「空気を読み過ぎる」アラサー女子が、仕事も恋も捨てて人生のリセットを試みる姿を描く『凪のお暇』(TBS系)。7月26日放送の第2話は、黒木華さんが演じるヒロインの大島凪と、アパートの隣に住むイベントオーガナイザーの安良城ゴン(中村倫也)との距離が急接近し話題になった。
一方、第1話で「モラハラ・クズ男」の名を欲しいままにした元カレの慎二(高橋一生)は、凪に対する執着をますますこじらせ面白さが加速。ネット上では男性2人の魅力に当てられた人たちから「視聴者の心を完全に奪う人たらし」「高橋一生死ぬほど可愛い」などの悲鳴が相次ぎ、「今期ドラマで最高」の呼び声も高い。
ただ本作は、一見ラブコメのようでいてラブがメインではないだろう。他人の顔色を伺って人に合わせてばかりいたヒロインが、「どうすれば自分が納得できる生き方を送れるのか?」と問い直す、哲学や生き方論に近い物語だ。(文:篠原みつき)
すべてを否定する男・慎二と、すべてを肯定する男・ゴンが凪の人生を変えていく
第1話で凪に様々な暴言を吐いた慎二だが、実はまだ凪が大好きで未練がましく号泣する姿が視聴者の目を釘付けにした。2話でもそのクズっぷりは光っており、行きつけのスナックでママ(武田真司)を相手に
「あいつは変わる必要なんてないんだ。あいつは空気読んで人の顔色うかがっておどおどビクビクしてりゃいいんだよ」
と言い放つ。ママに「復縁はないわね。変わりたい女と変わってほしくない男、お互いそっぽ向いちゃってるじゃない」と指摘される始末だ。
その言葉通り、変わりたい凪はハローワークで同年代の女性・坂本龍子(市川実日子)に自分から話しかけるなど、人間関係をつくり直していく。坂本にはマルチ商法まがいのパワーストーンを奨められてしまうが、過去に「空気を呼んで」色々と買ってしまった経験があり、慎二に「なめられてんだよ」と見下されたことを思い出し、きっぱりと拒否することができた。凪の変化のすべてを否定する慎二は、意図せず凪を奮起させていたのだ。
一方、ゴンは凪がスーパーのレジ袋を蹴り上げるゼロ円エクササイズをしている様や、2人でできる節約バーベキューを喜ぶ姿などすべてを肯定し、「面白い」「可愛い」と褒めて距離を詰めてくる。すべてを肯定するゴンは、凪を和ませ癒しを与えていた。肯定は自信につながり、行動する勇気を与えてくれるだろう。
自由人でふわふわした雰囲気のゴンと、営業職でバリバリ働くエリートの慎二、まったく違うタイプの男性が凪の人生に関わり、彼女が生き方を変えていくきっかけをつくっていくのが面白い対比になっている。
「ひとしきり妬んだら、目の前にあることで楽しんじゃおう」しなやかな凪の姿勢
では、凪は男性の影響を受けないと変われないのかというと、そうではないだろう。凪は空気を読み過ぎる気弱な女性のようでいて、実は自分なりの幸せを生きるしなやかさを持っている。拾ってきた扇風機をわざわざ黄色にペイントして部屋を明るくしたり、本物の竹で流しそうめんを楽しんだり。自分を縛るものを捨てて独りになった彼女は、自分にとっての豊かさを謳歌しとても開放的に見える。
凪は、隣に住む母子家庭の小学生うららちゃんが、「友だちと比べちゃって羨ましくなる」と悲しんでいるとき、こんな言葉をかける。
「よそはよそ、うちはうちって、私昔よくお母さんに言われたんだけど、でも、比べちゃうよね。絶対比べちゃう。だから、うららちゃんは悪くない」
「よその子たちのこといいなって、チクショーって、ひとしきり妬んだら、目の前にあるもので工夫して遊んじゃうのはどうだろう?なんもないならなんも無いなりに、楽しんじゃおうよ」
自分なりの価値観をもって、外側から影響されない自分自身の豊かさを追求しようとする姿勢だ。これは、好景気と言われながら実感が持てず、「格差社会」などと言われる今、私たちの生き方の処方箋のようにも聞こえる。
昔の好景気や誰かと比べて理不尽な気持ちになるのは仕方ない。ただ、ないものねだりで苦しむより、いまあるもので楽しむように心掛けると人生は豊かになるのではないか。凪の暮らしは容易ではないけれど、こんな生き方もありだよ、とおしつけがましくなく教えてくれているような気がする。そこに出演者たちの魅力が加わり、とても見応えのあるドラマになっている。「逃げ恥」や「けもなれ」に続く、いまを生きる人たちの人生の価値観を考える名作となるのではなかろうか。