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スーパーフォーミュラ:小林可夢偉、第4戦富士で驚異の13台抜きも「ただ優勝したいだけ」

2019年07月18日 16:41  AUTOSPORT web

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雨の富士スピードウェイで19番グリッドから6位入賞を果たした小林可夢偉。優勝できる速さはある。あとはタイミングか
7月13~14日に行われた2019年のスーパーフォーミュラ第4戦富士。予選でまさかのQ1ノックアウト、タイムを記録したなかでは最下位の19番グリッドから決勝レースをスタートした小林可夢偉は、オーバーテイクショーを見せたレース後にはこんなことを言っていた。

「そもそも、ここまで追い上げられるのだったら、予選で何をしていたのという話ですよ」

 後ろから2番目のグリッドからスタートした可夢偉は、雨の富士で次々と鮮やかなオーバーテイクを敢行。13台を抜き望外ともいえる6位でフィニッシュした。もし、ベストパフォーマンス賞が設定されていたら、それは間違いなく可夢偉に与えられていたはずだ。しかし、可夢偉はなぜ予選であれほど遅かったのだろうか?

「もう、大外しですよ。ビックリしました。どうしようもないね、意地張って頑張っても無理だなと。やっぱりドライセットじゃダメだったかと。僕ら、オートポリスのウエット路面でもドライセットだったんです。でも、ここではダメで『やっぱりちゃんとやらなきゃね』と、朝のウォームアップでセッティングをしたら全然普通に走ったし、レースでもやっぱり普通に走るじゃんと。ただ、それだけです」

 スタート前、グリッド上で見た可夢偉のエアロセットアップは、かなりダウンフォースがついていた。

「みんな(ダウンフォースを)薄くしていたけど、天気を見てちょっと違うんじゃない? と思いました。雨が止むと思っている人が多くて、彼らを食べる(追い抜く)には降ったとき確実に行けるようにしておかないと意味がない。僕らには失うものがないので、もうフルにつけた方がいいかなと思いました」

 結果、可夢偉の読みは完全に当たり、かなりのハイペースでライバルを次々と“料理”していった。特に印象的だったのはバトルの際の意外なライン取りと駆け引きで、最終コーナーなどではトリッキーなラインを通過し、相手の直線スピードの伸びを潰した。

「こっちはハイダウンフォースで直線が遅いのは分かっているから、意外なところを使って向こうを落とし、次で仕掛けようと。料理でいうと、砂糖を入れるかなと思わせておいて、塩を入れるみたいな感じでした」

 終始、非常に冷静にレースを戦っていたように見えた可夢偉だが、チームの関係者によると、ストレートでは「何も見えへん」と、無線で何度も叫んでいたようだ。

「ホンマに見えないですよ。誰がどこにいるか、(時速)200kmを越えると1メートル先が見えない。だいたい250kmくらいからなにも見えなくなる。100階建てのビルの頂上の、手すりの横をずっと歩いているような感覚です」

「もし、前で戦っているヤツらがクラッシュして、そこに全開で行ったら刺さるよねって。『オレ保険かけたかな』と、真剣に悩む瞬間ですよ。もっとかけられたかなとかね。若い頃は『保険なんていらねえよ』と思っていたけど、この年になると老後のことを考えて、かけておいた方がいいかなって」

 残念ながら、今回もまた表彰台の中央とは距離が遠かった。「人を感動させるとかなんて、どうでもいいんです。ただ優勝したいだけです」という言葉は本心に違いない。

 しかし、それでも可夢偉が魅せた雨中のオーバーテイクショーが、多くの人々の心を揺さぶったのは、紛れもない事実である。