トップへ

「週末映画館でこれ観よう!」今週の編集部オススメ映画は『ブレス あの波の向こうへ』

2019年07月26日 19:41  リアルサウンド

リアルサウンド

『ブレス あの波の向こうへ』(c)2017 Screen Australia, Screenwest and Breath Productions Pty Ltd

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、波どころか水にも浮けない安田が『ブレス あの波の向こうへ』をプッシュします。


参考:『トイ・ストーリー4』ウッディの決断が意味するもの “クルー全員が泣いた”製作の意図を深読み


■『ブレス あの波の向こうへ』
 『メンタリスト』『プラダを着た悪魔』のサイモン・ベイカーが初監督を務める本作。オーストラリア西南部の小さな街を舞台に、内向的な少年パイクレットと、好奇心旺盛な友人ルーニーがサーフィンを通して成長していく姿を描く青春映画です。


 原作は、オーストラリアで最も栄誉あるマイルズ・フランクリン文学賞を受賞した、ティム・ウィントンによる自伝的小説です。舞台もオーストラリアですが、出演するキャストもオーストラリア出身です。パイクレットとルーニーにサーフィンを教え、徐々に危険な海へと乗り出していくサンドーを演じるのは、監督を務めるサイモン・ベイカー。実は、ベイカーはオーストラリア南東に位置する島タズマニア出身で、自身もサーフィン経験者という経歴の持ち主です。


 さらにベイカーは、「サーフィンを習得するよりも演技を学ぶ方が簡単!」と考え、演技経験のない実際のサーファー、サムソン・コールターとベン・スペンスを主演の少年二人に抜擢。オーストラリア内で公募オーディションが行われ、キャスティングまで1年もの時間を要したようです。


 そのため、本作の要となる波に乗るという行為は迫真に満ちています。波の上に立つ気持ちよさだけでなく、大きな波が迫ってくる潜在的恐怖心まで隠さずに映し出します。無鉄砲なルーニーと違い、パイクレットは最初こそ波に乗ることに夢中になるのですが、どんどんとエスカレートしていくサンドーとルーニーに心からついて行けなくなるのです。


 このパイクレットの葛藤に我々観客は115分間翻弄され続けます。15歳の自我を芽生えさせた少年が、流されて生きてきたこれまでを逡巡し、どこへ進むべきか模索する姿は観客個人個人の青春の痛みとも重なるでしょう。その行為のメタファーとしてもサーフィンが見事な装置として機能しているのです。


 子どもたちを取り巻くキャストもまた魅力的な光を放っています。少年からの目線を強く意識したキャスティングが、本作に力強く影響を与えているんです。サイモン・ベイカーは柔和かつ渋みを体現しており、子どもが一瞬で虜になり崇拝するようなカリスマ性を抱えつつも、ちょっとした隙に見える意図せぬ大人の恐怖感も表現しています。


 またサンドーの妻イーヴァを演じたのは、エリザベス・デビッキ。『コードネーム U.N.C.L.E.』や『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』を始め、多くの映画に出演する彼女は、近寄りがたくも陰から目で追ってしまいそうになる怪しげな魅力を振り撒きます。来年公開のクリストファー・ノーラン監督最新作にも内定した彼女は、これから更に話題になっていくことでしょう。


 ようやく関東も梅雨明けをし、平年の暑さが戻ってきた今夏。スクリーンを通して海へ出かけてみてはいかがでしょうか。