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“Lo-Fiドリームポップアイドル”は何を意味する? 現実をひっくりかえすSAKA-SAMAの世界

2019年07月15日 11:41  リアルサウンド

リアルサウンド

(C)松村早希子

洗練され綺麗に整えられたHi-Fiの世界に行けない自分。
何万回の再生で歪んだカセットテープ。
回転数を間違えたレコード。
逆さまの世界。


 アイドルグループ・SAKA-SAMAのキャッチフレーズ「Lo-Fiドリームポップ」。なんだかキラキラした響き、聞いた瞬間ときめく言葉、でも一体どういう意味なんだろう。


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 自分にとっては人生を揺るがすような壮大な体験も、すべてを懸けて愛する存在も、他人からはバカにされて、こんなの何の価値もないと言われてしまう時。自分の思う「ふつう」が、世間の「ふつう」とズレていた時。毎日を過ごす中のちょっとした悲しみや、言葉で説明できないくらい小さなことで、自分の全部が壊れてしまう時。SAKA-SAMAの世界は、そんな瞬間も、名前の付けられない感情も、全部に「いいよ」と言ってくれる。面白ければいいよ、めちゃくちゃでもいいよ、楽しければいいよ。この現実の正しさと、逆さまでもいいよ。穴の空いたタイツ、果物に貼ってあったシール、耳が取れてボロボロになったうさぎのぬいぐるみ、小指よりも短くなった鉛筆……可愛いものたちみんな、捨てなくていいよ、と。


 街を歩くと肌で感じる80年代ファンシーカルチャーのブーム。クラブでかかるオシャレな音楽のジャケット、原宿で売っているコスメ、セーラーズやピンクハウスの復権。大人が「過去を思い出す恥ずかしいもの」と捨て去っても、まっさらな若者たちが新しい魅力を見つけ出して宝物に変える。大中・宇宙百貨・文化屋雑貨店……閉店してしまってもみんなの心の中に生き続けている、伝説のお店たち。


 ファンシーショップの紙袋に描かれた名もないキャラクターが、人間化して現実世界に舞い降りたら、SAKA-SAMAのメンバーになっていた。ファミレスで知らないおばあちゃんに話しかけられちゃう、ここねん。マンホールを探して旅する、まひるん。卵かけご飯研究家の、たまごちゃん。ママ手作りの布バッグで衣装を運ぶ、ミ米ミ(みーまいみ)ちゃん。ユニコーンに乗って移動する、まーなちゃん。


 SAKA-SAMAが所属する<TRASH-UP!! RECORDS>。トラッシュ=ごみ屑。一般社会ではゴミ箱に捨てられてしまう「屑」の山の中に、自分だけの宝物を掘り当てる喜び。初めて聞いた時は変わった名前だと思ったけれど、そんな特別な喜びを知っている大人たちの胸に「トラッシュカルチャー」の矜持が在ることを知った。


 「寿司でぃ・ないと・ふぃーばー!!」「パーティー・パーティー」の、何もかもどうでもよくなって一晩中踊っていたくなる気持ち。「パルピテーション・パルプフィクション」「ネズミの生活」の、イントロが流れた瞬間に湧き上がるどうしようもなく懐かしい気持ち。「終わりから」「世界」「可能性」の、頭の中が轟音で塗り潰され絶望の淵にいるようで、遠くに一筋の光が見えてくる瞬間。何かが始まる時の高揚と、何かが終わる時の悲しみが、怒涛の勢いで胸を埋め尽くす「朝日のようにさわやかに」。


 ライブで盛り上がって、沢山のお客さんと一緒に聴いている時でもSAKA-SAMAの音楽はいつも、一人夢見る布団の中と繋がっている。ふわふわ浮かぶ女の子たちの声が、捕まえようとすると逃げてゆく音符に乗って、ぐわんと歪んだギターで脳天撃ち抜く。この感覚こそが「Lo-Fiドリームポップ」ってやつなのかもね。(松村早希子)