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嵐、ベストアルバムが4週目にして再び首位に 時代ごとに変化を遂げた楽曲群を分析

2019年07月27日 14:31  リアルサウンド

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リアルサウンド編集部

 7月29日付のオリコンチャートによれば、嵐のベストアルバム『5×20 All the BEST!! 1999-2019』が71,889枚を売り上げて1位を記録した。本作は7月8日付のランキングで初登場1位を獲得し、その後2位(7月15日付)→2位(7月22日付)と来て、4週目にして再び今回1位に返り咲き、発売週だけに頼らない持続した売上を見せている。


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 『5×20 All the BEST!! 1999-2019』には、嵐がこれまで発表してきたシングル曲と、20周年を記念した新曲「5×20」を加えた計64曲が収録されている。筆者もこれを機に過去の作品を振り返ることになったわけだが、20年間分のてんこ盛りの内容に心から存分に楽しませてもらった。もちろん、収録されている曲は彼らが残してきたもののほんの一部にしか過ぎないが、彼らが築き上げた独自のポップスター像を感じ取るには充分のパッケージだ。


 自分の中で“嵐サウンド”と言えば、背後でギターのカッティングが鳴り続けるファンキーなリズムに、ドラマチックなストリングスやピアノが乗っかり、キラキラした電子音などが華麗に演出しつつ、その上で伸びのあるリーダー大野智の歌声が全体を包み込むようなイメージだが、それもここ数年の「青空の下、キミのとなり」や「夏疾風」、アルバムなら『Are You Happy?』以降の作品で抱いたものであって、過去まで遡ってみると意外とそうではない楽曲も多く、特に初期におけるミクスチャーなスタイルには発見も多い。


 DJのスクラッチ音など時代を感じさせる音も多いが、デビュー曲の「A・RA・SHI」なんて現代のアイドルソングに引けを取らない多展開だし、「台風ジェネレーション-Typhoon Generation-」に至っては「こんな胸アツなサックスソロがあったのか!」と思わず舌を巻いた。


 2004年発売の『瞳の中のGalaxy/Hero』までのシングルが収録されているディスク1を聴くと、初期の嵐はヒップホップとともにあったとさえ思うくらいである。当時の日本語ラップといえばRIP SLYMEやKICK THE CAN CREWといったアーティストが存在感を示していた頃で、そのあたりの空気感がうまくジャニーズの王道のポップス感覚に組み込まれているが、2005年シングル曲「サクラ咲ケ」から2009年シングル曲「Everything」までが収録されるディスク2になると、ロックサウンドがチラホラ出現し、嵐サウンドの”型”も出来上がっていく。「サクラ咲ケ」や「アオゾラペダル」「Happiness」がそれを象徴する楽曲だが、そんな中で生まれた「WISH」や「Love so sweet」の名曲っぷり、「Step and Go」については嵐の楽曲を知らない者がいたとしたらまず真っ先に聴いてほしいグルーヴ感だし、ハードロック調の「Crazy Moon~キミ・ハ・ムテキ~」や、「One Love」の美しいメロディなど、この期間の充実っぷりはちょっと恐ろしいくらいである。


 ディスク3へ移り2010年代に入ると、録音技術の変化もあるのか音の粒立ちがはっきりとしていて聴いているだけでも気持ちが良い。時代としてはこの頃から本格的にEDMの波が押し寄せてくるところ。ここでの嵐の楽曲は、ディスク2で作り上げたある種の”型”をいかに時代に合わせて更新していくかという点で興味深い。「Face Down」や「Breathless」、「Bittersweet」あたりの曲から同時代のダンスミュージックとの絶妙な距離感が見て取れる。たとえば、「Troublemaker」の全体に漲るあのワクワク感の裏にはイントロとサビでの大胆なオーケストレーションとAメロでのエレクトロサウンドとの両立がある。


 ディスク4の幕開けとなる「GUTS!」から「青空の下、キミのとなり」までの4曲は『THE DIGITALIAN』と『Japonism』というふたつの大きなコンセプトアルバムを発売した頃の嵐で、曲単体からも当時のテーマがしっかりと浮かび上がる。また、中期嵐の良いところを蘇らせたような感覚の「愛を叫べ」や、山下達郎・竹内まりや夫妻が作詞作曲した「復活LOVE」には大人になった5人の成熟した魅力が詰まっている。このように、”時の変化”を上手く作品に落とし込んでいるのもディスク4の魅力だ。最後を締める新録「5×20」は、昨年発売されたアルバム『「untitled」』の最後を飾る「Song for you」にも似た壮大な曲調で、嵐からの20年間を支えてきてくれたファンに対する心からの感謝の一曲だろう。(荻原 梓)