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菅田将暉、石崎ひゅーい、土岐麻子……鋭いクリエイティビティ発揮するトオミヨウに注目

2019年07月15日 11:41  リアルサウンド

リアルサウンド

菅田将暉『LOVE』(通常盤)

 あいみょんや菅田将暉といった若手から、土岐麻子のような中堅、槇原敬之や玉置浩二などのベテランまで。世代やジャンルの異なるミュージシャンの作品で編曲を手がけ、辣腕を振るうトオミヨウ。エレクトロニクスをふんだんに使ったダンサブルな楽曲からストリングスをフィーチャーしたリッチなバンドサウンド、アコースティックな弾き語り……と、ジャンルを問わない巧みな手腕を持ち、ハイクオリティのポップスを次々とチャートに送り込む才人だ。


(関連:菅田将暉は“衒いなき愛”とともにアーティストとして成長する アルバム『LOVE』を聞いて


 先ごろリリースされた菅田将暉『LOVE』は、その手際を再確認させられる仕事ぶりだ。同作でトオミは11曲中5曲で編曲を手がけている。菅田の実直な歌声が印象的な同作だが、ストリングスをふんだんに使ったバラード「まちがいさがし」のようにJ-POPの王道をストレートに表現したかと思えば、「ベイビィ」ではレコーディング現場の空気感までを収めたシンプルなギター弾き語りに。白眉は、菅田とあいみょんのコラボレーションとなる「キスだけで feat. あいみょん」だ。アコースティックギターとピアノをメインにおいたアレンジに、深いリバーブとともに電子音を溶け込ませたサウンドが、生々しく切実なメッセージに浮き世離れした壮大な舞台を用意しているのが素晴らしい。


 長年コラボレーションを重ねてきた石崎ひゅーいとの仕事も、トオミが持つ編曲の引き出しの豊かさが感じられる。こちらも最近の例になるが、石崎が提供した菅田将暉「さよならエレジー」やそのセルフカバー(ミニアルバム『ゴールデンエイジ』収録)を比較してみると面白い。前者ではアコースティックギターの力強いストロークと疾走感あふれるドラムが、マイナー調のメロディに昭和歌謡的な味わいを付け加えている。対して後者では、メロディはもちろんメインのリフも基本的には変わらないものの、ライブ感のあるジャキジャキとしたドラムやギターのサウンドで邦ロック的なみずみずしさをたたえている。4つ打ち系のスピード感あふれるロックやファンキーなダンスロックでキャッチーなサウンドを連発する『ゴールデンエイジ』自体、快作だ。


 土岐麻子も2017年の『PINK』、2018年の『SAFARI』でトオミヨウと全面的にタッグを組んでいる。この二枚で土岐は自身の愛する「シティポップ」を現代的な感覚で再解釈した都会的なサウンドを展開。いわゆるネオシティポップやシティポップリバイバルとは距離を起きながらも、「シティ」の精神を受け継ぐ名盤と言っていいだろう。土岐とのタッグでは、石崎ひゅーいとのタッグとは異なり、エレクトロニックなサウンドで統一されているのがひとつの特色。しかし、シンセサイザーの音色をある曲ではダンサブルに、ある曲ではしっとりと鳴らすニュアンスの妙が楽曲に豊かなバラエティを与えている。


 個人的な嗜好から言うと、音数を絞ったミニマムな編曲に、浮遊感のあるパッドやリバーブでふくよかな奥行きを与える「Fancy Time」や「Blue Moon」(いずれも『PINK』収録)、また「mellow yellow」(『SAFARI』収録)といった楽曲に、とりわけ行き届いた仕事の丁寧さを覚える。いずれも名曲だ。


 石崎や土岐との仕事からは、トオミヨウが築いてきたミュージシャンとの信頼関係も伺える。たとえば石崎は2016年のインタビュー(参考:http://girlsartalk.com/interview/21287.html)で「プロデューサーであるTOMI YO氏に一任しており、僕からは特別な指示はしていません。完全お任せして、僕は傍観しています…隅の方で丸くなって「どんなんなるかな?」って(笑)。」「[筆者注:トオミの編曲で楽曲のイメージが変わってしまうことも]ありますが…それもそれで楽しめる素敵なアレンジに仕上げてくれるんです。むしろ、TOMI YO氏から返ってくるアレンジを楽しみにしています。」と語っている。トオミの編曲の多彩さに加え、石崎からトオミへのクオリティに対する信頼が伺える発言だ。


 チャートを賑わすヒットソングを支え、またミュージシャンとの共同作業でも鋭いクリエイティビティを発揮するトオミの活躍を目にする機会は今後より増えていくのではないだろうか。(imdkm)