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全日本F3選手権:2戦連続抗議→車両規則違反失格の異常事態。いま、シリーズに何が起きているのか?

2019年07月17日 16:11  AUTOSPORT web

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2019年の全日本F3選手権第10戦のスタートシーン
2019年の全日本F3選手権は、7月14日に第12戦が開催され、シリーズは残すところ3ラウンドとなった。しかし6月23日にスポーツランドSUGOで開催された第10戦、そして7月13日に富士スピードウェイで開催された第11戦と、2戦続けて決勝レース後宮田莉朋(カローラ中京 Kuo TOM'S F317)の車両に対して、サッシャ・フェネストラズ(B-Max Racing with motopark F3)のチームから抗議が提出され、宮田が車両規定違反により失格となるという、ある意味“異常”な事態が起きている。いま、全日本F3選手権に何が起きているのか。関係者の話を聞いた。

■2戦連続での同一チームからの抗議、そして失格
 このふたつのレースについてまず事実関係を記すと、6月23日のSUGOでの第10戦では、レースは大湯都史樹(TODA FIGHTEX)が初優勝。2位に宮田、3位にフェネストラズが入った。しかしレース後、#11(フェネストラズ車)から、#36(宮田車)に対して抗議が提出され、決勝レース結果は暫定のまま保留となった。

 JAF日本自動車連盟を通じて裁定された結果は、7月11日付けで大会審査委員会から発表されたが、宮田車は2019年全日本フォーミュラ3選手権統一規則 第6条 1.車両規定違反とし、第22条 2.12)に基づき、失格のペナルティが科された。

 このSUGOで車両規定違反と指摘された箇所は、リヤウイングのメインプレートを翼端板に取り付けるためのキャンバープレート。チームは通常使用していたテクニカルリストに従い、精度とコスト面を求めて自作していたが、FIAヨーロピアンF3で使用されていた、テクニカルリストに付随する“ホモロゲーションシート”には、純正品を使用しなければならないと記載があった。

 審査委員会は、このパーツはルールとして純正を使わなければならないと裁定したが、これはつまり全日本F3選手権も、昨年まで開催されていたFIAヨーロピアンF3と同じテクニカルリスト、ホモロゲーションシートに沿った車両規定で戦わなければならないと判断されたことになる。

 これを受けて、富士ラウンドの走行初日となる7月11日(木)、エントラントミーティングがあり、ここでホモロゲーションシートが配布された。2017年発行のものだったが、初めて見るというエンジニアもいた。これまでテクニカルリストを元に、「この改造は許される」という判断のもと全日本F3選手権の多くのチームで、細かい部分を改造していたのだ。なおこれには、程度の差こそあれB-MAX Racing Teamも含まれる。

 各チームはホモロゲーションシートに沿って、車両で直せる部分については対応した。もちろん一度穴が開けられているようなパーツもあったが、これについてはテープ等で穴埋めすることで対応した。必要な部分については、改めて購入せざるを得なかったという。

 こうして迎えた7月13日の富士での第11戦だったが、レースはフェネストラズとのバトルを制し、宮田が優勝。フェネストラズはセーフティカー明けのリスタート時に、わずかにスタートラインを越える前に宮田を抜いてしまい、ペナルティを課せられ7位でフィニッシュした。なお、このミスについてはフェネストラズ自身が「僕のミスだった」と認める悔しいレースとなった。

 ところがレース後、ふたたび#11から#36に対して抗議が提出され、16時50分付けで前戦と同じく2019年全日本フォーミュラ3選手権統一規則 第6条 1.車両規定違反とし、第22条 2.12)に基づき宮田は失格という処分が下された。

 カローラ中京 Kuo TEAM TOM'Sによれば、今回指摘を受けたのは、フロントウイングのフラップの外側にあるプレート。このプレートはカーボンの単板で、1.5mmほどの厚みがある。ホモロゲーションシートでは、断面に対してバリ取り等である程度丸みをつけることは認められているが、宮田車はより大きな角度で削られており、これが違反ということになった。

