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戦争を子供として経験した世代だからこそ描けるもの 『なつぞら』坂場と仲の対話を読む

2019年07月16日 12:22  リアルサウンド

リアルサウンド

『なつぞら』写真提供=NHK

 時代が進むにつれて、文化や考え方はどんどん変わっていくものである。そして、いつしかあるものは“新しい”、“モダン”とされる一方、あるものは“古い”とみなされてしまうことも……。『なつぞら』(NHK総合)第92話では、時代とともに変化していくものや、価値観に対して焦点が当てられた。


参考:『なつぞら』夕見子の駆け落ち相手・高山は須藤蓮 「まさか自分が朝ドラに出演できるなんて」


 「風車」には夕見子(福地桃子)とともに“しがらみの外へ踏み出した”、高山昭治(須藤蓮)と名乗る人物が訪れていた。泰樹(草刈正雄)を意識した風貌の彼は、ジャズに関心があり、評論を手掛けているのだという。とはいえ、昭治が好きなものはジャズの中でも、モダンジャズ。亜矢美(山口智子)が、グレン・ミラーやベニー・グッドマンのレコードを掛けようとしてくれるのだが、昭治はそれを断る。彼曰く、新宿は今やモダンジャズの街になりつつあるのであって、それを知らないのは“古い”らしい。


 それを聞いたなつ(広瀬すず)は、「人それぞれ大事にしているものがあるのは当たり前」「それを人に“古い”と言われるのはおかしい」のではないかと投げかける。そんななつに対して、昭治は「古いものに固執することを“古い”と言って何が悪い」と言うものの、なつの言うように“人それぞれ”であること自体は否定しなかった。


 一方、東洋動画では坂場(中川大志)と仲(井浦新)たちベテランとの間で、漫画映画に対する考え方を巡って意見が交わされていたのだった。


「その考えはもう“古い”んじゃないでしょうか?」


 こう口にした坂場は、これからの時代の漫画映画は大人のためにも作るべきだと主張する一方、仲はあくまで子どものために作るべきだと語る。坂場は、大人になって意味が分かるようなものでなければ、“子どものおもちゃ”に終わり、いずれは廃れていくのではないかと考えているのだった。漫画映画を他の映画に並ぶ、あるいはそれ以上にして、これまでにないものを作り上げたいという坂場の思い。それは、彼の子どもの頃の経験につながるところもあるようだった。


 なつとの会話の場面で、坂場は自身が空襲で身に染みた経験を話していた。家族を探して焼け跡を歩き回った坂場。孤独、絶望感、大人の冷たさ、子どもの卑しさ……。どれもが強烈な経験として彼の記憶の中に残っていた。でもその一方で、“見知らぬ人の愛”を実感した出来事でもあったという。そしてそうした経験が今の自分を作っている。「だから何だと言うんですか」となつから問われた坂場は、だからこそ「仲さんたちとは違うものを作るのは、“僕らの使命”なんです」と言った。“おもちゃとしての夢”に終わらせたくないという強い思いがあるようだった。


 もちろん、仲が言ったように、高い理想を掲げる中でも、これまでのように純粋に子どもが楽しめるという要素も必要なはずだ。坂場が言うような理想もある一方で、物語それ自体もワクワクするような映画。そんな『ヘンゼルとグレーテル』が出来上がることを期待したい。(國重駿平)