ドライバーやメカニック、チーム関係者をはじめ、さまざまな職種の人たちが携わっているモータースポーツの世界。ドライバーなど、目につきやすい職種以外にも、陽の目を浴びない裏方としてモータースポーツを支えている人たちが大勢いる。そこで、この連載ではレース界の仕事にスポットを当て、その業務内容や、やりがいを紹介していく。
第1回目はレーシングチームを支える仕事のひとつであるチームマネージャー業だ。そのなかでも、今回は2018年にスーパーGT GT500でシリーズチャンピオンを獲得したTEAM KUNIMITSUで、現場に近い立場のチームマネージャー業を務める水村リアさんに話を聞いた。
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■マネージャー業務は事前準備から大忙し
レーシングチームには、監督やドライバーはもちろん、エンジニア、メカニック、マネージャー、レースクイーンなど様々なスタッフで構成されている。今回は、チームマネージャーをピックアップしインタビューを決行した。
2018年、山本尚貴とジェンソン・バトンのコンビでチーム史上初となるチームタイトルとドライバーズタイトルの二冠を達成したTEAM KUNIMITSU。そんなチャンピオンチームに2019年から加わり、チームマネージャーを務めている水村さん。
チームマネージャーの役割について尋ねると、「みなさんが想像するチームマネージャーは、サーキットに来てドライバーの装備品をチェックしたり、ドライバー交代時のケアをしたりというイメージだと思いますが、この仕事に就いてわかったことは、事前の準備がほぼほぼメインの仕事だということです」という。
事前の準備とは、具体的に「大会の参加受付申請や、毎戦ごとにチームメンバーが加入する保険の申請をするなど、レースに参戦するための準備をしています」とこう続ける。
「レース前に取材のスケジュールを調整して(ドライバーや監督に)お伝えするなど、スケジュールの調整作業も多いですね。そのほか、国さん(高橋国光総監督)のスケジュール管理もしています」
「ほかに、スポンサーさんにホスピタリティの場所をご案内したり、シーズンがはじまる前にピットウォークで配るグッズの打ち合わせをしたりもします」
「私たちは今年からチームでレースクイーンの(スケジュール)管理をしているので、レースクイーンのスケジュールを決めて事務所に連絡しますし、あとはチームのウェブサイトの更新の手配なども私がやっています」
「レース前には物販の告知や、レースのプレビューレポートを出したりしています。(みなさんが想像するより)地味な作業が多いんですよ(苦笑)」
レースウイーク以外にも、さまざまな作業をこなしているといい、例えばレース終了後にはレポートの掲載や、スポンサーなどチームをサポートしてくれた方々へ写真を送る作業、細かなところでは請求書の作成といった作業に追われるそう。
2019年のスーパーGTは4月から11月まで、月に1戦前後のペースで開催されており、事前準備と事後の作業が多く、職場には週5で通っているという。
■チームマネージャーのサーキットでの業務とは?
