2019年07月27日 10:52 弁護士ドットコム
皆さんはネットに口コミを書いたことはありますか。飲食店や美容院など口コミを参考に選ぶ人も多いのではないでしょうか。
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ネットの口コミを巡るトラブルも起きているようです。ファッションデザイナーで経営者のハヤカワ五味さんが7月8日、ツイッターで「歯医者の口コミ書いたら内容証明出されて草、これは全面戦争」と呟いたことが話題になりました。
ハヤカワさんはGoogleマップの口コミに「保険医療を希望しても1時間ほど説得され続けるため時間もお金も無駄です」などと記入。その後、代理人弁護士から送られてきた内容証明郵便が届きました。
ハヤカワさんがツイッターにアップした通知書(7月10日付)には、「当初の口コミの内容について、事実と異なっており通知人の名誉権を侵害していたため、法的根拠に基づいて削除請求を行った」、「星一つの評価それ自体も通知人の名誉権を侵害していた」などと書かれています。
口コミで星1をつけただけで、名誉毀損になりうるのでしょうか。また、どのような口コミであれば、名誉毀損になりうるのでしょうか。田中一哉弁護士に聞きました。
ーーネットの口コミに関するトラブル相談を受けたことはありますか
私のところに来るのは、大半が「書かれた側」からの相談です。
具体的には、「事実と異なる口コミを書かれて困っている」、「営業妨害なので口コミを削除して欲しい」、「投稿者を特定して法的措置をとりたい」といった内容です。
業種としては、医療機関からの相談が目立って多くなっています。
ーー口コミのアウトとセーフのラインは、どこにあるのでしょうか
基本的には、「事実と違うこと」を書いたらアウト、「主観的な評価・感想」に過ぎないならセーフと考えてください。星1つの評価をつけることは、後者に当たりますので、原則として、法的措置の対象になりません。
ただ、「評価・感想」であっても、「担当医の技量に疑問を感じた」だけならセーフですが、「何十回も必要のないレントゲンを撮られた。あいつはヤブ医者だ」などと具体的根拠をともなう場合には、名誉権侵害になる可能性があります。また、書かれた側に「侮辱」と受け取られるような表現は、名誉感情侵害と認定される恐れがあります。
ーーお客側はどのようなことに気をつけて口コミを書いたらいいですか
「嘘は書かない」「話を膨らまさない」「表現は穏当に」といった点に留意しましょう。口コミに限らず、相手方に面と向かって言えないようなことは、書くべきでないということです。
ーーもし、自分が書いた口コミについて、店側から内容証明を送られてきたら、どう対応すべきですか
内容証明は「書かれた側の主張」をまとめた書面に過ぎません。よって、必ずしも、そこに書かれている請求に従う必要はありません。
ただ、相手方から、期限を定めて回答を求められているのに、これを無視すると、そのことが後の裁判で不利な事情として考慮される可能性があります。
内容証明を受け取ったら、何らかの回答はしておくべきでしょう。その際、素人考えで反論するのは危険です。必ず弁護士に依頼して、回答書を作成してもらいましょう。
ーー裁判所は、口コミのアウトとセーフのラインをどのように判断していますか
口コミについて、裁判所は、店側の権利(名誉権、営業権)よりも、投稿者あるいは消費者側の権利(表現の自由、知る権利)を重視する傾向にあります。
まず、「食べログ」の口コミに関する事件に関する裁判例です。
店側の立場について「一般公衆を対象として飲食店を経営しているのであるから、顧客の評判によって利益を得たり、損失を受けたりすることを甘受すべき立場にある」と示し、口コミの性質について「これから利用する飲食店を探そうとする一般消費者にとっては、現実に当該店舗を利用した顧客による評価を知りたいという要望が大きい」と示しています。
その上で、「経営者の同意がない」ということで飲食店の口コミ投稿が許されないとするなら、「一般消費者がこれらの情報にアクセスする機会を害することになりかねない」として店側の削除請求を棄却しています(平成27年6月23日札幌高裁判決)
次に、「Googleマップ」の歯科医院に関する口コミの事件です。
歯科医院の治療について、「患者ごとのオーダーメイドであって、その出来具合についての巧拙の評価や満足度、費用の額についての納得度は、患者によって千差万別」と示した上で、不満を述べる感想について「歯科医院側はある程度受忍していることが社会的に求められている」として、医院側の削除請求を棄却しています(平成30年6月18日東京高裁決定)。
ーー客の不満を書かれることも、店側はある程度我慢すべきと判断されているのですね
さらに、口コミサイトの特性について言及した裁判例もあります。
これは、「Googleマップ」の産婦人科に関する口コミの事件です。裁判所は、口コミサイトに掲載された情報は、「個々の書込それ自体は、客観性を保証されるものではない」としながら、「多数の書込が蓄積されることによって、全体として客観性及び信頼性を増すことになる」と指摘しました。
この事件で問題となった口コミは「医師から意欲は感じられず」「病気の見逃しが多い」などと書かれていました。
具体的な事実が記載されず、投稿者の感想や評価のみが記載されている場合には、「それだけでは直ちに記載内容を信用しないというのが、一般読者の普通の読み方であると考えられる」と示して、医院からの発信者情報開示請求を棄却しています(平成30年11月28日大阪高裁決定)。
ーー確かに口コミがいくつかある場合は、一つの口コミを信じるというよりかは、全体的なトーンを見て雰囲気を捉えます
はい。これらの裁判例は、口コミ閲覧者や投稿者の行為態様をよく捉えていると思います。
ただ1つ問題なのは、中傷口コミの多くが、対象店舗やその経営者に個人的な恨みを持つ者によって投稿されていることです。私が担当した事案でも、口コミの投稿者を特定すると、「解雇した元従業員」や「競合する同業者」だったケースは枚挙に暇がありません。
ですので、上記の裁判例は「正確な内容」の口コミが「公益目的」で投稿されていることを前提としていますが、必ずしも、現実の事案に即しているとはいえないと思います。これらの裁判例に従うと、事業者は、悪意を持って投稿された不実の口コミに対して、有効な対策をとりにくくなるからです。
裁判所には、「書かれる側」が被る不利益にも、もう少し目を向けて欲しいと感じています。
【取材協力弁護士】
田中 一哉(たなか・かずや)弁護士
東京弁護士会所属。早稲田大学商学部卒。筑波大学システム情報工学研究科修了(工学修士)。2007年8月 弁護士登録(登録番号35821)。現在、ネット事件専門の弁護士としてウェブ上の有害情報の削除、投稿者に対する法的責任追及などに従事している。
事務所名:サイバーアーツ法律事務所
事務所URL:http://cyberarts.tokyo/