「離婚するなら、どうして結婚したの?」「何で私を産んだんだ」「私はもう生きている意味がない」
親が離婚した子どもたちから「ウィーズ」に寄せられた声だ。ウィーズは親の離婚を経験した子どもをサポートするNPO法人で、理事長の光本歩さんが2009年に個人事業としてスタート、'16年に創設した団体だ。
親の離婚は一種の喪失体験
「相談も受けていますが、メールで“死にたい”と書いてくる子が多いです。“アンタさえいなければ”と親から暴言を吐かれたりして、愛されている実感が持てない。自己肯定感が低い子が多いと感じます。ただ、個人差がすごくあって、例えばDVをしている親を殺してやりたいと憎む子もいれば、そんな親でも好きだという子もいる。本当にケースバイケースですね」
相談を寄せるのは中学生から大学生まで幅広い。リストカットを繰り返し自傷行為に走るなど、年に4、5人は大変なケースがある。光本さんは頻繁にメールやLINEでやりとりを続けて信頼関係を築き、夜中でも対応しているそうだ。
「両親がケンカする姿をずっと見続けたり、離婚後も片方の親の悪口を延々と聞かされたりして結婚願望を持てなくなって“こんな自分はおかしいですか”と聞く子もいます。一方で親の離婚を機に、しっかりしなきゃと精神的に自立。親を反面教師にして早く結婚する子もいますし、どちらも半々くらいですかね」
ウィーズのスタッフは、ボランティアの大学生を含めて42人。ほぼ全員が親の離婚を経験している。
光本さん自身、13歳のときに両親が離婚している。借金をした母親から離れ、父と妹と3人で夜逃げしたため、経済的にも困窮し進学に苦労した。その経験から、10年前にひとり親家庭の子どもの学習支援塾を立ち上げたことが、今の活動につながった。
「子どもにとって、親の離婚は一種の喪失体験なんですよね。片方の親に会えない寂しさがあるけど、自分の家庭は普通じゃないから、周りの人にはわかってもらえないと思っている。胸の内を吐ける場所もないので、喪失感を埋めることができないまま大人になる。私の場合、高校の担任が親の離婚を経験していて、話を聞いてもらえたので、運がよかったんです」
'12年からは面会交流の支援も始めた。離婚後に離れて暮らす親と子どもを面会させるため間に入って調整。1歳から高校生までの子どもに付き添ったり、送迎したりしている。昨年度は延べ630件の利用があった。
面会をして等身大の親を知ることは、子どもにとって大事だと考えているからだ。
光本さんの父は借金をした母を憎んでいたので、「お母さんに会いたい」とは口が裂けても言えなかった。だが、そのぶん思いは募った。高校に入り、会いたい一心で貯金をし、母のもとを訪ねると、母は悪びれもせず彼氏を伴って現れた。
「ごめんね、のひと言もなく“エー!”って思ったけど、母はこういう人間なんだ、だから離婚したんだ、と納得できた。現実の母を知ったから次に進めたんです」
離婚の裏で傷ついている子どももいる
'11年度からは年に1度、2泊3日でキャンプを行っている。対象はひとり親の小学4年生から中学3年生。みんなでカレー作りなどの自炊をし、親の離婚について話し合うワーク活動も行う。
「あの先生、変な顔だね」「ほんと、キモイ~」
初対面の子ども同士が顔を合わせると、まず悪口で盛り上がることが多い。
「自己肯定感の低い子は、褒められるとか認めてもらった経験が少ないから、最初に否定から入る。両親が否定しあう様子を見てきたことも大きいと思います。
でも、それは健全じゃない。ポジティブな言い方に変えるため、小さなことでも褒めるようにします。ボランティアの大学生たちも子どもたちを見ていて、自分もそうだったと気がつく。親の離婚に傷ついた自分を客観的に見られるようになるんですね」
毎回20~30人が集まるキャンプの参加費用は無料。面会交流支援も、今年3月から遠方を除き無料にした。費用は助成金や寄付でまかなっている。光本さんが何年もかけて行政や民間団体にアプローチした成果だ。
「私もこの支援を通じて救われたし、自己肯定感を育ませてもらった。親が離婚して大変だった経験も、いま困っている子どもを助ける役に立っていると思えば、プラスに感じられますから」
設立以来、ウィーズの活動は忙しくなる一方だ。軽い気持ちで離婚する最近の風潮について、光本さんはどう見ているのか。
「離婚がダメではない。でも、その裏で傷ついている子どもがいることを忘れないでほしい。子どもの目線に立って考えることを忘れている親御さんが多いので、もう少し冷静に考えてもらいたいです」
光本歩 ◎NPO法人「ウィーズ」代表理事。第三次静岡県ひとり親家庭自立促進計画策定委員。1988年生まれ。13歳で親が離婚。東京福祉大学教育学部中退後、離婚した子どもたちのトータルサポートをスタート。テレビ、新聞、ラジオなどメディア出演多数