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常盤貴子が語る、19年ぶり日曜劇場主演『グッドワイフ』で得たもの 「ドラマの世界にまた興味が」

2019年07月26日 17:01  リアルサウンド

リアルサウンド

常盤貴子(撮影:伊藤惇)

 2019年1月から3月にかけてTBS系で放送された連続ドラマ『グッドワイフ』のBlu-ray&DVD-BOXが7月26日に発売された。アメリカの人気ドラマを日本でリメイクした本作は、専業主婦だった蓮見杏子が、夫の逮捕をきっかけに子供2人との生活を守るため、16年ぶりに弁護士として復帰するというストーリー。夫の壮一郎は検察庁の特捜部長だが汚職を疑われ、新聞記者との女性スキャンダルも判明する。杏子はその騒動によって世間から好奇の目で見られる中、司法修習生時代の同期であった多田を頼って、彼が共同代表を務める神山多田法律事務所に入り、さまざまな案件を担当していく。


参考:『グッドワイフ』常盤貴子と唐沢寿明、それぞれの「正義」とは 最終回は見事な逆転劇に


 今回リアルサウンド映画部では、杏子という役柄さながらに19年ぶりに日曜劇場で主演した常盤貴子にインタビュー。「クランクアップの瞬間、またやりたいと思った」という充実したドラマ出演について、じっくりと語ってもらった。


ーー常盤さんは『グッドワイフ』の前から裁判の傍聴に通っていらしたそうですね。


常盤貴子(以下、常盤):そうです。7年前、『松本清張没後20年特別企画 疑惑』(フジテレビ系)で弁護士を演じたとき、「一度、勉強のために」と思い、裁判の傍聴に行ってみました。すると、実際の裁判はドラマや映画で見てきたものとは全然、違ったんです。すべてのことが想像を超えていくというか、傍聴席の柵の向こうにいる検察官、裁判官、弁護士のみなさんが普段、私の周りにいないタイプの方々で、非常に興味深くて……。人間観察の面でも勉強になります。裁判の内容も、想像すらしないような事件が起きていて、「こういう場合、どんな判決が下るんだろう」と思いながら見守るうちに解決され、「なるほどー」と納得しますね。一日にいくつもの裁判を傍聴し、合間にお昼ご飯を裁判所の食堂で食べるぐらいハマってしまいました。


ーードラマの中では傍聴席に金髪の男性が座っていましたが……。


常盤:傍聴マニアの阿曽山大噴火さんです。第4話と第10話、2回も出てくださったんですよ。あれは本当に“ツボ”ですよね。もし、私が視聴者として見ても、「『グッドワイフ』ニクイね~。阿曽山さん本人、呼んじゃいますか?」と思うはず(笑)。傍聴に行ったときもしょっちゅうお見かけして、いくつもある法廷のひとつに入って阿曽山さんがいると「Yes!」と思っちゃいます。でも、私、本当にひっそりとスッピンで傍聴しているので絶対誰にも気づかれていないハズなのに、阿曽山さんは「気づいていた」とおっしゃっていました。本当かな?


ーーそんな傍聴の経験が、今回の弁護士役に活かされているのでしょうか?


常盤:ドラマでは現実のとおり演じるわけではありませんが、気持ちとしては「私のように傍聴によく行く役者が弁護士役で主演することは滅多にないだろうから、経験が少しでも活かせたらいいな」とは思っていました。例えば、第1話で杏子がニュースキャスターの日下部(武田鉄矢)と討論し、売り言葉に買い言葉になってしまう。あれが現実なら、弁護士としては失格じゃないですか。でも、塚原あゆ子監督と相談し、ドラマでは弁護士復帰したばかりだからということでそこから始め、その後の成長を演じるにはどうしていけばいいかという計算ができました。そういう意味では傍聴の経験があってよかったです。


ーー演技のテクニカルな面で法廷シーンは大変でしたか?


常盤:そうですね。長セリフが多くて、みんな“あっぷあっぷ”していたので、カットの声がかかると、「よかったよ」「スゴイね~」と褒めあっていました。誰かが間違えても責めない。明日はわが身なので(笑)。そういう大変さはあるんですが、とにかく撮影のスケジューリングがスムーズで、「最近の連ドラではこんなに穏やかに過ごせるんですか?」と聞きたかったぐらいです。事務所のセットで2日間撮影すると、1話分は撮れてしまうので、あとはロケに行くという感じで……。スタッフさんたちの段取りが見事でした。私も久しぶりの連ドラ主演で体力的な心配はありましたが、ありがたいことに、なんとかなりました。


ーー杏子は理不尽な状況に立ち向かう人ですよね。始めに夫の検事・壮一郎(唐沢寿明)が収賄と浮気の容疑をかけられ、さらに同僚である多田(小泉孝太郎)や円香(水原希子)にも秘密があり、彼らを信じられなくなります。


