2019年から、全日本スーパーフォーミュラ選手権と併催されている、TCRジャパンシリーズ。WTCR世界ツーリングカーカップを頂点に、世界中で開催されているツーリングカー規定のTCRを用いた新たなシリーズだが、ここまで非常にエキサイティングなレースが展開され、エントラントにも好評だ。そのシリーズで使用される車両を、1台ずつご紹介しよう。今回は、日本でもおなじみのホンダ・シビック・タイプR・TCRだ。
多くのカスタマー向けマシンがリリースされているTCRのなかで、実質的に唯一の日本車TCRカーであるホンダ・シビック・タイプR・TCR。TCR規定がスタートした2015年から、当時のWTCC用のマシンを製作していたイタリアのJASモータースポーツの手によりFK2型のTCRマシンが登場し、多くのセールスを誇った。
このFK2型の後を受け登場したのが、5代目シビック・タイプRをベースとしたFK8型のホンダ・シビック・タイプR・TCR。2018年1月のドバイ24時間で実戦デビューを果たし、以降多くのチームが走らせている。
日本でも、ピレリスーパー耐久シリーズで2018第1戦鈴鹿を制し、FK8型での初優勝を飾ったほか、2019年からスタートしたTCRジャパンシリーズにも5台のシビックが登場している。シリーズ開幕戦で初優勝を飾ったのも、Team Goh Modelsの金丸ユウが駆るシビックだった。
そんなシビックは、他のTCRマシンと同様に、最大350馬力を発生するK20C1・2リッター直4ターボをフロントに搭載。ギヤボックスはスタンダードがサデフ製、オプションとしてXトラック製と2種類があるが、どちらもセミATシーケンシャル6速パドルシフトとなっている。
サスペンションは、前マクファーソンストラット、後マルチリンク。ショックはオーリンズ製を使う。他のTCRマシンと大きく異なる部分はなく、業界のスタンダードマシンと言える仕上がりと言えるだろう。
そのシビックについて、これまでWTCC参戦をはじめ数多くのツーリングカーを乗りこなしてきた谷口行規に話を聞いた。谷口はジェントルマンドライバーでもあり、TCRマシンを語るにふさわしい人物だろう。
「とても良くできたレーシングカーだと思いますね。乗りやすいですし、エンジンパワーもあります。WTCC用のシビックも一度乗ったことはありますが、それはすごくピーキーでしたから」と谷口はシビックの印象を語る。
「シビックはそこまで際立つ得意な部分があるわけではありませんが、ストレートもコーナーもアベレージ以上ではないでしょうか。エンジニアも頑張ってくれていますが、バランスがすごく取りやすいクルマです」
そんなシビックではあるが、このTCRジャパンシリーズについて谷口に語ってもらうと、「ABSもついていないので、ジェントルマンドライバーはブレーキでだいぶ差がつきます。FFですし、リヤを流しながら走ることができないと、慣れるまでは大変だと思いますね。その意味では、GT4の方が“普通のクルマ”だと思います」という。それもあってか、谷口にジェントルマンドライバーにオススメなのはTCRか、GT4か聞くと「どう転んでもFFのTCR(笑)」だというから面白い。GT4では少しもの足りない部分もあるようだ。
気になる点としては、TCRジャパンではこのところエンジントラブルが起きているという部分はあるが、日本でのカスタマーサポートもあり、ユーザーにとっては信頼できる一台と言えるホンダ・シビック・タイプR・TCR。ジェントルマンドライバーにも、プロにとっても使用したいマシンのひとつだろう。