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『ノーサイド・ゲーム』大泉洋が語る、ビジョンを持って行動する重要性 ラグビーへの情熱は“愛”?

2019年07月29日 06:11  リアルサウンド

リアルサウンド

『ノーサイド・ゲーム』(c)TBS

 汗が飛び散る相撲部屋の光景。大関・栃ノ心に立ち向かうのは、大泉洋!?


 一瞬、チャンネルを間違えたかと焦ったが、ラグビー日本代表が強豪フィジーを破った翌日、7月28日放送の日曜劇場『ノーサイド・ゲーム』第3話では、リーグ優勝を目指す君嶋隼人(大泉洋)の挑戦が本格化する。


参考:大泉洋、満を持しての日曜劇場主演 『ノーサイド・ゲーム』“サラリーマン役”は新境地となるか


 失地回復のために会社員人生を賭けてアストロズとスクラムを組んだ君嶋。選手のモチベーションを鼓舞し、名将・柴門琢磨(大谷亮平)を招へいした君嶋の挑戦は社の内外に波及する。「素人のお前だからこそできることがある」と柴門から背中を押され、君嶋は地域に親しまれるクラブづくりに着手。プラチナリーグのGMが集まる会議でリーグの収支改善を訴える。


 監督の柴門も一段とギアを上げる。厳しいトレーニングを課されて朝から晩までラグビー漬けの生活を送る選手たちだったが、急速な変化に気持ちが追い付かない。そんな中、キャプテン岸和田(高橋光臣)の怪我をきっかけにチームに亀裂が生じる。葛藤を乗り越えて迎えたラストシーンには思わず鳥肌が立った。ラグビーの未来に投資するという君嶋の言葉には説得力があり、「はじめからうまくいくことなんかない」と語る姿からは、ビジョンを持って行動する重要性が伝わってきた。


 君嶋のサラリーマンとしての奮闘を描いた『ノーサイド・ゲーム』だが、ここまでの展開ではアストロズに関する描写が大部分を占めている。「ラグビーに染まってきたんじゃないか」と元上司の脇坂(石川禅)が言うように、ドラマの軸足が明らかにスポーツ寄りになっているのは今作の特徴といえる。


 これまでにTBS日曜劇場で放送された池井戸潤原作ドラマには『ルーズヴェルト・ゲーム』や『陸王』などスポーツを題材にした作品があった。それらの作品で、スポーツは、存続の危機にある会社と重ね合わせて、また会社の命運を賭けた象徴的な存在として扱われてきた。『ノーサイド・ゲーム』でのラグビーは、君嶋にとって自身を変えた存在であり、また君嶋の存在がアストロズを変えていく構図になっている。


 過去作以上に、登場キャラクターのスポーツに対するコミットメントが大きいのが今作であり、その構図の中で、あらためて会社と企業スポーツの関係が問い直されることになる。眞栄田郷敦演じる七尾圭太の「ラガーマンではなく、サラリーマンになるつもり」というセリフは、サラリーマンとしてラグビーチームを再建しようとする君嶋と対照的であり、はからずも今作の根底に流れるテーマを浮き彫りにしていた。


 別の言葉で言うなら、スポーツと仕事が対等な関係で切り結んでいるのが『ノーサイド・ゲーム』というドラマであり、登場キャラクターにどれだけ説得力を持たせられるかがポイントになる。その点で、ラグビー経験のある俳優や元選手のキャスティングには理由があり、実際、「グラウンドだけが君たちの戦場じゃない」という君嶋の言葉で本気になった選手たちが発する眼光と熱量には、画面を超えて圧倒されそうになった。


 第1話の最後にサプライズ発表された主題歌「馬と鹿」。米津玄師による同曲では〈これが愛じゃなければ/何と呼ぶのか僕は知らなかった〉と歌われる。ラグビーに賭ける君嶋の情熱は、本人が気づかないところで“愛”と呼べるものに変わっているのではないだろうか。社会人ラグビーを舞台に、あらん限りの情熱で人生を愛することを叫ぶ『ノーサイド・ゲーム』。ついにリーグ戦に突入したアストロズと君嶋たちから目が離せない。


■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。