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EMPiREが“破壊”と“進歩”で築いたサクセスストーリー 新体制&新曲がグループに吹き込む追い風

2019年07月18日 12:01  リアルサウンド

リアルサウンド

EMPiRE

 「ええぃ、帝国のモビルスーツはバケモノか!」……思わずそんな台詞が言いたくなる。6つの赤い機体が通常の3倍早く動くニューシングル、『SUCCESS STORY』表題曲は『SDガンダム ジージェネレーション クロスレイズ』オープニングテーマ。


参考:EMPiRE、YUKA EMPiRE脱退から5人体制でリスタート 『ピアス』&ライブに表れた“帝国の未来”


 90’sハウスのサウンドが印象的なAメロ、ラウドロック調で荘厳なBメロ、そこからダンサブルなサビで一気に駆け抜けていく。そこかしこに懐かしさを漂わせながら疾走感がほとばしるアッパーなナンバー。戦闘力高めの派手やかなトラックながら、なだらかな音使いのメロディと柔らかな語感の言葉選びは、あえてハズした印象も受ける。キメ込んだ字面の格好良さではなく、グループの現況を捉えたような口語的な詞は、EMPiRE楽曲の作風として確立されている部分だ。


 オリジナルメンバーであるYUKA EMPiREの脱退により、どこか張りつめた5人の気負いを独特の東北訛りで和ませたのが新メンバー、NOW EMPiREだ。純真でおっとりとした愛され妹キャラでありながら、ダンスで見せる動きは豪快で俊敏。EMPiREが誇るこの新戦力は「SUCSES STORY」冒頭、メカニカルな起動音とともに両手を頭上で叩く動きひとつで、その破壊力を知らしめる。


 今年3月、YUKA EMPiREのラストステージとなった『EMPiRE presents TWENTY FOUR HOUR PARTY PEOPLE』は実にピースフルな空間であった。24時間ぶっ通しのイベントという壮絶な内容であったものの、終始あたたかい空気に包まれていたのが印象的だった。そして、その後迎えた『Going Going WACK TOUR』ファイナルのZepp Tokyo――。WACKの所属グループが一堂に会す中、5人となったEMPiREが見せたものは、ただならぬ気迫に溢れたステージであった。「この5人のまま、突き進む姿を見たい」……観た者にそう思わせるほど、研ぎ澄ました鋭気を見せつけたのだ。しかし反面で、そのあまりの鋭さゆえに折れてしまいそうな危うさが隣り合わせだったようにも思えた。覚悟、気負い、不安……、さまざまなものがうごめく中での緊迫感とでもいうべきものだろうか。


 その空気を一変させたのが、合宿オーディションにて選ばれたNOW EMPiREだった。


 3月30日にNOW EMPiREの加入発表がされ、彼女を含めた新体制のお披露目となるツアー初日4月21日までの準備期間に出演した新宿LOFTでのイベントでのこと。5人体制ラストの東京公演となったこの日のライブは、数週間前の緊迫感とは打って変わって、いつになく穏やかな笑顔を見せていた5人の表情が印象的だった。新体制と、その準備が順調であることはすぐにわかった。


 あらためて6人になったEMPiREのステージを初めて観たのは新体制2本目のライブ、新宿BLAZEのイベントだった。ダンス経験があるとはいえ、わずか1カ月足らず前に加入したとは思えない堂々たるNOW EMPiREの勇姿。体躯と四肢の使い方はしなやかで、関節から大胆に動かすその動きはこれまでEMPiREメンバーになかったもの。彼女の存在がグループに新たな息吹をもたらすであろうことは、目にも明らかだった。


 あれから約2カ月半が経った7月11日、全国ツアーファイナル『NEW EMPiRE TOUR “EVOLUTiONS”』。EMPiREにとって3度目となるマイナビBLITZ赤坂でのワンマンライブは、新体制のお披露目からたったの2カ月半とは思えないほどのものを見せてくれた。成長という言葉では片付けたくないほどの進化がそこにあった。


 24時間イベントでのアンコール、5人が絶叫してさまざまな想いを断ち切った「SELFiSH PEOPLE」。辛辣な言葉と感情にならない心の叫びは、べつの意味での攻撃性を秘めたキラーチューンとなった。〈オリジナルを作りたい〉と節に願った「EMPiRE originals」は現在の6人が紡ぎ出す新しい“オリジナル”へとカタチを変え、旅立つ友へ手向けられた「ピアス」は、新たな境地へと向かおうとする己の力を奮い立たせる歌へと変わった。


