2019年から、全日本スーパーフォーミュラ選手権と併催されている、TCRジャパンシリーズ。WTCR世界ツーリングカーカップを頂点に、世界中で開催されているツーリングカー規定のTCRを用いた新たなシリーズだが、ここまで非常にエキサイティングなレースが展開され、エントラントにも好評だ。そのシリーズで使用される車両を、1台ずつご紹介しよう。今回は、TCRジャパンのみならず、ピレリスーパー耐久シリーズでも多くのシェアを誇るアウディRS3 LMS TCRだ。
アウディRS3 LMSは、アウディの市販車のラインアップの中でもハイパフォーマンスラインにあたるRSシリーズのうち、ミドルセダンのRS3をベースにTCR規定のマシンとして製作されたカスタマーレーシングカー。2015年にリリースされ、WTCR世界ツーリングカーカップを頂点に、非常に多くの数の個体が流通している。
アウディスポーツが開発を手がけたRS3 LMSだが、エンジンは330馬力を発生する2リッター直4ターボを搭載。エンジンルームの作り自体は、同じグループのフォルクスワーゲン・ゴルフGTI TCRとほぼ同様。ゴルフGTI TCRには『SEQ』と『DSG』のふたつのバージョンがあるが、アウディも同様で前者はレース用のシーケンシャルミッションを使用、後者は市販車と同じDSG(デュアルクラッチミッション)を使ったものだ。
駆動はもちろんFFで、ボディも市販車の色を濃く残したものとなっているが、ゴルフと異なるアウディならではの部分も多い。セダンならではのストレートスピードの良さや安定性などボディ由来のものはもちろん、大きく異なるのはコクピットだ。
市販パーツを豊富に使っている部分はアウディも他のTCRカー同様に多いが、大きく異なるのはシート。RS3 LMSはアウディスポーツ製の高い安全性を誇るカーボンシートが備え付けられており、非常にホールド感が高い。また、シートレールも頑強で、Hitotsuyama RacingのRS3 LMSを何度もドライブした経験をもつ富田竜一郎は、「このシートがすごく剛性感もあり、安心感を生みます」という。また、GT3カーでは標準と言えるドライバー救出用の開口部がルーフに設けられているのは、他のTCRカーにはないところ。
「皆さんご存知のとおり、このアウディRS3 LMSはパワーがあり、非常にストレートが速いです。それにホイールベースが長いので、高速コーナーでも安定感があります。どんな方にとってもドライブしやすいクルマではないでしょうか」と語るのは、Hitotsuyama RacingからTCRジャパンシリーズに参戦するほか、スーパー耐久でもBRPからRS3 LMSをドライブする篠原拓朗だ。
篠原によれば、このRS3 LMSでTCRジャパンが開催された3コースを走ったうち、最も得意なコースはスポーツランドSUGOだったという。「意外かもしれませんが、クルマとしてのパフォーマンスに加えて、クルマがしっかりしていることでの安全面が大きいです」と篠原。
「ツーリングカーのレースなので、縁石でも使えるところは使いたい。もちろん壊れるリスクは完全にゼロではないですが、しっかり乗って使える。その面でも優れているクルマなので、パフォーマンスは高いと思いますね」
これまでTCRジャパンシリーズでは、ポールポジションは奪いながらもなかなか勝利には届いていない篠原。レースでの戦い方を聞くと「アルファロメオやフォルクスワーゲンは軽量なので、フロントタイヤには優しく回頭性があります。ただ、ウエットになったときなどは安定感があるので、しっかり攻められる。そしてストレートのパワーをどう活かすかがこのRS3 LMSのカギですね」と話した。まずは結果に結びつくことを期待したいところだ。
ちなみに、アウディRS3 LMSの希望小売価格は1835万円(輸送費、輸入諸経費、スペアホイール、その他オプションは別途)。アウディジャパンがTCRジャパンシリーズのシリーズスポンサーになるなど、きちんとシリーズを支えていること、そしてインポートを担当するアドバンスステップにより、カスタマーサポート用のパーツトラックが来ることもチームに人気のポイントだ。
ジェントルマンドライバーにも乗りやすい一台と言えるアウディRS3 LMS。今後もTCRジャパンシリーズでは大きなシェアをもつマシンとなりそうだ。