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BEYOOOOONDS、なぜMVが次々話題に? 人気ハロプロ作品と共通する3つのキーワードから解説

2019年07月25日 11:31  リアルサウンド

リアルサウンド

BEYOOOOONDS『眼鏡の男の子/ニッポンノD・N・A! /Go Waist』(通常盤A)

 ハロプロ作品が大きな反響を呼ぶとき。それは結論から言えば「安心」「中毒性」「トンチキ」のいずれかが、作品内においてとびぬけて高くなっているときなのである。まずBEYOOOOONDSのメジャーデビューシングルに収録される3作品の中で、ファンにもっとも「安心」を感じさせてくれる楽曲といえば「眼鏡の男の子」だ。


(関連:モー娘。’19、アンジュルム…各グループの平均年齢も算出 ハロプロメンバー学年別分類2019年版


 しかも「眼鏡の男の子」の場合は、その「安心」の理由も、MVを通じて過去最高にわかりやすい形で表にでてくる。ヒントは再生して20秒で出てくる少女漫画の単行本。そう、ハロプロの楽曲とはつんく♂プロデュース時代から一貫して、いつの時代も「少女漫画」の目線でストーリーが動いていくのだ。


 ハロプロ作品には、少年漫画のヒロインのように男性目線の欲求も含めて描かれる48グループや、青年漫画のどこか憂いを帯びた美女を思わせる46グループとはまた違う、ハロプロ独自の女性像が存在する。安倍なつみや後藤真希ら黄金期メンバーの時代から脈々と受け継がれてきた「少女漫画っぽさ」、その伝統を見事に表現しきっている作品に出会ったときに、ハロプロリスナーは無意識に「安心」を覚えていくのである。


 ちなみにまだ辻希美、加護亜依がギリギリ在籍していた時期のモーニング娘。シングルで、やはりメンバーが漫画チックなやりとりを繰り広げる「女子かしまし物語」(2004年)という密かな人気作品があるのだが、「眼鏡の男の子」はそのMVをオマージュして制作されているという点も、かなり興味深い。


 続けてBEYOOOOONDSで「中毒性」を感じさせる楽曲といえば、『ニッポンノD・N・A!』がその要件を満たしているように思う。


 小気味いいユーロビートにあまり深い意味を感じさせない歌詞、思わず口ずさんでしまう「D・N・A!」の決めゼリフ……この辺りは言ってしまえば昨年大ヒットしたDA PUMP「U.S.A.」とかなり構造が似ているのだが、ただそこには件の「U.S.A.」が”ハロプロっぽい中毒性がある”という口コミから拡散が始まり、後のブレイクに繋がっていった時系列がある。


 つまりハロプロにしてみれば「中毒性」とは、「U.S.A.」以前から連綿と続く、自分たちの真っ当なアイデンティティのひとつなのである。そして今回の「ニッポンノD・N・A!」の場合は、楽曲だけでなくMVにおいても、思わずリピートしたくなるような仕掛けがたくさん提供されている。それはイントロの力が入ったラップシーンに始まり、会社の廊下を賑やかに駆け抜けていくメンバーの姿、また人によっては曲中に突然始まる「未成年の主張」のパロディシーンを例として挙げる人もいるだろう。


 ちなみにあのパロディシーンを見て「未成年の主張だ」とすぐ気づけてしまった方、元ネタの人気バラエティ番組『学校へ行こう!』(TBS系)はレギュラー放送が1997年から2005年と、もう15年以上前の話である。すなわち1999年から2004年生まれで構成されているBEYOOOOONDSメンバーは実際のところ、リアルタイムの「未成年の主張」をほぼ知らない可能性が高いのだ。


 そしてこの事実を知ることにより、余計際立ってくる作品の”深い意味のなさ”と”思わず言いたくなってしまう決めゼリフ”。その存在を思うとやはり「ニッポンノD・N・A!」はMVからしても、立派に「中毒性」の高いハロプロ作品に仕上がっているのである。


 そして、ハロプロならではの「トンチキ」を最高に感じさせてくれるのは「Go Waist」。察しの通り、原曲は1979年にアメリカのVillage Peopleが発表したあの有名な「Go West」である(クレジットにも記載あり)。


 ダイエットを主題にした歌詞自体は(近年ハロプロのオリジナル作品にも多数参加している)作詞家・児玉雨子の提供ということもあり、「愛されたい」「自分のことを好きになりたい」というハロプロおなじみのテーマが散りばめられた、ある意味王道と表現してもいい内容だ。


 しかし以前、やはり先輩のBerryz工房が同じダイエットをテーマにして歌っていた「1億3千万総ダイエット王国」(2014年)と比べると、2019年のBEYOOOOONDSは思いっきり「トンチキ」の方へと爆走する。MVを見比べれば、両者のゴールがまるで違っているのが一発で理解できるだろう。


 その“ゴールの違い“とは、ある意味プラチナ期のモーニング娘。やBerryz工房、℃-uteが記憶の中のアイドルグループとなってしまった2019年において、「ハロプロは高いレベルのアイドル・パフォーマンス集団である」という評価が、すでに隅々まで伝え届いているゆえの選択肢だったのかもしれない。


 またもうひとつ、見方を変えればどこを切り取っても印象に残る「120%全力のトンチキ」は、口コミの積み重ねがブレイクへと繋がっていくSNS時代に生を受けた彼女たちだからこそ、用意されていた道とも見ることができる。


 近年のハロプロは、下部組織であるハロプロ研修生からの昇格がかなり多くなっていた。現に記事執筆現在のデビューグループ所属者全50名のうち、約8割(計39名)がハロプロ研修生出身者になっている。


 これは2010年代にハロプロがパフォーマンスという切り口で世間から再評価されていったことを踏まえれば、ハロプロ研修生という英才教育システムを受けた者たちが優先的に次代の看板を背負っていくのは、ある意味当然の流れであった。ただパフォーマンス時代以前、素人集団からスタートしたハロプロを知っているファンにしてみれば、アイドル未経験者による奇跡的な化学反応が減ってしまい、どこか寂しさがあったのも事実だ。


 しかしその中で、今回デビューが決まったBEYOOOOONDSは従来の元気さや幼さだけでなく、一芸を高く評価する一般オーディションを開催し、結果としてピアニストや10年以上のダンス経験者として確かな実績を残してきた計3名を正規メンバーとして迎え入れている。つまりBEYOOOOONDSとはパフォーマンス集団・ハロプロのプライドを徹底的に教え込まれてきたメンバーと、その評価に負けない個別能力をもったアイドル未経験者による、完全未知の集合体なのだ。


 そう考えるとメジャーデビュー作品を通じたBEYOOOOONDSへの反響は、そのまま「令和のハロプロ」の始まりに寄せられた、ファンの無数の期待でもあるように感じる。そしてその中のひとりとしては、やはりBEYOOOOONDSにはこのまま”異例”を恐れずに、どうか自分たちのアイドル道を変幻自在に突き進んでいってほしいと、そう願っている。(乗田綾子)