「学校の先生」は、人を育てるやりがいのある職業のはず。しかし、7月15日付の朝日新聞デジタルの記事によると、OECDが行なった世界の教職者に対する調査では、中学校教諭を「再びやりたい」と思う人の割合は、日本では54.9%。他国平均75.8%と比べてかなり低いという。
7月18日放送の「モーニングcross」(TOKYO MX)では、慶應義塾大学特任准教授などを務める若新雄純氏が生出演し、この問題を掘り下げた。「両親も妹もおじさんも公立学校の先生」という若新氏は、教員に求められている役割や本音をよく知る立場として、「教師の仕事がクオリティーマネジメント、品質管理者的になっている」などと解説。今後の課題を語った。(文:okei)
先生には「マイナスをどれだけ減らすか」が期待されている
世間では部活や労働環境の過酷さが叫ばれる中学教員だが、若新氏は、先生の待遇はそう悪くないと語る。自身の妹も「育休を丸々3年取っても復職できる」し、両親も「環境や待遇にめちゃくちゃ不満を持っていたかというとそれほどでもない」という。
では、「そんなに悪い職業でもないのに、なぜまたやりたいと思わないのか?」という話だが、若新氏が父親を見ていて感じたのは、学校の先生が「品質管理的な仕事」に追われてしまっているのではないかということだった。
自宅に訪ねてくる先生同士の会話を聞いていると、「こんなすごい才能、可能性がある子がいて」という話よりも「うちの学校にはこんな問題の子がいる、事件やトラブルがある」という話のほうが多く、「乱暴な言い方をすれば、品質管理的(クオリティーマネジメント)な仕事が優先されていた」という。
両親の子育ても、「列を乱す、枠から外れることを叱る」にエネルギーが注がれていたそう。父親の書斎には、学校での問題をどう解決するか、どうやって大きくはみ出す子を減らすかに関するような本や資料が多かったと振り返る。つまり、
「先生の多くが期待されてきた役割は、『マイナスをどれだけ減らしていくか』『世の中に出して恥ずかしくないはみ出さない人材にする』ということ。『品質管理』という言葉は直接使われていなかったにしても、まさに『品質管理的な仕事』が優先されていた」
とのこと。そのため、「決して悪い仕事ではないけれど、問題解決や品質管理にばかり追われると、もう一度ワクワクしてやれなくなってしまうのではないないか」として、それが先生をもう一度やりたい人の少なさに繋がっているという仮説を示した。
子どもの能力や才能を発掘する「開発責任者」になる重要性
理不尽とも思える校則や、いじめをなかったことにするような教育現場は、「枠から外れる子を出さない」という考えから出ていると思えば納得がいく。そこまで酷くなくとも、1クラス数十人を1人で指導するこれまでの教育現場では、「管理」が最優先課題になることも、ある程度は仕方ないと理解できる。
だが、それが教師のやりがいやモチベーションを低下させている面もあるということだ。若新氏は先生の役割として、
「『管理責任者』だけでなく、子どもの能力や才能を発掘する『開発責任者』みたいな立場にもなることが重要」「一人で両方やるのが難しいなら、担当を分けてもいい」
など、今後の課題を説いた。
ネット上では、「本当その通り」「若新さんのオピニオン聞いて納得」など、賛同の声が複数上がっていた。若新氏の言うように、子どもの個性や能力を大切にする「開発者」的教育は、教師自身のモチベーションもアップし、教育の質の向上にも繋がっていくだろう。番組出演者の間では、それを学校や先生だけに求めるのではなく、家庭や地域で行なう必要性も課題として挙がっていた。