常盤:クランクイン前、最初の顔合わせのときに、壮一郎の裏設定を書いた紙が配られたんです。そのとき、私の野生の勘で「これ、見ちゃいけないやつだ!」と感じ、読まずに取っておいたんですが、そこにきっと円香の秘密も書いてあったんだと思います。でも、私は読んでなかったので、視聴者の皆さんと同じ段階を踏みながら、びっくりした。それは今でもよかったなと思っています。知らなかったからこそ、杏子として明らかになっていくことに悲しくなり憤りも感じた。いろんな疑惑について「この人はそう言っているけど、本当かな」と考えているその目線も、リアルな感情として芝居にできたんじゃないかと思います。


ーー杏子は強い女性でもあります。第6話では、もう離婚しようとまで思っている夫の弁護を買って出て、冤罪を晴らすため記者会見に臨みますね。


常盤:あの場面はひとつの転換点で、それまでは夫のことを遠ざけていたのに、その秘密を知るため、みずから敵の中に入っていきます。究極の選択ですよね。女って怖い。だから、女を怒らせちゃダメなんだって思いました(笑)。杏子が検事の脇坂(吉田鋼太郎)に「本当に女を怒らせたことがないんですね」と言うんですが、そのセリフがいろんな場面で頭の中をかけめぐりました。


ーー最終話、妻であり母としていろんなことに耐えてきた杏子が、「良い妻(グッドワイフ)を辞める」と宣言するラストが印象的でした。


常盤:私も思わず「お見事!」と唸ってしまったラストでした。あれは素晴らしいですよね。離婚という選択はアンハッピーにも見えるかもしれないけど、別の角度から見るとハッピー。杏子にとっては自分で決断したということが大きかっただろうし、壮一郎と子供たち、家族にとってはそこから始まる関係もあると思うし、今までの状態を続けていくよりハッピーな日々になるような気がします。家族4人、本当にいい笑顔で終われたのはよかったですね。


ーー共演者も豪華でした。夫・壮一郎役の唐沢寿明さん、多田弁護士役の小泉孝太郎さん、脇坂検事役の吉田鋼太郎さんについてお聞かせください。


常盤:唐沢さんには心身ともにサポートしていただきました。先輩、ずっと主演をしているので、その立場の大変さを分かってくださっていて、私の咳が止まらなくなったときにも、サッと良い薬を渡してくださって、本当に頼りになる先輩です。トークが面白いし、芝居になると真面目だし、完璧ですね。孝太郎さんは知れば知るほど分からなくなってくる人で、不思議な魅力があります。中盤、多田が杏子にアプローチしてくる場面もありましたが、その直後でも普通に穏やかな感じでお話していました。そして、もうひとりの“鋼太郎さん”も紳士ですが、芝居となると圧がある(笑)。私としては同じところで勝負しても……というのがあるから、自分らしいさじ加減を考えていました。鋼太郎さんと対決する場面では、気持ちが忙しくなるというか、「(演技の引き算を)どうしよう」と考えるので緊張感がありましたね。


ーー終盤は水原希子さん演じる円香と決裂し、しかし、憎しみを乗り越えるという流れが感動的でした。


常盤:希子ちゃんのこと大好きなんです。私とも仲良くしてくれて、いろんな話をしたし、本当に友達みたいな感じでした。やっぱりそこは女同士ですからね。第8話で決裂する場面は、希子ちゃんのことが大好きだからこそ、余計に辛く感じました。台本読んでから、2人でずっと「あのシーンを演じるの、嫌だね」と言っていて、周りのみんなもそれを理解してくれるぐらいだったので、そういう意味では、杏子も円香のことをすごく好きになっていたわけで、リアルに演じられたのではないかと思います。


ーーこのドラマで第15回コンフィデンスアワード・ドラマ賞主演女優賞を受賞しました。19年ぶりに日曜劇場枠で主演し得たものはなんでしょう?


常盤:連続ドラマでは恋愛ものも母親役などでも、ある程度のことは経験してきてしまったので、自分が「それでもやりたい」と感じることはもうないと思っていたんですね。けれど、今回、『グッドワイフ』のお話をいただいて、さまざまな障害を乗り越えてでも挑戦してみたい!と思いました。いざ飛び込んでみると、「こんなふうにドラマを作ってくれる人たちが、今、テレビの世界にいるんだ」ということがわかって、驚きました。ですから、プロデューサー、監督、脚本の篠崎絵里子さん、技術、美術、素晴らしいスタッフを知り得たということが一番大きいですね。ドラマの世界にまた興味を持って知っていきたくなりました。クランクアップの瞬間は、無事に終わってただただ安心という感じ。同時に、キャストもスタッフも名残惜しさが半端なくて、「このまま続きを延々やれるよね」とみんなで言い合っていました。終わった瞬間から「またやりたい」と思うことができるなんて、すごく幸せなドラマですよね。(取材・文=小田慶子)