 2018年5月、初めて立ったBLITZは初ワンマンであり、YUiNA EMPiREとの別れでもあり、MAHO EMPiREとMiKiNA EMPiREとのはじまりでもあった。同年9月、2回目に立ったときはツアーファイナルだったが、ソールドアウトすることができなかった。そうしたEMPiREのあらゆる局面にて、ここBLITZで何度も歌われてきた「アカルイミライ」は、今こうして2階席の後方までいっぱいに埋まったエージェント(=EMPiREファンの総称)とともに、さらに明るく大きな“ミライ”へと向けられた歌になったことは言うまでもあるまい。


 変わっていく曲があれば、新しく加わって意味を成していく曲もある。『SUCCESS STORY』のカップリング曲、「maybe blue」は楽曲からはみ出していくかのようなメロディとサイケなサウンドがEMPiREの振り幅を広げる奇妙なダンスチューン。SCRAMBLESの女性クリエイター、oniによる曲だ。「ピアス」の鮮やかなトラックデザインも手掛けてるが、サビに代わって大胆にドロップを用いた「FOR EXAMPLE??」、鈍く艶めきながらまどろんでいく「ERASER HEAD」と、oniの描く妖美なエレクトロはEMPiREの新たな側面を引き出し、今や欠かせない武器になっている。そんな「maybe blue」のダークな雰囲気に見合った詞はMAYU EMPiREが書いた。「ERASER HEAD」に続いて女性の心の影を覗き見するような世界観はすっかり彼女の作家性にもなっているが、陰鬱にならずに前向きさを感じさせるのも“らしい”ところだ。


 MAYU EMPiREの真っ直ぐで力強い歌声は、そのままEMPiREの意志であるように思う。そこに変化球を加えてくるのが、MAHO EMPiREである。滑舌自体は緩いのに言葉がきちんと聴く耳に届く不思議な歌声。いくつかの歌唱法と発声を使い分けながら甘く豊潤な声を響かせる。ツアーセミファイナルの新宿BLAZE公演では喉が不調だった彼女が終盤に聴かせた、“思うようにならない歌声”に心を大きく揺さぶられた。あの時、いちばん悔しかったのは本人だと思うが、あれ以来、ボーカリストとしてさらに強くなったように思える。


 そして、YU-Ki EMPiREだ。屈託のない愛想のよさと持ち前の明るさは以前からムードメーカーであったが、グループの大きな柱だったYUKA EMPiREに変わって、いつしかグループを包み込むような存在となっていた。3度のBLITZ公演、すべて雨に見舞われた“雨女疑惑”は別として、グループを代表し「私たち自身が、エージェントのみんなを支えられるような頼もしい存在になる」とMCで語る凛とした姿は勇ましかった。そんなYU-Ki EMPiREがステージで見せる艶麗な佇まいは、アンニュイな眼差しで蠱惑的な色香を漂わせるMiKiNA EMPiREと双璧を成す、EMPiREの婀娜(あだ)めく女帝だ。


 NOW EMPiREのダイナミックなダンスと対に、MiDORiKO EMPiREの斬り込みも映える。一見自由奔放に見えるが、ちゃんと周りを見据えたメリハリの付け方は巧妙で勘は鋭く、ちゃんと来て欲しいところでバッチリ来てくれる安心感。こんな6人が作る帝国なのだ、この先ますます面白くなるに決まっている。BLITZで最後の最後に届けられた「SUCCESS STORY」はそれを予感させるほどに強さと勢いとクールさと、精彩を放っていた。


 昨年9月のBLITZワンマンから今年3月までのEMPiREは激動だった。成長というよりベクトルの変化、というほどにグループの性質が変わったと思っている。そして、YUKA EMPiRE脱退からNOW EMPiREの加入、ツアーを完走した今日までは“破壊”と“進歩”を経て、大きく進化を遂げた。模索しながら踠いていたこれまでとは異なり、一気に駆け上がろうとする6人の姿が今ここにある。NOW EMPiREの加入がグループにとって新しい息吹をもたらしたことは事実であるが、そこに至るまでの5人の積み重ねと、受け入れ態勢が万全であったからこそ、それを追い風にすることが出来たのだと思う。


 10月にはニューシングル、12月にはニューアルバムのリリース。そして秋からのツアー『EMPiRE’S GREAT ESCAPE TOUR』ではガンダムの足下、初のZepp DiverCity Tokyo公演も待っている。帝国の未来を勝ち取るため、EMPiREの“サクセスストーリー”は始まったばかりだ。(冬将軍)