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名門レッドブルの期待を背負うオワードが、初参戦のスーパーフォーミュラで示した『謙虚さと貪欲さ』

2019年07月13日 20:31  AUTOSPORT web

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TEAM MUGENからスーパーフォーミュラに参戦するオワード
全日本スーパーフォーミュラ選手権第4戦富士でメディア向けの定例会見が行われ、今大会からTEAM MUGENよりシリーズに参戦するパトリシオ・オワードが出席した。

 2019年シーズン、TEAM MUGENからは野尻智紀と、レッドブルの育成ドライバーであるダニエル・ティクトゥムというふたりがスーパーフォーミュラに参戦していた。ところが6月末、レッドブルが成績不振を理由にティクトゥムとの契約を解除したことを明かし、ティクトゥムはスーパーフォーミュラのシートをも失った。

 そのティクトゥムに代わってTEAM MUGENに加入したのがオワードだ。彼は2018年にインディカー・シリーズの下位カテゴリーであるインディライツでタイトルを獲得し、今年はインディカーにスポット参戦というかたちでカーリンから出場している。そして5月より、彼はレッドブルの育成ドライバーの一員となった。

 そんなオワードは、まず会見の冒頭に「みなさんこんにちは、パトです。よろしくお願いします!」と日本語で挨拶を述べ、日本語を勉強中であることを明かした。

「日本に来たのはこれが初めてだ。これまでみなさんに歓迎してもらって、すごく楽しんでいる。御殿場に来る前には東京で数日過ごしていて、とても美味しい寿司を食べたよ」

 事前のテストなどもなく、ぶっつけ本番でのスーパーフォーミュラデビューを果たしたオワード。金曜専有走行では27周を走り込み、タイムこそ最下位に終わったものの、その手応えについて次のように述べた。

「スーパーフォーミュラの第一印象は、すごく速いクルマだなと思った。ダウンフォースも効いているし、ドライバーが早くこれに慣れないと、自信を持って走ることはできない」

「ソフトタイヤに関しては、(インディカーで使用している)ブリヂストンよりヨコハマタイヤの方が若干硬い。ミディアムタイヤはかなり硬いので、それに適応するのに手こずっている。急に力を加えると保たないし、この点が一番難しいところだ」

 突然のシリーズ参戦にもかかわらず、土曜フリー走行ではホンダ勢トップとなる8番手タイムを残したオワード。早くもその才能を見せたかのように思われたが、本人はいたって慎重な姿勢のようだ。これからの予選、決勝レースを前に、オワードは次のように意気込みを語った。

「誰でもそうだけど、まったく知らないカテゴリーで、コースもクルマもまったくわからない状態で、シーズンの途中からいきなり参加するというのは本当に大変なことだと思う」

「他の人たちはコースやクルマのことをわかっているけれど、僕はまったくわからないので、今週末は少しでも慣れること、少しでも他の人たちに追いつくことが一番大事なことだと思っている。そういう意味では、まだまだやらなければいけないことはたくさんある」

「すごく競争力のあるクルマが走る新しいシリーズに参戦することで、たとえばF1などの次のステップを考えた時に、将来に備えるためには最適なシーズンだ」

「フリー走行を走って、とても楽しんで走っている。今週末もこれから先が楽しみだよ」

■インディカー参戦は“一時休止”。「今はスーパーフォーミュラが最重要だ」

 上述の通り、2019年はここまでインディカーとFIA-F2にスポット参戦してきたオワード。今回の会見では、自身の最終目標はF1であると明言しており、今後の出場カテゴリーも気になるところだ。

 スーパーフォーミュラへの参戦は、FIA-F2第6戦オーストリアに出場していた時に告げられたという。オワードはその時の状況と、事前にスーパーフォーミュラに対して持っていた印象を語った。

「オーストリアでF2に出場していた時に言われた話で、『次はすぐスーパーフォーミュラに行って』と言われた。一度日本に行ってみたいと思っていたし、食べ物も大好きだし、こういったチャンスをもらえるというのはすごく嬉しい」

「どのドライバーも、最終的にはF1に乗りたいと考えていると思う。今は僕自身、その過程の中にいて、最終的にF1にたどり着くかどうかはわからないけれど、自分としては、ここできちんと求められた結果を出すことが次のステップに向けて最も重要なことだと考えている」

「(これまでスーパーフォーミュラに参戦したレッドブルの育成ドライバーや)僕を含めて、スーパーフォーミュラに対して持っていた印象は、『F1に行くためにはここを経て行くべきカテゴリー』だということ。実際にF1に一番近いし、競争力なども含めて、F1に備えるために一番大事な過程はこれ以外に他にないと思う」

 そして気になるインディカー参戦だが、オワードはチームへの感謝を述べるとともに、こう明かした。

「インディカーに関しては、僕がインディカーに出場できるように(チーム代表のトレバー)カーリンさんがすごく助けてくれて、チャンスを与えてくれた」

「そうしたなかで、今回レッドブルからこの話をもらったんだ。彼は、僕が最終的にはF1に行きたいというのをわかってくれているので、すごく喜んでくれている」

「インディカー参戦に関しては、一旦休止だ。この先インディカーに乗るかどうかは、何も確定していない。今はスーパーフォーミュラに一番集中している」

 F1昇格という将来の目標を果たすため、インディカーとの掛け持ちではなく、スーパーフォーミュラのみへ参戦が決まったオワード。だが、すぐに良い結果を残せるほど現在のスーパーフォーミュラは甘くない。それでも、弱冠20歳のオワードはSNS上のみならず記者会見でも日本語での挨拶をするなど自分から相手に打ち解けてようとする意欲を見せ、そして貪欲に物事を学ぼうとする姿勢をこの会見だけで示した。レッドブルという名門チームからの期待を背負いながらも、ピエール・ガスリーを彷彿とさせるその謙虚さは、オワードの最大の武器になるに違いない。