「そこまで削ると(純正のままのものから)形状も異なり、重量も変わるであろうと。カーボン製なのでほとんど重量は変わらないとは思いますが、それが違反であるということでした」

■車両規定はFIAが定めたルールか、そうではないのか?
 異例とも言える、2戦連続の失格処分。しかもこの結果により、B-Max Racing Team with motoparkは第10戦でフェネストラズの順位がひとつ上がり2位に。また第11戦では、エナム・アーメドが初優勝。またフェネストラズも6位で1ポイントを得ている。チャンピオンを争うフェネストラズのための、意図的な抗議だったのだろうか。

 抗議を行った#11=B-Max Racing Team with motoparkは、2018年のマカオGPでB-Max Racing Teamと、ヨーロッパのジュニアフォーミュラの有力チームであるモトパークの間で協力関係が締結され、今季から全日本スーパーフォーミュラ選手権と全日本F3選手権に参戦しているチーム。その代表であり、ドライバーDRAGONとして自らもレースに参戦している組田龍司代表に、抗議の理由を聞いた。

「抗議の内容としては、モトパークと我々が組んでレースをやっているなかで、モトパークのテクニカルスタッフが『日本ではこのパーツは使っていいのか?』と言ってきたことです」と組田代表は言う。

「あくまでこれは全日本F3選手権ですが、モトパークとしては、2019年までは『FIAにホモロゲートされたエンジン、車両を使った競技なので、FIAのルールが適用されるのではないのか?』という考え方なんです。ただ厳密に言うと、全日本F3選手権はJAFの管轄で行われているわけで、FIAとJAFがすべてイコールかというと、そうではない」

「なので、その点について判断を求めたいという意味で抗議を出しました。『これは日本では許されるのか?』という彼ら(=モトパーク)の疑念に対して、抗議というかたちでチェックをしてもらったということです」

 この“チェック”の結果、JAFはカローラ中京 Kuo TEAM TOM'Sが使用していたパーツが違反であるという結論を出した。ただこの件について、組田代表にはある思いがあったという。

「今の時点(第10戦後に取材)で言うと、ヨーロッパの人たちが細かくライバルチームのクルマを観察し、そしてレギュレーションの内容をよく理解していたことが受け入れられたということですが、その点で言うと、僕たちは車両規定の部分でライバルに対して抗議を出したことはないので、僕たちも“甘かったのかな”と言わざるを得ないです。逆に抗議を出した相手も、同じ日本のチームなので、甘かったのではないかなという認識です」と組田代表。

「僕はB-Max Racing Teamを運営していますが、例えば仮に、モトパークが競争相手だとしたら、僕たちが抗議されて同じ目(=失格)に遭っている。チームとしては彼らと一緒に組んでやっているとはいえ、日本のレースなので、日本のレースをやっている人たちがそれを理解できていないというのは、僕たちにとっても恥ずかしいと言いますか、勉強不足だなと大いに反省しているところです」

 今回モトパーク側が指摘したホモロゲーションシートについては、組田代表も「知らなかった」という。昨年までマカオにはB-Max Racing Teamもトムスも、他の日本チームも参戦していたが、もし仮に日本チームのドライバーが表彰台を獲得したとしても、再車検で失格になっていたはずと組田代表は指摘した。実際、マカオでは走行前にホモロゲーションに合わせるべく、日本チームが走行直前に作業を行っていたシーンはこれまでにも何度もあった。

■「世界のレースの基準と肩を並べるため」に
「今回技術規則で抗議を出しましたが、相手を嫌いとか、憎んでいるのではなくて、公平性を保つために『これはどうなんですか?』ということを、主催者なり、その分野に長けた人に裁いてもらいたかった。僕はこの件で改めて、日本人という単一民族がひとつの国の中で、いつも同じメンバーで、ある意味友だちのような感じでレースをしてきたのだと感じています。でもヨーロッパは大陸で、さまざまな国のチームが戦っている。文化の違いがあります」と組田代表は続けた。

