2019年07月15日 10:31 弁護士ドットコム
知らない間に離婚していたーー。にわかには信じがたいかも知れませんが、弁護士ドットコムには、配偶者から勝手に離婚届を出されたという相談が数多く寄せられています。
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内容は人それぞれ。ある男性は妻との電話の中で離婚届を出されたことを知りました。確かに署名・捺印したことはあるものの、随分前の話だといいます。「『勝手に出さない』と口約束していたのに」と嘆きます。
夫婦ゲンカのとき、本心ではなくても、冷静に話し合うため、あるいはついカッとなって、離婚届にサインしてしまうということは実際にあるようです。
親族を通じて、別居中の夫が勝手に離婚届を提出していたことを知ったという女性もいました。自身は署名、捺印をしていません。つまり、夫による偽造です。離婚はしたくないけれど、無効を主張すれば、夫が罪に問われるのではないかと不安に思っているそうです。
この女性のように署名を「偽造」されることは珍しくないようです。それだけに、勝手に離婚届を出されない方法を尋ねる相談者も複数います。
仮に夫婦仲が悪くても、子どもの存在や仕事、生活の関係で別れたくないという場合もあるでしょう。合意のない「勝手に離婚届」をめぐる法律問題について、和賀弘恵弁護士に聞きました。
ーー離婚届は二人で出しに行かないといけないのでしょうか?
「そんなことはありません。当然、夫または妻が単独で提出することができます。代理人が提出することもできます」
ーーそんな気はなかったけど、サインしてしまったという人もいます。署名が自著なら有効なんでしょうか?
「離婚届に署名するときだけでなく、離婚届の提出時においても(提出する人がだれであ っても)、離婚するという意思(離婚意思)が必要になります。
夫婦喧嘩の勢いでつい書いてしまった離婚届を勝手に出したけれど、相手は離婚するつもりはなかったというような場合には、離婚は無効です」
ーー冒頭の男性の場合、署名はかなり前に書いたものだったそうです。世の中には、結婚と同時に「覚悟」のために離婚届も用意しておくというカップルもいると聞きます。
「離婚届の署名が最近のものでなくても、離婚届を提出するときに、相手方も離婚する意 思があれば、離婚届の提出は有効です。
ただ、多くの場合、署名が最近のものでない場合には、離婚届を書いたことすら忘れているでしょうし、離婚届の提出のときに離婚意思があるとは思えません。そうすると、離婚届の提出は無効です。
結婚と同時に『覚悟』のために離婚届を用意しておいた場合などは、まさしく離婚届を書いたことさえ忘れていることが多いでしょうから、悪用され、離婚意思がないのに提出されてしまいかねません。
離婚届を離婚する意思もないのに安易に書いてしまわないように注意しておきましょう」
ーー署名が偽物のときはどうでしょう。やはり犯罪になるのでしょうか?
「有印私文書偽造罪(3カ月以上5年以下の懲役)になります。
また、その偽造した離婚届を役所に提出することで、偽造私文書等行使罪(3カ月以上5年以下の懲役)になります。
それを役所の人が受理し、戸籍に虚偽の記載がなされると、公正証書原本不実記載等罪(5年以下の懲役または50万円以下の罰金)になってしまいます」
ーーいろんな犯罪に該当しうるんですね。署名しかないとき、勝手に印鑑を押すのもアウトですか?
「当然、印鑑を勝手に押しても、有印私文書偽造罪になります」
ーー冒頭の女性は、自分から離婚の無効を問題化すると、相手が逮捕されるかもしれないと心配に思っているそうです。
「まず、自分が告訴はしないことです。そうすれば、基本的には夫婦間の離婚トラブルであり、警察が動く可能性は低いと思われます」
ーー偽装署名をめぐっては2019年1月、夫を装って署名・押印した離婚届を出したとして、妻が逮捕される事件も起きています。この件では夫が処罰を求めて告発していました。
ーーもし勝手に離婚届を出されたとして、離婚したくないときはどうしたら良いのでしょうか?
「家庭裁判所に、離婚が無効であることの合意を求める調停を申し立て、合意が得られた 場合には『合意に相当する審判』を得ます。
この審判書を役所に提出して戸籍を訂正してもらいます。調停で合意に至らない場合は、訴訟を提起することになります」
ーー無効を証明するには、どういう証拠が必要なんでしょうか?
「離婚届の記載事項証明書などが証拠となります。また、メールやラインなど、離婚届提出時に離婚成立とは矛盾する内容のものも残っているなら活用しましょう」
ーーそもそも、あらかじめ「勝手に離婚届」を阻止する手段はないんでしょうか?
「勝手に離婚届が提出されても受理されないように、役所に『不受理申出』をしておきましょう。不受理申出の効力は無期限です」
【取材協力弁護士】
和賀 弘恵(わが・ひろえ)弁護士
大手食品メーカー、行政職員の経験を経て、目の前のただ1人の人を救う仕事をしたいと思い、弁護士を目指しました。現在は、的確な法的解決のご提案に加えて、カウンセリング機能も果たせる弁護士を目指して奮闘中です。
事務所名:みつ葉法律事務所
事務所URL:http://www.mitsuba-law.net