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福地桃子「ずっとピュアに演じたい」 『なつぞら』“ヒロインのカウンター”としての夕見子の魅力

2019年07月16日 10:11  リアルサウンド

リアルサウンド

福地桃子『なつぞら』(写真提供=NHK)

 「夕見子は、思ったことを包み隠さず口にするまっすぐな性格」と、自身の演じるキャラクターを評する福地桃子。朝ドラ『なつぞら』(NHK総合)にて彼女が演じる柴田夕見子は、健気なヒロイン・なつ(広瀬すず)とは正反対の性格だ。その言動の数々が、これまでにも多くの視聴者をざわつかせ、同時に心を掴んできた。しばらく登場のなかった彼女だが、ここにきてまた、大きく物語を引っかき回すことになりそうだ。


 あらゆる物事を達観し、革新的で鋭い物言いが特徴の夕見子。あからさまな悪役や敵となる存在が見受けられない『なつぞら』では、なつの前に立ちはだかる最初の強大な存在が、祖父の泰樹(草刈正雄)であった。しかし、彼女はすぐに泰樹の理解を獲得。それ以降のなつと多少の衝突を繰り返してきた存在が、福地演じる夕見子なのである。衝突といっても、そんなに派手なものではない。いずれも、物事に対する考え方の相違による、ちょっとしたズレである。


【写真】福地桃子インタビューカット


 福地は夕見子役について、自身とは正反対の性格だと言う。「夕見子のデリカシーのないような発言に、最初は共感できない部分もありました」と明かしており、さらには「今まで演じてきた役の中で、もっとも葛藤し悩んだ」という。福地自身、手探りで、試行錯誤しながらこの役に挑戦したようだが、視聴者である私たちの目には、とても自然体で作品内に存在しているように映っていた。


 クランクインして最初の1週間は、家族でのシーンが続き、柴田家の食卓のシーンはまとめて撮影を行った。その1週間を経ていく中で、福地は「夕見子の発言について、あまり深く考えないようにしようと思った」と話す。それは、「(母を演じる松嶋菜々子、父を演じる藤木直人ら)家族の中で、自然に出てくる言葉に身を任せてみよう」という役へのアプローチに心持ちが変わったから。独立した一人のキャラクターではなく、この「家族」という共同体の中でこそ、「夕見子の不器用な表現を、愛だと感じられるようになった」と話していた。


 そんな夕見子は、不器用ながらに、これまでになつの背中を押すシーンが多くあった。そういった瞬間での夕見子なりのエネルギーを使った伝え方に、「夕見子の強くて優しい部分を自分自身が感じられた。夕見子のことが好きになった」と明かしている。そこで福地は、「お芝居をする中で、役を好きになるということは、すごく大事なのかもしれない」と、この役、この作品から、教わることになったという。


 先述したように、あからさまな悪役や敵といった存在がいない本作だが、なつにとっての敵といえば「時代」や「境遇」そのものであったように思える。そんな彼女を周囲のキャラクターの一人ひとりが支え、夕見子もまた、なつと互いに刺激を与え合いながらその役割を担ってきた。福地は「夕見子はトラブルメーカーというふうに見られているんじゃないかな」と、役を俯瞰して見たときに感じたそう。しかし、「いい意味でも、悪い意味でも“真っ直ぐ”で、突拍子もない行動を取っているという自覚がなく、どれも自身の意志を信じて取っている行動」だとも話し、だからこそ福地は夕見子のことを、「ずっとピュアに演じたい」と思ったという。さらに、夕見子の一挙一動は「反抗心からくるものではない」とも述べている。達観した、大人びた態度を見せながらも、そういったある種の“子どもらしい一面”が、多くの観る者の心を掴んでいる理由の一つでもあるのだろう。


 そんな福地だが、昨年は『あなたには帰る家がある』(TBS系)、『チア☆ダン』(TBS系)と同枠のドラマに2クール連続で出演し、その存在感を少しずつ示し始めた。そして今年は、映画初出演にして初主演を務めた『あまのがわ』が公開。その直後に封切られた『あの日のオルガン』や『チア☆ダン』と、有望視される若手が集う作品にキャスティングされているあたり、彼女への期待度の高さがうかがえる。


 まだデビューしてキャリアの短い福地だが、彼女にとって『なつぞら』が、早くも迎えた転換期であることは間違いなさそうだ。本作でもそうだが、これからますますドラマ・映画界を引っかき回してくれることに、大いに期待である。


(折田侑駿)