた劇伴音楽も含め、非常に見ごたえのある作品に仕上がっている。


 そんな本作のオープニングとしてオーイシが選んだのは、夜の街の喧騒を映すビッグバンドジャズの世界。分厚いホーンと銃声で彩られたイントロに『ルパン三世』シリーズで知られる大野雄二サウンドへのオマージュを埋め込みつつ、昭和歌謡のような懐かしさと現代的な感覚がブレンドされたメロディ、サビでグッと強まるラテンのフレイバー、都市が内包する空虚さとそれでも何かを求めて彷徨う人々の心情をクールに綴った歌詞など、あらゆる仕掛けを満載した楽曲で甘く危険な「楽園都市」の世界へと誘ってくれる。オーイシと言えばどうぶつビスケッツ×PPP「乗ってけ!ジャパリビート」(『けものフレンズ2』オープニングテーマ)などの提供曲でもビッグバンドのスタイルを取り入れてきたが、今回のような夜の似合うジャズファンク調は珍しい。きっと『コップクラフト』という作品に出会ったからこそ開けることのできた引き出しなのだろう。


 ちなみに主人公のティラナ(CV:吉岡茉祐)が歌うエンディングテーマ「Connected」は、HAWAIIAN6の安野勇太が作詞・作曲・編曲を担当。勇猛果敢にして高潔なティラナのイメージにピッタリの疾走エモロックで、オープニングとは違った角度から作品の世界観を表現している。このように作品の切り取り方によって様々な音楽表現が生まれるのは、アニソンならではの魅力かもしれない。


 そして、作品とのタイアップという形を通じて、あらゆるタイプのアーティストを受容できるところもアニソンの楽しさ。今期のアニメであれば、新世代ラッパーのRude-αは『Dr.STONE』のエンディングテーマ「LIFE」で夏らしいフォーキーなトラックに乗せて〈生きる〉ことの意味と意志を力強くラップした。バルーン名義でボカロPとして名を上げつつ、現在はシンガーソングライターとして注目を集めている須田景凪は、『炎炎ノ消防隊』のエンディングテーマ「veil」で感傷を抱きながらも前に進む登場人物たちの姿に重なる歌を披露。今後のブレイクが期待される気鋭のアーティストたちが、自身の音楽性をまっすぐぶつけたアニメタイアップに挑戦している。


 そんななかで個人的に一押ししたいのが、エレクトロもヒップホップも包括した現代的なミクスチャーサウンドで支持を集める5人組ロックバンドのSurvive Said The Prophet。2018年には『劇場版 コードギアス 反逆のルルーシュIII 皇道』の主題歌「NE:ONE」やTVアニメ『BANANA FISH』のオープニングテーマ「found & lost」を担当したほか、ボーカルのYoshが音楽家の澤野弘之の作品に参加している縁もあって、アニメ作品とは何かと繋がりのある彼ら。今期は、中世ヨーロッパのヴァイキングたちの生きざまを描いたTVアニメ『ヴィンランド・サガ』(NHK総合)のオープニングテーマ「MUKANJYO」を歌っているのだが、これが戦いに明け暮れる荒くれ者たちの物語に相応しい激しさと、主人公のトルフィンがその争いの果てに辿り着く無常観の両方を併せ持った素晴らしいナンバーになっている。メロディアスかつ激情溢れるサウンドはもちろん、ベース/スクリーム担当のYudaiがラストに聴かせる壮絶な咆哮は鳥肌もの。バンドの音楽性と作品の方向性が合致したがゆえの傑作に、ぜひ心を震わせてほしい。(流星さとる)