2019年07月21日 13:11 弁護士ドットコム
ズボンや下着をひざ下までおろした状態で走行したなどとして、滋賀県大津市のタクシー運転手の男性が7月13日、軽犯罪法違反の疑いで書類送検されました。報道によると、男性は昨年5月にタクシーを走らせていた際、京都市内で女性客を乗せたまま、尻や太ももを露出させていたそうです。
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運転手の男性は容疑を認めており、「腹が窮屈だったのでやっていた」と話していると報じられています。運転手の男性は走行していたときに、陰部も露出していたとみられ、京都府警は刑法の「公然わいせつ罪(刑法174条)」での立件も検討したそうですが、結局、軽犯罪法の「身体露出の罪」(軽犯罪法1条20号)の疑いで書類送検しました。
なぜ、ズボンや下着をひざ下までおろしていたにも関わらず、公然わいせつ罪にはあたらないと考えられたのでしょうか。(監修・濵門俊也弁護士)
まず、公然わいせつ罪(刑法174条)は、不特定または多数の人が認識できる公の場で、わいせつな行為をした場合に成立します。刑罰は、6か月以下の懲役、もしくは30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料となっています。
判例(最判昭26.5.10刑集5巻6号1026頁)によると、「わいせつ」とは、「徒(いたずら)に性欲を興奮又は刺激せしめ、且(か)つ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義に反するもの」とされています。具体的は、路上や公園で全裸になったり、ことさらに陰部を露出したりする行為が、公然わいせつ罪にあたります。
今回のケースでも、京都府警は当初、公然わいせつ罪にあたらないか、検討したようです。しかし、女性客の座った左後部座席から、運転手の男性の陰部までは見えず、太ももや尻だけが見えたことから、「わいせつな行為」とまではいえないと判断して、見送られたと報じられています。
運転手の男性は結局、軽犯罪法の「身体露出の罪」(軽犯罪法1条20号)の疑いで書類送検されました。これは「公衆の目に触れるような場所で公衆に嫌悪の情を催させるような仕方でしり、ももその他身体の一部をみだりに露出した者」が問われる罪です。
ここでいう「公衆の目に触れるような場所」とは、不特定又は多数の人に見られる可能性のある場所です。
具体的には、道路上や公園内、電車やバスなどの車内、公開中の劇場内、海水浴場などがあります。私人の居宅内であっても、容易に通行人の目に触れるような場所も含まれます(大判大2.12.3刑録19輯1369頁参照。自宅茶の間で裸になっていた行為が問題とされた事案)。「身体の一部」とは、普段は服で見えていない部分で、しりやもも、乳房、へそ、わき腹などがあたります。
また、今回のケースでは、「公衆に嫌悪の情を催させるような仕方」という部分がポイントになります。
「公衆に嫌悪の情を催させるような」とは、一般の通常人の風俗感情上、不快の念を与えるものであることをいいます。「仕方」とは、単に方法、態度に限らず、諸般の具体的状況からみた事態を意味し、公衆に嫌悪の情を催させるようなものであるかどうかは、諸般の状況を総合して判断されるべきものであることを示しています。
日刊スポーツによると今回、運転手の男性は「ファスナーを下ろしたり、尻を見せたりして見た人が不快になるとは分かっていた」と供述しているそうですから、「公衆に嫌悪の情を催させるような仕方」と言えるでしょう。
最後にここまでの話をまとめましょう。陰部を露出することは、通常、公然わいせつにあたる可能性があります。しかし、今回は、女性客からは運転手の男性の陰部までは見えず、太ももや尻だけが見えたにとどまりました。したがって、運転手の男性の行為は、人の性的羞恥心を害するとまではいえないと考えられ、「身体露出の罪」にとどまると判断したのではないでしょうか。
【参考文献】 伊藤榮樹原著・勝丸充啓改訂『軽犯罪法 新装第2版』(立花書房)
【監修協力】 濵門 俊也(はまかど・としや)弁護士
当職は、当たり前のことを当たり前のように処理できる基本に忠実な力、すなわち「基本力(きほんちから)」こそ、法曹に求められる最も重要な力だと考えている。依頼者の「義」にお応えしたい。
事務所名:東京新生法律事務所
事務所URL:http://www.hamakado-law.jp/