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スーパーフォーミュラ:“感覚”と“理論”の両輪。ルーキー、アレックス・パロウが雨の富士で完勝のワケ

2019年07月18日 14:01  AUTOSPORT web

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スーパーフォーミュラ第4戦富士を制したアレックス・パロウ(TCS NAKAJIMA RACING)
7月13~14日に行われた全日本スーパーフォーミュラ選手権第4戦富士。シリーズ出場初年度、4戦目でのポール・トゥ・ウインを飾った22歳のアレックス・パロウは「予想よりも時間がかかってしまった。なぜなら、開幕戦の鈴鹿でも勝てた可能性があったから」と、サラリと言った。

 文字で読むと相当な自信家で鼻持ちならぬ男だと感じるかもしれないが、1度でも彼と話をしたことがある者なら、絶対にそうは思わないだろう。オープンでフレンドリーなナイスガイ。その明るさ以上に、誠実な態度が人の心をつかむ。

 パロウと牧野任祐の加入により「チームは明るく前向きになった」と、ナカジマレーシングのスタッフのひとりは喜んでいた。

 いくらナイスガイでも、ドライバーである以上1番重要なのは速さと、結果を残すこと。レースでは速さこそが正義だ。その点でも、パロウは文句のつけようがない。開幕戦鈴鹿の予選ではQ1とQ2でトップ、Q3では牧野にルーキー最初のポールポジションを奪われることになったが、それに次ぐ2番手を獲得。決勝ではファステストラップを刻んだ。

 どんなマシンであろうと、乗ってすぐに速く走れるという事実がパロウの非凡な才能を示す。日本での初レースとなった2017年全日本F3選手権の岡山でも、いきなりポールポジションを獲得し、レース2で優勝を飾った。また、同年12月に行われたスーパーフォーミュラの鈴鹿ルーキーテストでは、わずか2時間の走行ながらルーキー勢トップのタイムを刻み、評価をさらに高めた。

 ナカジマレーシングでパロウを担当する加藤祐樹エンジニアは、そのときの様子を次のように振り返る。

「アレックス(・パロウ)が乗ったとき、自分たちのマシンには少し問題がありセクター1で不安定でした。しかし彼はそれをすぐに見抜き、ドライビングをアジャストして走ったのです」

「具体的にはクルマをスクウォート(後傾)させ、ダンパーのストロークを数ミリ低い状態に保って走っていた。ひとことで言えば適応能力が高く、クルマに合わせてドライビングをフレキシブルに変えられる器用なドライバーです」

 乗ってすぐに速いドライバーは感覚派といわれ、パロウもどちらかといえばそのようだが、「勤勉で努力も怠らない」と理論派の加藤エンジニアはいう。今回の予選は事前に雨が予想され、その対策としてパロウと加藤エンジニアは過去のレースでのオンボード映像を入念に研究。

 2018年のニック・キャシディと、2016年のストフェル・バンドーンのポール獲得映像を見て、ライン取りやブレーキングポイント、そしてセッティングの参考にしたという。

「ニック(・キャシディ)とストフェル(・バンドーン)の走行ラインはまったく違ったけど、予選のときの路面コンディションはニックのときに近かったので、走る5分前にパソコンで彼のオンボード映像を見て参考にしたんだ」とパロウ。

 映像で人の運転を見たからといって、簡単にコピーできるものではないはずだが、パロウはそれをすぐに取り入れ、見事ポールポジションを獲得した。そして、予選以上に雨量が多かった決勝では、刻々と変化する路面コンディションに応じて、ライン取りやドライビングをフレキシブルに変えていったという。

 しかし、スタートダッシュを決め首位を快走していたパロウに対し、チームは繰り返し燃費重視のコースティング走行を指示した。

「朝のフリー走行でコースティングを練習し、セーフティカースタートならタイヤも燃費も大丈夫だと分かりました。でも、決勝では最初コースティングを忘れていたようで、直線のスピードラップが速すぎるのでおかしいと。そこで、改めてコースティングを指示しましたが、彼はラップを落とさなくても速く走れた。とても上手だったと思います」

 決勝レースは途中で周回数ではなく、時間制のタイムレースになることが決まり、燃費の面ではかなり楽になった。しかしチームはそれをあえてパロウには教えず、最終ラップでようやくその事実を伝えた。

「早めに教えると、燃費を気にせず頑張って走ってしまうと思ったので。案の定、教えた直後に(1コーナーで)飛び出しましたから(笑)」と加藤エンジニア。

 パロウも「あれは正しい判断だったと思うよ」と、笑っていた。最終周以前にも何度かコースを外れ、若さを感じさせる部分もあった。しかし、総じてラップタイムは安定しており、ただならぬ才能とさらなる成長を確信させるレース内容だった。

「タイトルを考えるにはまだ早過ぎる」というパロウだが、9年ぶりの勝利を経験したナカジマレーシングの面々は、シリーズ制覇も決して叶わぬ夢ではないと、思い始めているに違いない。