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大泉洋、満を持しての日曜劇場主演 『ノーサイド・ゲーム』“サラリーマン役”は新境地となるか

2019年07月14日 06:11  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)TBS

 大泉洋が日曜劇場『ノーサイド・ゲーム』(TBS系)に主演する。そう聞いて、サラリーマンの群像劇に出演するという意外性に驚いた人もいれば、「やっと日曜劇場に出演か」と思った人もいるのではないだろうか。


参考:大泉洋、7分間に及ぶ大演説を披露 『ノーサイド・ゲーム』熱弁に隠された真意を探る


 近年の大泉出演の現代劇を見ても、確かにサラリーマン役は少なく、売れないマジシャン(映画『青天の霹靂』)、売れない落語家(映画『トワイライト ささらさや』)、売れない漫画家(映画『アイアムアヒーロー』)と「売れない」自由業という役どころが非常に多かった。こう書くと「売れない」三部作みたいに見えてくるが、もちろんそれは偶然。


 そのほかでも、探偵(映画『探偵はBARにいる』シリーズ)や、ファミレスの店長(『恋は雨上がりのように』)や、制度を問う筋ジストロフィー患者(映画『こんな夜更けにバナナかよ』)、パン、ワイン、チーズの製造者(北海道企画映画三部作)、大工職人(TBS系ドラマ『あにいもうと』)、農業に関するNPO法人の代表(HTBドラマ『チャンネルはそのまま!』)など、サラリーマン役はまったくと言っていいほど見られない。


 それは、団塊ジュニアが自由や夢を求めて生きろというメッセージを受け、また就職氷河期も経験し、正規雇用ではなく自由業に就き、結果「売れない」という状況にありついたという実態を、同じく団塊ジュニアの大泉が役で引き受けてきたという側面があるのかもしれない。もちろん、あくまでも想像に基づくものと、役を見ての結果論ではあるが。


 ただ、昨今のCM(「リクナビNEXT」や「ドラガリアロスト」「三井住友海上火災保険」など)ではスーツ姿の上司役、先輩役で登場することも多い。そこでは、先輩や上司になっても、偉ぶったりせず、どこか頼りない部分も残したままだからこそ、隣にいるような現在のリアルなサラリーマン像を短い時間の中でも感じさせた。


 また連続ドラマW『プラチナタウン』(WOWOW)ではエリートサラリーマンから町長になる人物を演じていたり、10年以上前を振り返れば、『ハケンの品格』(日本テレビ系)では、サラリーマンのど真ん中を演じていたこともあり、久しぶりとはいえ、サラリーマンの大泉洋を自然と受け止める人もいるだろう。


 映像化を予定した完全なあてがきで執筆され、大手出版社の雑誌編集長が主人公で、スーツ姿に茶封筒を抱える大泉の写真が表紙となっている小説『騙し絵の牙』(著:塩田武士)も映画化が決定している。こちらも、『ノーサイド・ゲーム』のように雑誌の廃刊をめぐって組織に翻弄される展開もある。大泉はスーツの立ち姿が良いとファンの間では定評がある。今後はスーツ姿のサラリーマンという役も多くなっていくのかもしれない。


 TBS日曜劇場は企業や組織に生きる男性たちの群像劇が多いが、本作に大泉洋が出ることを待ち望んでいた人が多かったのも事実だ。なぜなら、彼が所属しているTEAM NACSのメンバーが次々と出演してきたからである。


 安田顕は『下町ロケット』(2015年、2018年)と『小さな巨人』に出演。また、音尾琢真は『陸王』(2017年)、『ブラックペアン』(2018年)に登場。戸次重幸も『下町ロケット』(2015年)で、安田演じる山崎の勤める佃製作所とはライバル会社の人間を演じ、NACSの共演にファンは沸いた。


 それだけではない。『下町ロケット』(2018年)には、後半の6話から主人公・佃の大学時代の同級生で大学教授というキーマンとして、森崎博之が華々しく登場。安田と合流し、話題をさらった。また、森崎を長年、農業を応援する仕事をしてきた実際の姿と重なる“無人農業ロボット”の研究者として起用したことや、NACSメンバーの共演をうまく話題にしてきたことで、ファンとしても、『日曜劇場』はTEAM NACSのことを「わかっている」と期待をしていたところもあるのではないだろうか。


 そのため、大泉洋はいつになったら日曜劇場に出るのかと心待ちにしてきた人も多い。もちろん、これらの日曜劇場のプロデューサーを務めてきた伊與田英徳と演出の福澤克雄の手がけた『LEADERS リーダーズII』(2017年)には、大泉も特別出演をしていたことも期待を煽っていた。


 これらのことを考えても、長年、連続ドラマの主演に期待されながらも出演してこなかった大泉が、満を持して主演をするとすれば、日曜劇場しかなかったとも思えるのである。


 この日曜劇場『ノーサイド・ゲーム』での大泉洋は、本社に返り咲きたいというエゴも見せ、また経営戦略のプロという一面を持つキャラクターでありながら、ラグビー部に真正面からぶつかろうとする熱い気持ちの芽を心の中に持ち、またがむしゃらにタックルして無様に地面に叩きつけられるという情けない部分を隠さない愛らしさも持っている。また、ラグビー部員たちが社内でどんな状況にあるのかを見つめる目線も持っている。ただ熱いだけでないサラリーマン像、そしてこれまでとは違う日曜劇場を最終回まで見せてくれるのではないだろうか。(西森路代)