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山田裕貴の人間くささがにじみ出る名演 『なつぞら』なつと雪次郎の強固な友情

2019年07月26日 12:11  リアルサウンド

リアルサウンド

『なつぞら』画像提供=NHK

 出演者が『なつぞら』(NHK総合)ならぬ『ゆきぞら』とまで言うほど、雪次郎(山田裕貴)が翻弄される第17週。7月26日放送の第101話では、雪次郎が失意の底に叩き落とされた。


参考:『なつぞら』第102話では、北海道に現れた雪次郎(山田裕貴)が天陽(吉沢亮)の元へ


 蘭子(鈴木杏樹)の家で、蘭子に好きだという気持ちを伝えた雪次郎。虻田に新しい劇団を作ろうと誘われていたことも明かし、「新しい劇団を作るなら蘭子さんと作りたいんです」と止まらない気持ちをぶつける。


 だが、その告白に返ってきた言葉は思いもよらぬものだった。大きく高笑いをし、「あなたの演技は最悪だった」、「気持ち悪いったらありゃしないわ」、「アマチュアはアマチュアらしくね」と心ない言葉を浴びせる蘭子。まるで舞台上のように、罵声を何発も打ち込んでいく。


 しかし、雪次郎が去ったあと蘭子は号哭する。ワインをくゆらせ後ろ姿を震わせる姿は朝ドラならぬ昼ドラのようであった。


 失意の中、雪次郎は風車を訪れる。お酒を注文する姿に何かを感じ取るなつ(広瀬すず)。結局朝まで雪次郎はやけ酒に溺れる。親の反対を押し切ってまで、演劇の道に進んだ雪次郎にとって、蘭子はその原体験そのものだったのだ。憧れの存在に「あなたとはもう何も一緒にできない」と言われるということは表現者として絶望の淵に叩き落とされたも同然だろう。


 そんな雪次郎を支えるのが、なつだ。雪次郎は序盤の第3週から登場し続けており、なつに周囲で一番近い男性キャラクターなのだ。その割には、この2人が恋仲になるような気配もなく、北海道から出てきた同志として、そして表現者として、硬い友情関係で結ばれていることを感じさせる。


 そんななつが、雪次郎の助けになる。何も聞かずに朝までお酒に付き合い、朝には「水飲む?」と促し、雪次郎の独白を正面から受け止める。この第17週ではなつも26歳になり、広瀬すずの演技アプローチにも少し変化が見て取れる。周囲から見守られることが多かったなつが、見守る立場にもなっていることを感じさせる一コマだった。


 そして雪次郎の独白は、まさに山田裕貴劇場である。今週において最も熱を帯びたシーンではないだろうか。他の作品でも恋に破れる役が多い山田裕貴だが、傷ついた人間が見せるそこはかとない人間くささを見事に表現した名演であった。山田裕貴は恋に破れた男の独白を演じたら、当代一なのだ。


 去り際に「亜矢美さんは咲太郎さんのこと 好きなんでないかい? 男として」と言い残す雪次郎。亜矢美(山口智子)、マダム(比嘉愛未)、咲太郎(岡田将生)を巡る恋模様もこれから期待できそうだ。


(文=安田周平)