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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第9回】開幕仕様に戻して復調気配も2度目の同士討ちに怒り心頭。首脳陣とともに急きょダラーラ社&マラネロへ

2019年07月25日 22:51  AUTOSPORT web

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イギリスGPをリタイアで終えたマグヌッセン
今シーズンで4年目を迎えるハースF1チームと小松礼雄チーフレースエンジニア。第10戦イギリスGPでは、スタート直後にチームメイト同士で接触を喫してしまい、ハースは2台揃ってリタイアという結果に終わった。

 苦戦が続くなか復調の兆しが見えたシルバーストンだったが、データ収集もままならない週末にフラストレーションは募るばかり。そんな現場の事情を、小松エンジニアがお届けします。

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 今回のイギリスGPはこれまでの3レースほど気温も上がらず(決勝日は18度)、シルバーストンのコース特性がウチのクルマに合っていたこともあって、金曜日のフリー走行からガソリンを多く積んで走った際のペースも良かったです。

 予選でもQ3に進めると思っていたので、ケビン(マグヌッセン)が16番手、ロマン(グロージャン)が14番手という結果は残念でした。ケビンはQ1でクルマのバランスがFP3からガラッと変わってしまい、タイムを出せませんでした。

 逆にロマンのQ1はとても良かったです。9番手で通過したのですが、まだまだ伸びしろがあったのでQ2では良い戦いができると思っていました。Q2では風の変化もあり、ほとんどのドライバーがQ1のタイムを更新することができませんでしたが、ロマンも例外ではなく、他のドライバーよりも更にタイムの落ちが大きかったので14番手という期待外れの結果となってしまいました。

 しかし、予選結果がこの位置からでもレースペースに自信を持っていましたし、みんながタイヤの磨耗に苦しむなかでもウチの状況は比較的良かったので、決勝レースでは1ストップ作戦で走りきれると思っていましたし、2ストップ作戦を採るチームを逆転する自信がありました。

 ただこのように良い展開になりそうなレースで1周目にウチのふたりのドライバーがぶつかり、この接触によるダメージが原因で結局2台ともリタイアとなってしまい、すごくもったいなかったです。

 ふたりともタイヤを交換して再度コースへ出て行くことができましたが、ピットに戻ってくるまでの間に、パンクしたタイヤによってフロアやブレーキダクトなどの繊細な空力パーツが壊されたことが原因でリヤのダウンフォースが失われ、マシンバランスが変わってしまいました。とても安全に走れる状況ではなかったのでリタイアする決断を下しました。

 また今回は、ロマンのクルマを開幕戦仕様の空力で走らせていました。金曜日と土曜日はデータを採れていたので、日曜日に風向きが変わったなかで52周のレースを走り切るというのは、ポイントを獲得するかどうかにかかわらずデータを集めるうえで重要なことでした。

 そういう面を考えても、このような結果は受け入れ難いものです。また本来ならば、シルバーストンで集めたデータを解析したうえでミーティングをしようと思っていたのですが、その予定も狂ってしまいました。

 これまでも2台がリタイアに終わったレースはありましたが、その場合、僕は通常ピットウォールに残ってレースを最後まで見ながら、他のチームの戦い方から学べることを学びます。しかし今回はギュンター(シュタイナー/チーム代表)に呼ばれて、すぐにピットウォールを下りて、モーターホームにある彼のオフィスへ行き、ふたりでミーティングしました。

 過去3レース(カナダ、フランス、オーストリア)は、今のクルマの状況ではどんなにうまくやってもなかなか結果につなげるのが難しいレースでしたが、今回のシルバーストンではやっとコンディションもコース特性も合い、良い結果を出せそうでした。そんな矢先にあろうことかふたりが1周目にぶつかったのです。第5戦スペインGPでふたりが接触した後に、こういうことは2度とあってはいけないとはっきりさせていましたから、なおさらです。

■「難しい問題は、実際に顔を合わせて話すべき」急きょダラーラ&マラネロへ

 僕の経験でこれほど苦労したシーズンといえば、パワーユニット(PU)が導入された2014年です。この年僕たち(当時ロータス)はルノーのPUを使用していましたが、プレシーズンテストは問題だらけでほとんど走れず、開幕戦オーストリアGPではリタイアしました。

 第3戦バーレーンGPあたりでなんとか走れるようになったのですが、その後のインシーズンテストなども大変でした。あの当時はロマンのレースエンジニアだったので、僕はチーム全体のことを考えるというよりも、自分の担当するクルマをどうにか走らせることで精一杯でした。ですからロマンのクルマのこと以外は首脳陣に任せていました。

 厳しい状況のなかでチーム全体の士気を保つということまで考えてやっていたのは、チーフレースエンジニアになった2015年です。この年はメルセデスのPUを使っていたのでエンジンは良かったけれど、その当時のチームオーナーのやり方が酷かったので、レースに必要な資金がまったくありませんでした。

 たとえばハンガリーGPでは、ピレリにお金を払っていなかったので、金曜日のフリー走行1時間前のミーティングが始まってもタイヤがありませんでした。最終的にタイヤが届いたのは、走行開始の30分前くらいだったと思います。ベルギーGPでは以前契約していたドライバーに訴訟を起こされて、クルマを差し押さえられたこともありました。

 それから日本GPでもお金を払っていなかったので、サーキットに到着してもしばらくモーターホームに入れませんでした……。ガレージの外で座って食事をしていたら、バーニー(エクレストン/当時のF1最高経営責任者)がそれ見兼ねて、食事の場所を提供してくれたくらいです。

 この年はチーフレースエンジニアの立場だったので、難しい状況の時こそチームが崩壊しないようにまとめなければいけないと考えていて、そこが前年との大きな違いでした。僕が唯一心がけていたのは、自分にできることは限られているけれど、きちんとした姿勢でオーナーたちに対処していれば、少なくとも僕のレベルまではチームの状況をちゃんと理解してどうにかしようとしているということを他のスタッフたちはわかってくれるかな、ということでした。

 今のハースは、2014年や2015年とは違いますが、また別の厳しい状況にあります。うちは小さいチームなので、限られた人数のなかで問題意識を共通させることは簡単なように見えますが、実はなかなかできていない。これができないと、チームとして前に進むのが本当に大変です。またウチは設計や空力を担当している人たちはイタリアにいるので、そういう意味でもコミュニケーションは簡単ではありません。

 なのでイギリスGP明けからギュンターとイタリアに行って、デザイナーたちや空力担当のスタッフらと話し合いをしました。イタリアと一言に言っても、デザイナーはダラーラの事務所で仕事をしているし、空力エンジニアはマラネロの事務所にいるので、これまたすべての人たちと一度に話すことは難しいんです。ビデオ会議などは常に活用していますが、やはり問題が難しかったり繊細になればなるほど実際に顔を突き合わせて話し合わないとダメですね。時間はかかりましたが、行った意味は十分にあったと思っています。

 次の第11戦ドイツGPも暑かったり雨だったりと大変だとは思いますが、ドイツでもシルバーストンと同様に、ロマンのクルマをメルボルン仕様で走らせて、データ収集を続ける予定です。ケビンのクルマはイギリスGP仕様からドイツGP仕様にアップデートして、これがしっかりと機能しているかどうかきちんと見極めなければいけません。やること満載ですが、目標は常にダブル入賞です。