2019年07月25日 10:21 弁護士ドットコム
「中学校でPTAの加入意志の確認がないまま、PTA会費を払うよう言われました」。東京都足立区に住む40代女性から、こんな疑問が弁護士ドットコムのLINEに寄せられました。
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女性によると、PTA会費の封筒は学校から子どもを通じて配られ、「支払い日厳守」と書かれていました。「子どもに不利益が及ぶと怖い」と会費だけは払ったそうです。
PTA会費に関する疑問は、弁護士ドットコムの法律相談にも複数寄せられています。
子どもが公立小に通う女性は、入学説明会で「保護者は全員PTA会員です」と説明されたそう。その後、PTA会費や給食費も含んだ「校納金引き落とし口座」を学校に届け出たところ、PTA会費も自動的に引き落とされてしまい「納得できません」と憤ります。
別の男性も、公立小中学校の入学案内に、入学案内に諸経費として給食費などと共にPTA会費が記載されていました。しかし、PTAが任意参加の団体であることは一切書かれておらず、別途申込書のようなものもなかったそうです。
こうした「会費強制」は法的にはどう考えられるのでしょうか。東京都内の公立小学校でPTA会長を務める岡田卓巳弁護士に聞きました。
PTAは強制加入なのでしょうか。
「昨今はマスコミなどを通じて周知されるようになりましたが、PTAは任意加入団体です。
日本国憲法は結社の自由を保障しており、これには自分の望まない団体に加入させられない権利も含まれます。弁護士会など法律で強制加入が定められている場合を除いて、あらゆる団体は任意加入が原則であり、PTAも同様です。
したがって、その人の意思に反してPTAへの加入を強制したり、会費を徴収したりすることは許されませんし、いつでも自由に脱退できなければなりません。
少なくとも入退会の手続は規約などで定めておくべきですし、会費の引き落としも、在校生であれば当然支払わなければならない給食費などの校納金とは区別することが望ましいといえます」
岡田弁護士自身も小学校のPTA会長を務めています。PTA運営側はどうすべきでしょうか。
「私自身が現役のPTA会長であるという立場から申し上げれば、学校に保護者の要望を伝えたり、学校行事のお手伝いをしたりするには、バラバラの保護者ではなく、PTAとして行動した方が大きな成果を実現できます。それは結果的に子どもたちのためにもなるはずです。
だからこそ、PTAは、その存在意義やメリットを保護者に分かりやすく説明して、あくまでも任意に、全保護者に加入してもらえるように努めなければならないと思います」
PTAについて、裁判ではどのような判断がされているのでしょうか。
「過去には、小学校のPTAを巡り、学校から会費納入袋が配布されたために支払わなければならないと誤信して支払ったとして、熊本県の保護者がPTAに対し、会費の返還を求めた裁判がありました。
裁判所は、会費納入袋には『PTA会費納入袋』と明記されていたことなどから、「入会していたと認めるのが相当」として保護者の請求を棄却しています(熊本地方裁判所判決平成28年2月25日)。
この訴訟は2017年2月、福岡高裁で和解しました。和解条項には、保護者に対して入退会自由な任意団体であることを十分に周知することや、知らぬまま入会させられたり、PTA退会を不当に妨げられたりすることがないように努めることなどが盛り込まれました。
誤信があっても入会申込は有効だと判断した一審判決は、各地のPTAの現状を踏まえれば穏当な内容だったかもしれません。ただ、入会の申込と承諾も契約である以上、内容や条件を正しく理解しないまま入会申込をしたのであれば、法的には無効だと判断されてもおかしくありません。
控訴審の和解条項に盛り込まれた事項は、法的にはいわば当然の内容です。PTAに携わる人の中には、『簡単なことではない』などと感じる方がいるかもしれませんが、いずれもPTAという組織には欠かせない前提事項だということを、ぜひ理解してもらいたいと思います」
【取材協力弁護士】
岡田 卓巳(おかだ・たくみ)弁護士
東京弁護士会所属。不動産に関する事件などの他に、前職の経験を活かしてITやシステム開発に関する事件を多く取り扱う。二女の通う小学校のPTA会長を務めて3年目。趣味はシングルモルトとトイプードルと神輿。
事務所名:志賀・飯田・岡田法律事務所
事務所URL:http://www.s-i-olaw.com/