2019年07月25日 15:12 弁護士ドットコム
同性カップルの結婚が認められないことは人権侵害にあたるとして、日本弁護士連合会(日弁連)は7月25日、国に同性婚の法制化を求める意見書を提出した。意見書は、当事者ら455人が2015年7月、日弁連に国会や法務大臣などに対して同性婚の法制化を勧告するよう求めた申立を受けてのもの。意見書は内閣総理大臣や法務大臣、衆議院、参議院に提出された。
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日弁連では、「性的指向が同性に向く人々は、互いを配偶者と認められないことによる各種の不利益を被っている」として、「これは、婚姻の自由を侵害し、法の下の平等に違反するものであり、憲法13条、14条に照らし重大な人権侵害と言うべきである」と指摘。速やかな法改正を求めている。同性婚をめぐっては今年2月、東京や大阪など4つの地裁で、当事者らが国を相手に同性婚を求めて集団提訴している。
また、「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立」するという憲法24条1項について、日弁連は、「憲法の制定当時は同性愛を想定していなかった」などとして、同性婚を法律で認めることを禁止せず、「むしろ許容している」と結論づけた。
日弁連では意見書の公表に先立ち、会見を行なった。意見書では、憲法からみた同性婚についてだけでなく、世界的な動向や国際機関からの勧告などについても触れている。ポイントは次の通り。
【同性婚と憲法13条(婚姻の自由)】
・同性カップルも異性カップルと同様に人格的生存に深く関わる価値を有する。そのため、同性カップルにも、自己決定権としての婚姻の自由が保障されるべきことは明らか。
【同性婚と憲法14条(法の下の平等)】
・現在、法律上の婚姻をした夫婦には、民法だけではなく、様々な法令上の利益や社会生活上の有形無形の便益が与えられている。しかし、同性同士の場合には、どんなに親密で人格的な関係を築いても、法律上の婚姻が認められていない以上、これらの法的利益や社会的便益を享受することはできない。同性婚を認めないという別異の取り扱いは、重要な権利利益について大きな違いをもたらしていることからも、厳格に審査されるべき。
・同性との婚姻を認めない理由を正当化するものとして、同性婚を認めることは、婚姻の意義を生殖と子の養育を目的とする異性婚を当然のものとしてきた、いわゆる歴史的、伝統的結婚観を根底から覆し、婚姻制度を大幅に変更することになり、許されないという考え方がある。しかし、そもそも、子どもを産み育てるかどうかは、最も私的な領域に属することであり、人としての生き方の根幹に関わり、憲法13条の自己決定権として、またリプロダクティブ・ライツ(性と生殖に関する健康・権利)として保障される。そのため、いわゆる歴史的、伝統的結婚観による婚姻の意義を生殖と子の養育を目的とするものと限定することは、正当な理由としてなり得ない。
・同性婚を認めることは、民法が禁止している重婚なども認めざるを得ないと懸念を示す論者もいるが、重婚の禁止の趣旨は、婚姻が一対一の結合をその本質とすることにあり、そもそも許されるべきものではない。同性婚を認めることとは全く次元を異にする。
・現在の婚姻制度は男女を前提にしており、同性婚には適用できない規定もあり、民法やそのほかの法令の改正には困難が伴い、同性婚を認めれば、行政手続きに混乱が生じるという考え方がある。しかし、アメリカをはじめ、同性婚を認めた国々で、同性婚が認められたことによって、手続き的な混乱が生じたという報告は特にされていない。
・こうした理由から、法制度上同性婚を認めないことは、憲法14条の定める平等原則に反するものである。
【憲法24条における同性婚】
・憲法24条1項に「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」とある。「両性の同意」という文言が用いられていることから、同性間の合意による婚姻は、両性の合意を欠くものとして、憲法上、許容されていないのかが問題となる。
・選択的夫婦別姓訴訟の最高裁判決(2015年12月)では、憲法24条1項について「婚姻するかどうか、いつ誰と婚姻するかについては、当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねられるべきであるという趣旨を明らかにしたと解される」と判示した。つまり、婚姻は当事者の自由かつ平等な意思決定に委ねられるべきもので、同性婚を禁止する趣旨ではない。
・憲法の制定当時、同性愛は精神障害として治療の対象とされていた時代であり、同性婚を想定するようなことはあり得なかった。当然、憲法制定会議の議論においても、同性婚を禁止すべきか否かが議論されることもなかった。
・したがって、憲法24条は同性婚を法律で認めることを禁止しておらず、その基本的な趣旨に照らせばむしろ、許容しているものと考えるべきである。
また、意見書では同性パートナーシップについては、「各国で社会的歴史的に積極的な役割を果たしてきた点は評価できる」としながらも、平等の観点からは不十分であり、「同性愛者に対する差別や偏見を助長するおそれをはらんでいる点に留意せざるをえない」と指摘。自治体が同性パートナーシップ制度を導入したとしても、婚姻制度とは異なり、憲法14条の平等原則違反が解消されるものではないとしている。
意見書をまとめるまでに、日弁連では申立人のうち、23人にヒアリング調査を実施。どのような不利益があるかなどについて、聞き取りを行なった。申立から4年という歳月がかかったが、意見書は、20ページを超えるボリュームで、同性婚に対する反対意見までもつぶさに検討された。現在、全国で争われている同性婚を求める集団訴訟にも影響するとみられる。
この意見書を受け、申立を行なった同性婚人権救済弁護団は7月25日、「日弁連が申立人の同性婚を求める切実な声にきちんと声を傾け、事件侵害の実態をしっかりと把握し、4年間に慎重な議論を重ねたて、極めて適切かつ妥当な意見を社会に顕したことに、敬意を表する」というコメントを発表している。