■仕事も恋も「しばしお暇いただきます」
先日放送が終了したTBS系ドラマ『わたし、定時で帰ります。』は、現代の働き方や仕事に対する多様な考えを反映した内容で、放送回ごとに話題を集めた。なかでも印象に残ったシーンのひとつが、夢も突出したスキルもなく、「自分の人生、なにもない」と言う同僚に対し、主人公が「私たちには給料日がある。私はそれを楽しみにして生きてるよ。意外とみんなそんなもんじゃない?」と話す場面だった。
また昨年放送された『アンナチュラル』では、夢がないとこぼす若いアルバイトが主人公に働く理由を尋ねるシーンがあった。主人公は「そんな大げさものなくても良いんじゃない? 目標程度で」「給料が入ったらあれ買おうとか、休みができたらどこか行くとか。誰かのために働くとか」と返した。
理想に燃え、仕事に生きるだけが人生ではない。そんなメッセージに共感し、安心した人も多いのではないだろうか。
7月19日からTBS系で放送がスタートする『凪のお暇』もまた、様々な立場で生きづらさを抱える人たちにとって、「働く理由」や自分自身の人生を見つめ直し、立ち止まることや逃げることを肯定してくれる作品になるかもしれない。この作品は会社員の立場から一度「お暇」することを選んだ主人公の物語だ。
■黒木華、高橋一生、中村倫也ら共演、原作は『メディア芸術祭』優秀賞の人気作
原作は『Elegance イブ』で連載中のコナリミサトによる同名漫画。「宝島社このマンガがすごい!2019オンナ編」で3位に選出され、『第22回文化庁メディア芸術祭』マンガ部門では優秀賞に選ばれるなど高い評価を獲得している。
主要キャストには黒木華、高橋一生、中村倫也らが並び、人気原作のドラマ化とあって放送前から注目度は高く、映画とドラマのレビューサービス「Filmarks」の調査では「2019年 地上波放送の夏ドラマ Filmarks期待度ランキング」で1位にランクインした。
■仕事を辞め、全ての人間関係を断ち、「人生のリセット」を図る28歳
主人公は都内の家電メーカーで働く28歳のOL・大島凪。いつも人の顔色を伺いながら空気を読んで行動するあまり、同僚たちから良いように使われ、上から目線のアドバイスをされる「なんだかなぁ~」な日々を送っている。そんな彼女が唯一持っている「カード」であったはずの営業部のエースの恋人・我聞慎二のある一言がきっかけで心が折れた凪は、会社を辞めて住んでいたマンションを解約し、恋人を含めた全ての人間関係を絶ち、人生のリセットを図る。
毎朝1時間かけてアイロンをかけていたストレートのロングヘアーをやめ、天然パーマの頭のままで仕事も予定もない自由な生活を楽しもうとする凪役を演じるのは黒木華。TBSの連続ドラマで主演を務めるのは、2016年の『重版出来!』以来、約3年ぶりとなる。
すでにパーマヘアーの凪のビジュアルも公開されているが、原作者のコナリミサトは「黒木華さんが凪を演じてくださるとお聞きしたときはうれしくて拳を握りしめました。そしてビジュアル第1弾を見せていただいたとき『凪だ!黒木華さんが!!』とその拳を空高く掲げました」とコメントを寄せ、太鼓判を押している。
■彼女の変化を否定しようとする元恋人と、ありのままの姿を受け入れてくれる新たな出会い
心機一転、全ての人間関係をリセットして自分を見つめなおそうとする凪だが、「変わろう」とする彼女を否定しようとする元恋人・我聞慎二と、飾らないありのままの凪を受け入れてくれるお隣さん・安良城ゴンとの三角関係も見どころのひとつだ。
高橋一生が演じる慎二は、空気を読んで行動することに長け、営業成績は常にトップ、会社では「完璧な男」である一方、凪に対しては恐ろしく不器用でモラハラ的な言動を繰り返し、彼女からは徹底的に嫌われる。突然失踪した凪に未練があり、家に押しかけてつきまとうが、感情に言動が伴わないため、2人の想いはすれ違い続ける。
一方、中村倫也が演じるゴンは凪が新生活で出会う隣人の男。イベントオーガナイザーをやって暮らす自由人で、誰に対しても優しい天性の人たらし。その居心地の良さゆえ「メンヘラ製造機」の異名を持つが、原作では凪もその空気に飲み込まれていく様が描かれている。
そのほかにも凪がハローワークで出会う坂本龍子(市川実日子)、凪のアパートの隣人でシングルマザーの白石みすず(吉田羊)、同じくアパートに住む女性・吉永緑(三田佳子)、凪の母・大島夕(片平なぎさ)、大阪支店から異動してくる慎二の後輩・市川円(唐田えりか)といった個性的なキャラクターが登場する。
さらにファーストサマーウイカ(BILLIE IDLE)が1話ごとに違う役で出演するほか、慎二の行きつけのスナック「バブル」のママ役に武田真治がキャスティングされている。
■簡単なカテゴライズを拒む、各登場人物の多面的な描写にも期待
原作漫画『凪のお暇』は現在5巻まで刊行されており、単行本の累計発行部数は250万部を突破している。現代を生きるアラサーの登場人物の生きづらさを描いた本作が読者を惹きつける要因のひとつは、上述のような個性的なキャラクターたちが決して一面的に描かれていないからだろう。
それは主人公の凪だけでなく、慎二やゴンにも当てはまる。慎二は凪に対する行動だけ切り取るとモラハラ彼氏で嫌われても当然だが、読者にとってはただの「ヤバいやつ」として切り捨てられない、彼の人間くさい一面も描かれる。反対にゴンは女性を自然と虜にしてしまうような魅力を放つが、それゆえの危うさや、一見悩みなどないように見える彼自身の葛藤も垣間見える。
各キャラクターが人と関わり合うなかで見せる様々な顔は、「悪者」「良い者」というような物語上の簡単なカテゴライズを拒む。どの人物にも感情移入できるような多層的なキャラクター描写も原作の魅力のひとつだ。
高橋一生はドラマの出演発表時に「全体を通して恋愛の描写も多くあるのですが、それだけに重きを置いているわけではなく、人と人との関わりが根底にある物語だと思います。必ず共感してもらえるキャラクターがいると思いますので、それぞれに感情移入して見ていただくのもいいですし、『人間ってみんな大差なく滑稽なんだよな』と見ていただくのもいいかと思います」とコメントしている。ドラマでも原作にあった豊かな人物造形が期待できそうだ。
黒木華、高橋一生、中村倫也らが共演する新ドラマ『凪のお暇』は、7月19日22:00から、TBS系の金曜ドラマとして放送スタートする。