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『なつぞら』山田裕貴×鈴木杏樹、相手を思うが故の選択 ターニングポイントを迎えたなつと雪次郎

2019年07月28日 06:11  リアルサウンド

リアルサウンド

『なつぞら』写真提供=NHK

 『なつぞら』(NHK総合)の第17週は主人公のなつ(広瀬すず)が26歳になり、東洋動画初の女性アニメーターとして原画を担当。放送を開始したテレビアニメ『鉄腕アトム』が脚光を浴びたこともあり、坂場(中川大志)や茜(渡辺麻友)と共にテレビ班への異動が言い渡されたなつは、仕事で新たな局面を迎えていた。


 一方、女優・亀山蘭子(鈴木杏樹)に憧れて劇団「赤い星座」に入った雪次郎(山田裕貴)にも転機が訪れる。声優として蘭子の夫の役で共演した雪次郎は、劇団の次回作で主役に大抜擢。「蘭子と一緒に舞台に立つ」という夢をチェーホフの『かもめ』で実現すると同時に、蘭子から“えこひいき”されていると仲間から反発を受ける。仲間は公演をボイコットすると言い出し、雪次郎に「新しい劇団を創らないか」と持ちかける。


 高校の演劇部で仲間と一緒に表現することの喜びを感じたなつと雪次郎。なつは卒業後に柴田牧場で酪農家になる道ではなく、東京でアニメーターになる夢を選んだ。覚悟を決めて北海道を出てから7年。試行錯誤しながらも、新しいテレビ漫画の世界を切り開いている。


 雪次郎は「芝居が好きなように、俺は蘭子さんが好きだ」と蘭子への特別な想いを隠そうともせず、仲間たちから「新しい劇団を創ろう」と誘われたときも「亀山蘭子という女優と共演することが夢で、そのためにここにいます」と断った。


 劇団の看板女優であり、大先輩でもある蘭子の存在が雪次郎を俳優への道へ駆り立てたきっかけであり、その純粋すぎる想いは蘭子にも素直に可愛いと感じるものだっただろう。第101話で蘭子の家に招かれて、雪次郎は本人に向かって堂々と「好きです」と伝えた。自分の夢は蘭子と芝居をすることで、公演をボイコットした仲間から新しい劇団を創ろうと誘われたことも話し、「俺は蘭子さんを絶対に裏切りません」とも宣言している。


 蘭子の家で2人きり。雪次郎は公演を成功させた高揚感もあってか、「蘭子のために芝居をする」という答えを自分の中から導き出してしまったのだ。「芝居が好きだから芝居をする」のではなく、「蘭子という存在があるから芝居をする」というのでは、当然だが意識は大きく違う。このまま一緒にいたら蘭子の共演者という位置づけのまま、雪次郎がいつか蘭子の犠牲になることがあるかもしれない……。


 蘭子は、あなたを呼びつけたのはダメ出しをするためだったと態度を一変。「あなたの演技は最低だった」「あなたとはもう何も一緒にできないわ」と雪次郎を追い出した。


 傷心の雪次郎から蘭子の家でのことを聞いたなつは「自分といると雪次郎くんが不幸になるって、そう思ったってことでしょ。蘭子さんにとって生きることは舞台に立つことで、そのために誰も犠牲にしたくないって、本気でそう思って生きているとしか思えない」と言ったが、恋愛と仕事とを切り離して考えるなつだからこその説得力のある言葉だ。


 彼女の芝居を初めて観て「アマチュア精神を感じた」という雪次郎の言葉は本心からで、それは蘭子にとっても大先輩から伝えられた大切な言葉でもあった。蘭子が芝居の稽古中に雪次郎に対して「あの人の分も生きて、演じてほしいのよ。頑張ってほしいの。これからも」という言葉にも嘘はなかっただろう。芝居を通じて特別な結びつきを感じる相手と出会えたことは奇跡のようでもあり、2人にとってかけがえのない思い出にもなったはずだ。でも、人は誰かの身代わりになったり、犠牲になって幸せにはなれるものではない。


 蘭子に厳しい言葉を投げつけられ、自分と向き合った雪次郎は帯広に戻り、実家の菓子屋「雪月」を継ぐことを決めていた。天陽(吉沢亮)の家に行った雪次郎は、「なっちゃんは相変わらずだ」「どんどん先行くぞ。脇目も振らずって感じだな」と、なつの近況を天陽に語る。


 雪次郎がなつに坂場のことが好きなのかと聞いたとき、なつは「一緒に生きられたらいいなと思うけどね」と答えていた。「好きでも一緒に生きられないことだってあるし、たとえ相手に好きになってもらえなくても、好きなことが同じなら一緒に生きられることもある」というなつ。感情に流されたり、依存するのではなく、好きなことが同じで同志としての結びつきを求めるのは、姉妹のように育った夕見子(福地桃子)の影響もあるのかもしれない。


 仕事と恋愛でターニングポイントを迎えたなつと雪次郎。第18週は坂場がなつにプロポーズするという見逃せない展開が待っているようだ。(池沢奈々見)