2019年07月26日 18:22 弁護士ドットコム
大型トラックの男性ドライバー(52)が2018年4月に病死したのは、長時間労働が原因だったとして、川口労働基準監督署(埼玉県)が労災認定していたことが7月26日に分かった。認定は7月5日付。遺族の代理人が会見を開き、明らかにした。
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労基署が認定した亡くなる1カ月前の時間外労働時間は134時間43分、2カ月前が118時間52分、3カ月前が125時間58分。6カ月前まで毎月100時間を超えていた。
亡くなったのは運送業者「ライフサポート・エガワ」(東京都足立区)の埼玉県内の事業所で働いていた武田正臣さん。配送先の物流センターで意識を失い、2018年4月28日、致死性不整脈で死亡した。
今回の労災認定の特徴は、会社がつくった別会社での労働時間も合算して判断されたことだ。会見では武田さんの働き方について、3つの問題点が指摘された。
武田さんは、ほぼ毎日午前2時半までに出勤していた。通常は午後5時台に帰れたが、繁忙期は午後11時まで働いていたという。
しかし、タイムカードを押すのは、出勤後1時間~1時間半ほどかけて、荷物の積み込み(朝積)を終えてからだった。また、配達を終えて配送センターに戻ってからも、タイムカード打刻後に伝票処理をしたり、荷物の積み込み(宵積)をしたりしていたという。
労基署はタイムカードの打刻がない時間についても、記録から推測して加算したという。
今回の労災が申請されたのは2018年9月6日。残業時間の長さを考えれば、認定までに時間がかかった方と言えそうだ。認定を困難にしたのは、武田さんの仕事が2社にまたがっていたからだ。
エガワ社は2015年3月、別会社「エルエスサービス」を設立。エガワ社が運転業務を担い、エルエス社は運転以外の業務(荷積・荷降ろしなど)を担うよう、二つの会社で役割を分担する形をとった(この形式は2018年4月に廃止)。
1日の流れに沿って言えば、エルエス社の仕事として荷物を積み込み、エガワ社の仕事として客先まで運転、エルエス社として荷降ろしをして、エガワ社として配送センターに戻るといった具合だ。
代理人の蟹江鬼太郎弁護士は「社会保険料の負担を安くしようとしたのではないか」と推測する。
一体どういうことか。武田さんには、3つの給与明細が渡されていた。エガワ社とエルエス社、そして会社が分割されなかった場合をシミュレートした明細の3種類だ。
たとえば、2018年2月分を見ると、エガワ社側での社保控除は約2万3000円だが、エルエス社は0円。一方、会社を分割しなかった場合だと、約7万7000円の控除だった。
社会保険は労使折半だから、会社側の負担も軽くなっていることが分かる。労働者としても一時的な手取り額が増えるため、不満が出づらい側面もある。
一方、労災の面では、会社が2つに分かれてしまうと困難さが伴う。一般に労災認定では副業・複業について、労働時間を合算しないことになっているからだ。
今回、労基署は、エガワ社とエルエス社を実態として1つの会社だと認定し、武田さんの労災を認めた。
しかし、代理人の川人博弁護士は「これほど明確な事案でも労基署が慎重になった。実態がもう少し別会社のようになれば、残業規制や労災責任を免れるかもしれない」と懸念する。
川人弁護士によれば、別会社の設立には人事コンサルタント会社の助言があったといい、「こういった手法の会社は他にもあると思う」と警鐘を鳴らした。
働き方改革関連法により、2019年4月から単月100時間、複数月80時間などの残業時間の上限規制ができた。しかし、男性のような運送業界は、適用が5年間猶予となっている。
一方、2017、2018年度の労災認定(脳・心臓疾患)職種でもっとも多いのは運転手だ。過労運転は歩行者を巻き込むこともある。川人弁護士らは運送業についても、速やかに法規制をすべきと訴えた。
武田さんの妻は会見に際して、次のようにコメントを寄せた。
「労基署が実質的に1社だと認めてくれましたが、2社と判断されてしまえば労災と認定されない可能性がありました。2社分割にして会社のメリットを取るよりも、働く社員にとってどうすることが最善なのか考えて経営方針を決めてほしかったです」
「日本の企業の経営者の方々は、社員が『いってらっしゃい』と送り出した家族のもとに、『ただいま』ともどることができる働き方ができるように、過労死がなくなる努力をしていただきたいです」
エガワ社は、武田さんの労災が認められたことについて、「哀悼の意を示したい。会社として労災認定を真摯に受け止め、長時間労働の抑制に努めて参ります」とコメントした。