2019年07月27日 10:52 弁護士ドットコム
闇営業問題に端を発する一連の騒動を受け、吉本興業の岡本昭彦社長が7月22日に会見した。しかし、これによって新たな火が注がれてしまったようだ。会見で明らかにされた話には、様々な法的な論点が詰め込まれていたが、今回考えてみたいのは、厳しい指導のあり方だ。
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7月20日には、宮迫博之さん、田村亮さんが会見で、こんなエピソードを明かしている。岡本社長と面会時、岡本社長は関係者以外を部屋から締め出し、「お前らテープ回してないやろな」「亮、ええよ。お前辞めて1人で会見したらええ」「やってもいいけど、全員連帯責任でクビにする」などと発言したという。
また吉本所属のお笑いタレント・清水圭さんも自身のブログ(7月22日。現在は削除)で、過去に岡本社長から1対1で「恫喝」されたこと、「いつ辞めてもらってもいいんですよ」と言われた経験を明らかにしていた。
考えてみたいポイントは、岡本社長が所属タレントと話をする上で、人払いをしている点で、これは配慮ともとれなくもない。当事者と1対1であっても、話の内容次第では「パワハラ」に該当するのだろうか。指導をする際、どのような注意が必要なのか。山田長正弁護士に聞いた。
「当事者と1対1で話し合いを行うこと自体は、法律上問題ありません。一般論となりますが、1対1で話すことで、指導を受ける部下のプライバシーに配慮することもできますし、他人の前でミス等を晒し者にしない等の意味で、パワハラには該当しにくいでしょう。
ただし、どんな場合でも、パワハラに該当しないわけではありません。
たとえば、脅すような内容を他人に聞かれたくないために、あえて1対1で行うような場合はパワハラに該当しやすくなります。また、あえて1対1で行ってしまったために、密室に呼び出されたということで部下が驚きや恐怖感などで萎縮し、上司が部下に対して行った言動が、本来の意図とは違って受け取られてしまうこともあります。
この場合、仮に部下を叱咤激励するためだったとしても、その時の態度や状況、内容次第ではパワハラに該当することはあると考えられ、注意が必要です」
部下を指導する場合には、どのような注意が必要なのか。
「上司の言動が実際にパワハラに該当するかどうかは、継続して行われているものかどうか、行われることとなった原因、状況等をも踏まえて判断する必要があり、一概に判断することはできません。
ただし、上司の注意点としては、(1)個人の人格やキャリア、経験を否定するような言動は行わない、(2)感情的・威圧的な行為を避ける、(3)部下を公平に扱うこと、などは必要です。
今回の『いつ辞めてもらってもいい』という発言は、まさに(2)に該当するリスクの高い言葉です。いずれにしても、相手や状況によって『パワハラ』の感じ方が違うことを理解し、お互いがパワハラについて問題意識を持つことが大事だと考えます」
【取材協力弁護士】
山田 長正(やまだ・ながまさ)弁護士
企業法務を中心に、使用者側労働事件(労働審判を含む)を特に専門として取り扱っており、労働トラブルに関する講演・執筆も多数行っている。
事務所名:山田総合法律事務所
事務所URL:https://www.yamadasogo.jp/