「それと、他のチームに当てはまるかどうかは分かりませんが、やはりレースをやる上でそもそも多額のお金がかかる。そこに来る若手ドライバーは、いわば人生をかけていて、レース結果は人生を左右する。そういう人生を預かっている立場としては、ルールの理解が浅いとか、それに対して“抗議”という手段をもって相手と戦って、自分のチームのドライバーを守るとか、そういうことができなければ、ドライバーはそのチームを選ばないですよね」

 ヨーロッパのモータースポーツ界では、こういった“抗議”という手段で自チームのドライバーを守る手段は、ある意味一般的だと多くの関係者が指摘するが、2戦連続での抗議というこのケースについては、カローラ中京 Kuo TEAM TOM'Sの山田淳監督は「我々はマカオで、ヨーロッパの他のチームと戦ってきました。モトパークは新しいチームなのであまり交流はありませんでしたが、他のチームは、お互いに車両に問題があれば事前に指摘して、『直さなければ抗議するよ』と、相手をリスペクトしたワンクッションがあったんです。ただ彼ら(モトパーク)がそういうことを知らないのかは分かりません」という。

 もちろんB-Max Racing Teamの組田代表も「同じチーム同士の話で2戦連続というのは前代未聞だと思いますし、個人的に言わせてもらうと辛いです」と抗議という形を、しかも二度連続でとったことに対して個人としての心情を述べた。

「他チームさんが、これを快しとするかどうかはまた別な問題ですよね。なんとなく個人的に『すごく嫌われているな』とか『うざったいヤツが来たな』と言われていると思うんです。でも一歩引いて考えれば、それによって世界のレースの基準と肩を並べ、『日本のレースもきちんとやっているね』とヨーロッパの人たちも感じてくれると思うんです」

「同じ国の仲間で、一緒にレースを戦ってきた意識もありますし、足の引っ張り合いがレースだ……というのは僕自身の意識としてもなかなか受け入れられないです。でも、それではいけないと切り替えていかなければならない。モトパークと組むからではなくて、彼らが仮に去った後でも、B-MAX Racing Teamとしてはそういう知見をもって、テクニカルもスポーティングもしっかりと理解してレースに臨むチームにしなければならないと思っています」

 第11戦が行われた7月13日夜、カローラ中京 Kuo TEAM TOM'Sは深夜0時近くまでかかって車両のチェックを行った。そして、組田代表からの「すべて見直せ」という指示でB-Max Racing Team with motoparkの4台のマシンも、全車再度きちんと適合した車両であるかがチェックされ、スタッフは深夜まで作業を行った。その結果、7月14日(日)の第12戦は、特に抗議もなくレースの正式結果が出ることになった。

■“事件”への感想はまちまち。賛否両論渦巻く
 以上が全日本F3選手権第10戦/第11戦における抗議についての概要だが、当然ながら抗議というスタイル、また車両規定についてさまざまな議論が起き、7月14日の第12戦のレース後には、ふたたびエントラントミーティングも行われ、そこでもさまざまな意見が交わされたようだ。折しも2020年に向けて使用車両など、全日本F3選手権には大きな変化が訪れると言われているが、その中で起きた事柄だった。

 富士ラウンドの週末、この件に関して全日本F3選手権参戦チームの複数関係者から意見を集めたので、ご紹介しよう。

・Aチーム監督兼エンジニア
「トムスがやったことは、そこで速さが変わるパーツではないですが、今までのルールが不明瞭すぎますね。テクニカルノートにはちゃんと明確なルールが書いておらず不明確で、ずっと自分は『どこをいじっていいのか』とまわりに聞き続けていた。でもそれ示す明確なシートがなかったんです」

「フロントウイングのサイドフラップについても、みんな角度が分からないように自作をしていた。『これは作っていいの?』と聞いたら『いいんだ』と言われたので、それがルールなのかと思っていた。実際にルールがあったにも関わらず、作ってしまったのはトムスの責任ではあるんだけど、ルールが不明確ななかで、いきなり失格にするのはどうかなという気持ちですね」

