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カオス渦巻くレースを制したフェルスタッペン。ホンダF1による2チーム揃っての表彰台は1988年以来の戦果【今宮純のドイツGP分析】

2019年07月30日 12:51  AUTOSPORT web

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2019年F1第11戦ドイツGP マックス・フェルスタッペンの2勝目に喜びに沸くレッドブル・ホンダ
2019年F1第11戦ドイツGP決勝は、レッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンが今シーズン2勝目を達成。そしてトロロッソ・ホンダのダニール・クビアトも殊勲の3位表彰台を獲得した。F1ジャーナリストの今宮純氏が週末のドイツGPを振り返る。
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 2019年初めてのウエットレース、F1第11戦ドイツGP“水中戦”を水際立つ手腕で勝ったフェルスタッペン。序盤に6コーナーでハーフスピン、中盤に14コーナーで“360度スピン”も切り抜けた。5回のピットストップを素早くこなし、タイヤをウエット→インターミディエイト→ミディアム→インターミディエイト→インターミディエイト→ソフトへと交換。

 路面状況の変化に合わせたこのタイヤ選択判断にピットクルー達はミスなく動いた(最速タイム1.88秒)。カオス渦巻くレース展開のなか、すばらしいチーム力を発揮した彼らが勝つべくして勝った――。

 2018年第13戦ベルギーGPからフェルスタッペンは20レース、トップ5フィニッシュをつづけている。これは彼自身のベスト戦績であり、今季第8戦フランスGP以降の4レースで計74点を獲得、現在首位のルイス・ハミルトン(メルセデス)の63点を上回る結果だ。

 金曜酷暑~土曜曇天~日曜雨天に変わったドイツGP週末、セットアップ最適解を見いだすのが難しくなった。多くのチームが新たなアップデートを持ちこんだが、その成否を見極める作業もはかどらない。金曜からカオスレースの予兆が忍びよる。

 そして日曜、それは現実になった。新スタート方式、セーフティーカー先導によるフォーメーションラップ(3周)の後、スタンディングスタートに。67-3=64周レースだ。

 これによって燃費的には楽な方向になる。ウエットコンディションでパワーユニット(PU/エンジン)になにより求められるのはドライバビリティ。路面の濡れ具合がコーナーごとに異なるから、パーシャルスロットルの頻度が高まる。ドライならほぼストレートな部分も一変してコーナー数が増える。エネルギーマネージメントを含め、パワー&トルクのデリバリー設定もポイントに。


 ホンダ陣営は第9戦オーストリアGPで事前に『高温・高地チューニング』を徹底したように、今回は『雨天ドライバビリティ・キャリブレーション』を入念に行った。

 レースに戻る。最終盤60周を過ぎる時点でホンダ勢4台が『首位フェルスタッペン-2番手クビアト-6番手アレクサンダー・アルボン-7番手ピエール・ガスリー』で占めていた。


 ホンダ田辺豊治F1テクニカルディレクターが口癖のように言う“4台全車完走入賞”は目前だった。結果的にクビアトは猛追したセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)に2位を譲り、ガスリーはアルボンと接触してリタイア。『優勝-3位-6位』で終わる。

 1992年ハンガリーGPで1位アイルトン・セナ、3位ゲルハルト・ベルガー(※2位はナイジェル・マンセル/ウイリアムズ・ルノー)以来の<表彰台1-3>だ。

 2チーム揃っての表彰台は1988年オーストラリアGP、マクラーレン・ホンダ勢が1位アラン・プロストと2位セナ、そしてロータス・ホンダのネルソン・ピケが3位で、パワード・バイ・ホンダによる戦果だ。

 トロロッソとホンダがタッグを組んで1年半、32戦目の快挙に、田辺TDはじめ担当スタッフ達は2戦前のオーストリアGP1勝目と同じかそれ以上に感激した。

 彼らには2008年イタリアGPでベッテルが“101人目ウイナー”となって以来の表彰台。今年復帰したクビアト自身は2015年ハンガリーGPの2位から4年が経つ。

 快走するクビアトとアルボンを見ていて気付いた。08年ベッテルPPウインも雨がらみコンディション、チームは明らかにウエット・セッティングにフォーカスし、彼らは勝機を狙いつかみとった。


 この週末はドライの土曜まで中団勢の下位に沈み、ふたりとも「セットアップのバランスがもうひとつ……」とコメント。予選はクビアト14番手、アルボン17番手で今季ワーストに近い。

 高速エリアのセクター1と2ではウイリアムズにも迫られ、「雨天を意識したプラス・ダウンフォース設定にしているのか」と個人的に思えた。

 これまでもトロロッソはウエット路面条件下で積極的に走り込み、それはフェルスタッペン在籍時代から見られた。『雨のトロロッソ・ホンダ』――3位表彰台と6位は、けして偶然の結果とは言えない。クビアトもアルボンもコーナーで自信を持ってライバルを次々にかわした。

 それにしても上位陣にスピン、クラッシュがなぜ最終コーナー・エリアで多発したのか。シャルル・ルクレール(フェラーリ)、ニコ・ヒュルケンベルグ(ルノー)、カルロス・サインツJr.(マクラーレン)、ルイス・ハミルトン(メルセデス)までも……。

 今年、最終コーナーの一部(エイペックス付近)には荒れた路面を補修した“パッチ舗装”がされてあった。旧6.8kmロングコース時代と同じレイアウトのこのあたりは路面劣化が進んでいたのだ。

 もうひとつ気になったこと。ターン16と17の進行方向左側にはドラッグレース用のコースがある。その舗装はサーキットのそれと違い真っ黒で、最終コーナー外側のターマック・エリアも見るからにオイル混じりのような路面……。初日のドライセッションで何台もこのエリアでコースオフ、タイヤグリップ低下もあるが路面のグリップ変化が気になった。

 雨の日曜、まるでワルツを踊るかのように“アイススケートリンク”の上を彼らは滑った。ステアリングもブレーキも制御不能のまま、「メルセデス看板」に突っ込んだ。ハミルトンは何とかそれを壊さずに済み、レース後にアルファロメオ勢の降格によって9位入賞。競技後まで『第64回メルセデス・ドイツGP』のカオスはつづいた。