サーキットにも足を運びチームの運営をサポートするマネージャー。レースウイークはふたりのチームマネージャーでピットとホスピタリティなどで分担して働くという。
水村さんは「(サーキットでは)チームがレースを戦いやすい環境を作ることが、メインの仕事になりますね。現場(サーキット)ではスポンサーさんとしっかりコミュニケーションを取ることが一番大きい(仕事)かもしれないです」と語る。
「現場で(ファンの人たちが)見ているような作業は、TEAM KUNIMITSUでは別の方がメインで担当しているので、私はあまり関わらないです」
レース中継などでドライバーにヘルメットなどの装具やドリンクを渡している“チームマネージャー”の仕事は、だれが担っているのだろうか。
「私が知っているチームだと、チームマネージャーはだいたいふたり。ふたりが社内も現場も一緒にやっているところが多いですけど、私たちの場合、社内は私ひとりで、普段(マシンのメンテナンスを行う)ATJで働いている人が現場のマネージャーをしている感じですね。仕事の分担は違うと思いますが、(どのチームも)だいたいふたりはいないと回らないです」
レースウイーク中は、マネージャー業をふたりで分担しているとはいえ、過密スケジュールをこなしていかなければならない。
「朝から夕方まで立ちっぱなし、動きっぱなしですね。ホスピタリティが落ち着いてる時はピットが忙しかったりするので、休む暇は多くないですね。でも、体力があるんだと思いますけど、意外と大丈夫なんですよ」
「(搬入日の)金曜日は余裕がありますが、やることがなくてもなぜか座って休む気になれないんですよ(笑)」
「マネージャーでも、もっと忙しい人はいると思います。GT300クラスのチームマネージャーは、ひとりだけのところもあり、業務を兼任しないといけないから、もっと大変な人がいるはずです」
これだけ多忙な水村さんは、ホテルに戻るとすぐ寝てしまうというが、レースウイークの息抜きとして、一日の終わりに必ずアイスを食べることにしているのだとか。
チームマネージャーを担当していて一番大変なことは「レースの結果や、チームや選手の調子があまり良くないとき」だという。
「チームが辛そうだと、こちらも辛くなるし、リタイアした時が一番辛いですね」
「逆にうれしいなと思うのはチームが勝ったときはもちろんですけど、チームに所属するドライバーが優勝したときもそうです。素直に『すごいな』と思いますし、単純にうれしいです。私が関わっている選手や人たちが他の場所でも活躍しているのを見ると、自分のモチベーションにもつながりますね」
■必要不可欠な“コミュニケーションスキル”は何よりもメインに
こう語る水村さんにチームマネージャーに必要だと思うスキルを聞くと、「コミュニケーション能力ですね」という答えが返ってきた。多忙ななかでもチーム全体の配慮を忘れずチームを円滑に回していかなければならない。
「来て頂けるスポンサーさんやお客さんに、どれだけサーキットという現場を楽しんでもらえるかが、チームの運営体制向上につながったりするので、(コミュニケーションを)メインに考えています」
「スポンサーだけでなく、チームともしっかりコミュニケーションをとり、両方をバランスよくとることが必要だと思います。パソコン作業のエクセル、ワードなども必要なスキルですね。私は苦手なんですけど、やりながら覚えていっています」
バイリンガルの水村さんは「今まで携わってきたチームの外国人ドライバーは、窮屈そうにしてシーズンを終えていくのを何人か見たので、そういう思いをさせたくはなくて、英語でコミュニケーションをとってあげます。スーパーGTも国際化しているので(英語のスキルも)あった方がいいと思います」という。
将来、チームマネージャーを目指す人に向けて、水村さんは「レースを好きでいることが一番だと思うので、どれだけの人がチームに関わっているなどを知っておくといいです」とアドバイスする。
「どういう時に、どう気を配って、(雰囲気を)調整するべきかを知らないと、うまく務められません。お客さんとしてサーキットに来るとなかなか見えない部分も多いかも知れませんけど、レースの現場で働いている人をちゃんと見ておくといいですね」
そんなチームマネージャーの給料は、「一般的なOLよりは少し良いくらい」だという。水村さんは、スーパーフォーミュラのオフィシャルステージMCなども兼業しているため、「貯金もできるくらいです」と語った。
最後に水村さんにとってチームマネージャーとはどのような仕事かを尋ねると、「レース好きにとってはすごくやりがいのある仕事です」と答えた。
「稼働している時間が長いので、体力はないと辛いですし、自分のためにやる仕事ではないので、やりがいを感じていないと続けられない仕事ですね。やっていて本当に楽しいですし、いろんな仕事をしてきましたけど一番やりがいを感じていますよ」
レーシングチームの一員になることに強い憧れをもつ人は少なくないだろう。チームマネージャーは、事前準備からレース後までの多数な作業をこなすことはもちろん、チームに気配りができ、コミュニケーションをとれる能力が必要だとわかった。「すごくやりがいのある仕事」と水村さんが語るようにチームマネージャー職のやりがいは十分。レースが好きで、誰とでもコミュニケーションがとれる自信のある人は、目指してみては。