スーパーフォーミュラ第4戦が開催される直前に飛び込んできたダニエル・ティクトゥムの契約解除ニュース。ティクトゥムの代わりに急遽ドライバーとして登録されたのは、同じくレッドブル育成のパトリシオ・オワード。メキシコ人という国民性なのか、明るくチームに溶け込んでいるという。
「ミナサン、コンニチハ。ヨロシクオネガイシマス」
予選日に行われたサタデーミーティングで、多くの記者を前に日本語の挨拶を繰り出し、喝采を浴びたオワード。ティクトゥムに代わり、レッドブルが日本に送り込んだジュニアドライバーは、まったくキャラクターが違うメキシカンだった。
メキシコ北部モンテレイ出身の20歳。父はいくつかのビジネスを手がけているが、そのなかには寿司レストランもあるという。祖父がかつてレースをしていたこともあり、従兄弟と遊ぶため5歳のときにカートを与えられた。
そこからメキメキと才能を発揮。父が彼の活動を金銭面でバックアップするということはほとんどなく、まわりの支援者やチームのサポートでステップアップしてきたのだという。ちなみに父の名前もパトリシオ。そのため家族のあいだでも、息子は“パト”と呼ばれている。
そのパトは、レースウィークの火曜日にチームのファクトリーに初めて足を運ぶと、エンジニアやメカニックともすぐに打ち解け、走行が始まる前から一緒に食事に出かけるほど親しくなる。
中野信治監督によると「自分から話しかけて、どんどんコミュニケーションを作り上げていくタイプ。性格もポジティブでチームの雰囲気も盛り上げてくれる」ということだった。
だが、いざ走行が始まると金曜日は苦戦。シートの位置が合わないという問題もあったが、初めてのコース、クルマ、タイヤに手こずった。しかし、その後にミーティングを経て走りを改善。土曜日の朝には、“いい状態のソフトタイヤ”ではあったが、ホンダ勢トップの8番手につけ周囲を驚かせる。
午後の予選は雨。今度は初めてのレインタイヤとなったが、ウォームアップ中に痛恨のスピンを喫してしまう。このとき、オーバーテイクシステムのボタンに触れたことでモニターの表示が切り替わり、ギヤポジションが分からなくなってエンジンストール。最後尾となってしまった。
日曜日のフリー走行は、そのレインタイヤで本格走行。チームメイトである野尻智紀のオンボード映像を見て、走り方を修正していく。
決勝では“無給油で走り切る”というミッションを完遂し、7つもポジションを上げて見せた。「まだドライバーとして完成はしていませんが、すごく吸収力は高い」と星学文エンジニアも太鼓判を押した。