「木曜のエントラントミーティングで、初めてホモロゲーションシートが配られた。そうしたら、いろいろなものがダメじゃないかとなった。それまでほぼ全車フロントウイングはホモロゲにあるパーツに穴をあけて、ワイヤーで吊っていたけど、『コレもだめなの?』と聞いたら、ホモロゲシートに書いてあるものに加工しちゃダメなので、全車外したくらい(笑)」

「今までが正直言って不明確すぎた。本当はこういうことはレース後に突くのではなく、レース前にみんなでミーティングするべきだと思う。今までもミーティングしてきたと思うし、日本のルールでこうしましょうとやってきた。日本フォーミュラスリー協会も頑張ってくれているけど……」

・Bチーム監督
「SUGOについて言えば、日本でJAFもチームも知らないホモロゲーションシートが存在していて、向こうはヨーロッパでやっているからと持ち出してきて、それに対して『うん』と言ったJAFに問題があるのではないでしょうか。これはJAFのレースじゃないですか。FIA管轄のレースだったら分かりますが、『それならスーパーライセンスポイントをもっとくれ』と思いますよね」

「今年はレベルもすごく高いですし、その意味では彼ら(モトパーク)が来たのはいいことなのですが、今までみんな全日本F3選手権は若手の育成というかたちで見ていたと思うんです。それがいきなり戦争のようになってしまったので、その温度差については、逆に我々も目が覚めましたね。ああいうスタンスで来るのなら、我々も甘かったな、と反省しました」

「富士での第10戦の件については、逆に『よく見ているな』と。SUGOのことについては、速さは関係はないと思いますしね……。レースはレースでやはり戦いなので、そういうスタンスも必要なのかな……と、良い意味で気付かされたと思っています」

・Cチームエンジニア
「第10戦の件で言えば再車検もクリアしているわけで、そこに対して抗議を上げて失格……という状況はおかしいと思います。なんのための再車検なのか。またモトパークから抗議が起きていますが、自分たちの成績が悪かったときに抗議が出ているのが、子どものケンカのように感じてしまいます」

「誰かがはっきりと『こうしなさい』というルールを提示できる人がいないと、こういうことが起きてしまう。またレースのスポーティングの面についてもおかしい部分がありますし、ペナルティを受けている状況で抗議が上がるのは少し違うのではないかな……という気持ちはあります」

「ホモロゲーションシートについては見たことがなかったです。この話が出て『そうなの?』と聞いて、今回シートが提示されました。JAFが明確に『これはいい、悪い』というのを示してから話を進めるべきではないかな、と思います。このレースはトップカテゴリーではなく、ステップアップカテゴリーなので、ドライバーをどう育てるかが大事だと思うんです。そのなかで大人のケンカみたいになってしまうのは、いかがなものかと思いますね」

・Cチームアドバイザー
「今年からモトパークやカーリン(YTB by Carlin)が参入して、ヨーロッパでのやり方を採り入れてきている。自分もヨーロッパで経験したことはありますが、レースの世界ではどこかにボロがないかということをメーカーやチーム単位で探してくる。僕たちはそこまで気付いていなかったのですが、昨年までFIAヨーロピアンF3を戦ってきたチームなので、海外ではそういうことが起きていて、日常的なのだと痛感しましたね」

「去年で言うと、ヨーロピアンF3で急にミック・シューマッハーが勝ちだしたときに疑義が出たりとか、一時プレマパワーが勝ち続けたりしたときに、そういう話が出てくるんですよね。今は全日本F3選手権でも、トップ2のデータがある程度見られるようになっているんですが、やはり何かあるんでしょう」

「その中では、モトパークはやはり目が肥えているんだと思います。向こうは争いも激しいでしょうし、スパイを送り込む……ではないですが、私服で写真を撮りにいったりと、アラの探しあいがあるんだと思います。彼らにしてみたら、マカオでは近年そこまでではないトムスが日本に来てみたら速いので、何かやっているのでは……と疑いをもったのではないでしょうか」