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KEYTALKが「BUBBLE-GUM MAGIC」とともに運んできた眩い夏 東名阪ツアー最終公演レポ

2019年07月23日 19:01  リアルサウンド

リアルサウンド

KEYTALK

 寿司詰め状態のフロアに向かって、寺中友将(Vo/Gt)の心の底から楽しげな声が高らかに響き渡る。


「みんなでここに、夏を連れてきましょう!」


 彼の声、そして4人の鳴らす音色を合図に、生憎の曇り空の下となったZepp Tokyoに眩い夏がやってきた――。


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 今年5月15日にリリースされた<ユニバーサルミュージック/Virgin Music>移籍後初シングル『BUBBLE-GUM MAGIC』を引っ提げ、東名阪の3カ所で行われたKEYTALKのライブツアーが、7月18日にZepp Tokyoでファイナルを迎えた。超満員の会場にリスナーの間では定番のメタルナンバー「物販」が響き渡る中、定刻に登場したメンバーが舞台狭しと駆け回る。一瞬にして熱狂の渦に包み込まれたフロアに最初に叩きつけられたのは、最新シングル「BUBBLE-GUM MAGIC」。リリース間もないながらもすでに濃密なグルーヴ感を身に着けたそのサウンドとパフォーマンスからは、今ツアーがこの楽曲を今年の夏の強力なアンセムへと成長させたことが伝わってきた。


 熱狂そのままに畳みかけられた「SAMURAI REVOLUTION」「ロトカ・ヴォルテラ」そして「パラレル」の3曲で会場は一気にヒートアップ。鬼気迫るほどの勢いと音の密度でオーディエンスを一瞬にしてKEYTALKの世界へ引きずり込んでいった。


 ソリッドな演奏でオーディエンスの心をがっちりと掴んだ後は、音楽フェスでも定番の楽曲でさらに盛り上げる。「Love me」では寺中がMVでも印象的な振り付けを披露したり、「Summer Venus」ではサングラスをかけた寺中が白いマイクスタンドを掴んで天に掲げるようにして歌うといった一幕も披露され、会場全体が最高にハッピーな空気に包まれた。


 中盤に披露された寺中作詞作曲によるミディアムバラード「海」からは、じっくりと歌を聴かせる楽曲を中心に演奏。歌唱力に定評のある寺中の美しいビブラートはますます冴え渡り、深みや色気が年々増している首藤義勝(Vo/Ba)のロングトーンやファルセットがフロアを時に優しく、時に気高く包み込んでいく。


 もちろん、楽器隊の演奏も盤石。舞台狭しと駆け回りオーディエンスを盛り上げる小野武正(Gt/Cho)は、その楽しげな表情からは想像もつかないほどドープなアドリブを効かせまくり、楽曲の表情を音源とは全く異なるものへと変化させる。力強いビートでサウンドを底上げする八木優樹(Dr/Cho)は、音楽をやる楽しさを全身で表現するかのように眩しいほどの笑顔を炸裂させた。


 新旧織り交ぜたセットリストの中でも特に大きなインパクトを残したのは、インディーズ期の人気曲「B型」だ。この曲特有のポストロック的な難解さと陰影のある雰囲気を、完全に乗りこなす4人の姿がそこにはあった。寺中と首藤によるスリリングなボーカルのハーモニー、そして小野の静謐なギターと八木のストイックなドラミングに胸がざわめく。髪を振り乱しながらベースを弾く首藤の姿からは、初期衝動を手懐けて年相応の迫力で魅せられるようになった、大人のロックミュージシャンとしての矜持を感じるようだった。


 小野による恒例の“ぺーい”アンドレスポンスから展開されたクライマックスでは、定番のキラーチューン「YURAMEKI SUMMER」「MATSURI BAYASHI」「MONSTER DANCE」を披露。八木のホイッスルも冴えわたり、荒々しくピックを投げ捨てた首藤の激しいスラップベースに鳥肌が立つ。「MONSTER DANCE」のアウトロに合わせてビールを一息に呷った寺中の、清々しいほどの満面の笑みと共に本編は幕を閉じた。


 アンコールでは、今年秋にフルアルバムのリリースを予定していることがリーダーである小野の口から発表された。盛り上がるオーディエンスの勢いをそのままに披露されたのは、「ララ・ラプソディー」「One side grilled meat」そして「MABOROSHI SUMMER」の3曲。特に日々の希望と絶望、そして「それでも夢を失わずに生きていきたい」という切実な想いを軽やかにスウィングしたサウンドにのせた「ララ・ラプソディー」からは、まるでKEYTALKの現在そのものを投影したかのような生命の輝きが感じられるようだった。


 このツアーの開催が発表されたファンクラブ限定イベントの中で、寺中は「2年後、横浜スタジアムでライブをやる」と宣言した。彼の言葉からも、今回のレーベル移籍には彼らの並々ならぬ決意が込められていることが伝わってくる。しかし、このタイミングでKEYTALKが選んだのはホームと言っても過言ではないライブハウスツアー。決して奇をてらった演出もなく、いつも通りのプレイングをがむしゃらに見せる彼らの姿からは、貫禄のようなものすら感じられるようだった。


 最近定番になってきた寺中のステージ上での飲酒について、「何しに来たの?」「飲み会じゃないんだよ」と首藤が辛辣なツッコミを入れるといったいつも通りの最高に痛快で微笑ましいMCも含め、“これがKEYTALKだ”という姿を改めて目の前に叩きつけられたライブだった。


 これからの彼らの活動はいわば横浜スタジアム公演への前哨戦だ。この夜鳴らされた楽曲たちは、メジャーデビューから武道館、そしてアリーナライブ、とロックバンドの王道を着実に歩み続けてきたKEYTALKの新たな闘いの始まりを知らせる狼煙である。今年10月には、3年ぶりとなるツーマンツアーも決定している。少年のようながむしゃらさとバンドマンとしての矜持の両方を手にした今のKEYTALKがこれから一体どんな景色を見せてくれるのか、楽しみで仕方がない。(五十嵐文章)