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EXILE/三代目JSB 小林直己が切り開いた“世界”への道 「相手の夢を叶えることで自分の夢も叶う」

2019年07月30日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

小林直己(写真=富田一也)

「EXILEのほかのメンバーはスケジュールがびっしり入っているのに、僕だけはいつも時間があった。人に求めてもらうのがアーティストだとしたら、自分にはその価値が無いのかと悩みました」


 小林直己は、EXILEに加入したばかりの頃を振り返り、そう述懐する。EXILEのメンバーであり、三代目J SOUL BROTHERSのリーダーも務める小林は、現在ドームツアー「RAISE THE FLAG」の真っ最中だ。5万人もの観客の前で披露する堂々たるパフォーマンスは圧巻で、ワイルドなキャラクターを想像させるが、実際に会うと物腰が柔らかく、繊細な気遣いができる紳士である。


 ダンスを始めたのは高校生の頃。EXILE AKIRAと知り合ったのをきっかけに、EXILEに関心を持つようになり、2007年に二代目J Soul Brothersのメンバーに。マイクロバス1台で全国を廻るフリーライブツアー「武者修行」などを経て、2009年にEXILEの一員となった。しかし、前述のように個人としての仕事には恵まれず、葛藤を抱える。どうすればEXILEの中で輝き、グループに貢献することができるのかーー必死に考えた結果、辿り着いた答えは「英語をマスターする」ことだった。


「英語を話すメンバーはいなかったので、将来的に武器になると考えたんです。ハリウッド映画は世界中どこでも上映しているし、もし出演することができれば、誰かは僕のことを覚えてくれるだろうと。それに、メンバーの中に一人、英語を話す人間がいると、グループが海外で何かをする時にも役に立ちます。時間だけはたっぷりとあったから、毎日6時間くらい猛勉強しました」


 2017年にLDHが体制を一新し、海外展開を目指すようになったことで、小林のビジョンはさらに明確になっていく。同年5月、ハリウッドのエジプシャンシアターにて開かれた映画『たたら侍』のプレミア上映会では、出演者を代表して流暢な英語でスピーチを行い、多くの関係者を驚かせた。日本人の美徳や精神性を伝えようとした同作は、世界各国で上映され、モントリオール世界映画祭ワールド・コンペティション部門で最優秀芸術賞を受賞するなど、一定の評価を得た。


「海外の方々の反応は、思いのほか良かったです。作品に込められたメッセージが正しく伝わった実感を得られたことで、世界で通用する俳優を目指すという夢が現実味を帯びるようになりました。僕の日本人らしい顔立ちも、海外の人にはわかりやすいみたいで、評判は悪くないです(笑)」


 今年5月には、世界最大のファッションの祭典「METガラ」に初参加するチャンスにも恵まれた。「METガラ」を主宰する『VOGUE』編集長のアナ・ウィンターは、欧米におけるアジア人の地位向上を目指し、近年はアジア系の参加者を意識的に増やしているという。アジアンカルチャーの興隆は、ファッション、映画、音楽など、あらゆるカルチャーで見られる昨今のモードだ。そんな最中、LDHからは、世界的に人気のジュエリーブランド「AMBUSH®」を率いるm-floのVERBALと、小林が出席した。


「アナ・ウィンターさんは、ファッションが持つ影響力を理解していて、それが世の中を大きく動かすと信じています。アジア文化が盛り上がりつつある中、新しい文化と伝統的な文化、その両方を世界に伝えられる人になりたいと考えていたので、今回『METガラ』に参加できたのは本当に光栄でした」


 「METガラ」の2019年のテーマは「camp/キャンプ」。スーザン・ソンタグが提唱した「不自然なもの、人工的で誇張されたもの」を意味する美学だ。小林は、トム・フォードUSの賛同を得て、シャイニーなゼブラ柄のスーツを着用した。


「トム・フォードはすごくジェントルで、強さや色気がある格式高いブランド。自分が共感する人間像の中で日本人なら、三船敏郎さんや石原裕次郎さんのような、古き良き昭和の格好良さを感じさせる大人が着るイメージと合っていました」


 小林はあえて私服でもそのような服装を着用しているという。普段からパブリックイメージを意識するようになったのも最近のことだ。


「海外の方と仕事をする機会が増えて、自分はフォーマルなファッションの方が映えると気付きました。自然な立ち振る舞いができるように、オフの日も意識的にそういうファッションを身につけて、自分をブランディングしています。多くの人の中から選ばれていくためにも、自分ならではのスタイルを築かなければいけません。若い頃は多くの可能性を探して、トライ&エラーを繰り返してきましたが、34歳になってようやく自分が商品であることを受け入れられましたし、だからこそ求められる“小林直己像”がわかってきたのかもしれません」


 そんな小林は現在、LDHのアメリカ支社となるLDH USAにて、クリエイティブ・キャリア・アドバイザーも務めている。自身がアーティストとして培ってきた経験を、アメリカでのビジネス展開に落とし込む仕事だ。メンバー自らが企画や展開を考え、大きな成果を収めた三代目J SOUL BROTHERSならではのプロデュース方法やマネジメント方法は、あらゆるプロジェクトに応用できる可能性がある。


「10年以上、アーティスト活動を経験した中で学んだのは、相手の夢を叶えることによって、自分の夢も叶うということ。周りの人のために何ができるかを考えて行動すると、結果的に自分の夢も実現していきます。僕が今、海外から仕事をいただけるようになったのも、自分の役割を理解して、行動した結果だと思います。この方法論は、きっとビジネスの世界でも通用するはずです。今は7月3日にLAで開催されるライブイベント『OTAQUEST』の準備を手伝っていました。ライブ制作のノウハウを伝えることで、『OTAQUEST』成功の一助になれればと考えています」


 ワールドワイドな俳優としても躍進中だ。リドリー・スコットが製作総指揮を務めるNetflixオリジナル映画『アースクエイク・バード(原題)』(今後公開予定)への出演は、大きな一歩である。小林の持つ、ミステリアスで繊細、そして鋭い雰囲気が、制作陣の求めていた主人公像にぴったりだと評価され、起用に至ったのだという。世界が俳優・小林直己を求める日も近いのかもしれない。


「日本とアメリカでは芸能のシステム自体が大きく異なっていて、向こうではタレント自身がエージェントと呼ばれる職種の人物を雇い、出版社やテレビ局や映画制作会社に売り込んでいきます。僕も『たたら侍』以降、色々なオーディションを受けてきました。『アースクエイク・バード』に関してはこれから公開されるので、ぜひご覧いただきたいですね。本作が公開されたら、またひとつ実績ができるので、近い将来には拠点を移して活動していこうと考えています。いずれは、僕のように考えている人がどんどん海外に出て行けるようなルートを確立していきたいです」


 自らのアイデンティティを模索し、独自の道を切り拓いてきた小林。


「どんなことをすれば観ている人に喜んでもらえるのかは、経験的にある程度はわかるのですが、いつもその範囲の中で表現していてはだめで、一見すると無駄かと思えるようなことを積み重ねていって、想像を超えていく。求められているのは、歌やダンスや芝居のクオリティだけではなく、僕らが汗をかいて必死にもがいて結果を掴み取るまでの物語なのかなと。それを自覚していたからこそ、ずっと諦めずに頑張れたんだと思います」(取材・文=松田広宣)