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今期、もっとも観るべきドラマは? ドラマ評論家が選ぶ、2019年夏ドラマ注目作ベスト5

2019年07月30日 06:11  リアルサウンド

リアルサウンド

夏ドラマベスト5

 梅雨も明け、さっそく連日、猛暑が続いている。そんな真夏の現場で役者たちが凌ぎを削り、熱い演技のぶつかり合いを見せている夏ドラマの放送が続々とスタートした。各局、力の入った作品が並ぶが、本当に観るべきはどのドラマだろうか。ドラマ評論家の成馬零一氏に、夏ドラマから注目すべきタイトルのベスト5を選んでもらった。(編集部)


【写真】1位『凪のお暇』


1.凪のお暇(TBS系)


 今クールは人気漫画のドラマ化が多いのだが、原作漫画のビジュアルと演出を活かそうとするあまり、ドラマとしてのテンポが悪くなっているものが多い。そんな中、一位の『凪のお暇』は、漫画をうまく咀嚼してテレビドラマの映像に落とし込んだ理想の映像化となっている。


 物語は、会社の人間関係に疲れて、恋人にも酷い扱いを受けた28歳の大島凪(黒木華)が会社を辞めて、SNSをすべて閉じて、立川市にある六畳一間の(クーラーもない)アパートで一人暮らしをはじめるというもの。


 SNSに象徴される人々が空気を読み合いながら、相互監視する「いいね」社会から抜け出して、昔ながらの疑似家族的な共同体に癒やされたいという現代人の抑圧された気持ちを描いていることが、原作漫画が高く評価される所以だろう。ドラマ版もそこは外してないが、見ている印象としては、むしろ、逃げようとしても逃げられない「空気」を読み合う息苦しさの方が突出しているように思える。


 黒木華、高橋一生、中村倫也の起用は、ビジュアルや年齢が漫画と違うと言われ放送前は不評だったが、いざ始まっていると評価は逆転した。中でも凪の恋人、我聞慎二を演じた高橋が素晴らしい。凪を支配しようとするクズ男で、あらゆる振る舞いが酷いのだが、本人は支配欲求をピュアな恋愛感情だと思っているのがタチが悪い。ここまで酷い男として描かれた慎二がどういう顛末を向かえるのかを見守るだけでも本作を見る価値はある。中村が演じる凪のお隣さんのイベントオーガナイザーの安良城ゴンも何を考えているかわからず不気味。今のところ登場人物が妙に不穏でホラーとして面白い。


2.ルパンの娘(フジテレビ系)


 2位の『ルパンの娘』は、良質のコメディ。警察一家に生まれた刑事の桜庭和馬(瀬戸康史)と泥棒一家(Lの一族)の娘・三雲華(深田恭子)が正体を隠して愛し合うという『ロミオとジュリエット』的な話だが、出演俳優も含めた徹底的に作り込まれたビジュアルがもたらす作品世界の虚構としての完成度に圧倒される。


 チーフ演出の竹内英樹と脚本の徳永友一は今年大ヒットした映画『翔んで埼玉』のコンビ。劇中からツッコミを排除して、視聴者に預けたことが最大の勝因だろう。


3.セミオトコ(テレビ朝日系)


 突飛な設定という意味では3位の『セミオトコ』も負けてない。主人公はなんと蝉! イケメン男性に変身したセミオトコ(山田涼介)が、孤独を抱えた30代女性の元を訪れ、7日間だけいっしょに過ごすという優しい物語。


 脚本は連続テレビ小説『ひよっこ』(NHK総合)などで知られる岡田惠和。岡田の作風はリアルな群像劇と、ファンタジーテイストのキャラクタードラマに別れるのだが『セミオトコ』はファンタジー路線で、日本テレビで河野英裕プロデューサーと作っていた『泣くな、はらちゃん』や『ど根性ガエル』のテイストに近い。より遡ると岡田の出世作となった『南くんの恋人』や『イグアナの娘』といったテレビ朝日の「月曜ドラマ・イン」で放送されていたアイドルドラマを思わせるのだが、久々にテレビ朝日に帰ってきたことも含めて原点回帰的な作品だと言えよう。物語は全8話なので、一日約一話という作りとなるのではないかと思う。ファンタジーという手法を用いて、引きこもりとアイドルの話を展開しており、すごく優しい世界であるがゆえに、とても残酷で哀しいものが見え隠れするのは岡田作品ならでは。


4.スカム(MBS/TBSドラマイズム)


 4位の『スカム』は、最近話題となっている特殊詐欺(オレオレ詐欺)をおこなう反社(反社会的勢力)の内幕を描いたもの。原作は鈴木大介の新書『老人喰い ――高齢者を狙う詐欺の正体』(ちくま新書)。劇中に登場する特殊詐欺の研修風景は新書の中にも登場する。見ていて面白いのは物語の根底にあるのが、2008年のリーマンショック以降の大不況と豊かな年金暮らしの高齢者への憎悪であるということ。特殊詐欺や反社会組織を題材にしたドキュメンタリーやフィクションは近年盛り上がりを見せているジャンルだが、さながら『スカム』は和製『ウルフ・オブ・ウォールストリート』とでも言うようなピカレスクドラマとなっている。


5.だから私は推しました(NHK総合)


 5位の『だから私は推しました』は、『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』、『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』と若者向けの攻めたドラマが続いているNHK「よるドラ」枠だが、今回は『ごちそうさん』や『おんな城主 直虎』(ともにNHK総合)などで知られる森下佳子が脚本を担当。物語は、キラキラOLの遠藤愛(桜井ユキ)が地下アイドルの栗本ハナ(白石聖)にハマるというもので、放送前は地下アイドルの内幕を描くサブカルテイストのドラマとなるかと思われたが、むしろ「いいね」中毒のキラキラ女子の闇の方がメインに見える。第一話の時点で、主人公がある犯罪を犯すことが暗示されており、続きがとても気になる。


(成馬零一)