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小芝風花、ゾンビ×ラップを成立させる熱演 『ラッパーに噛まれたらラッパーになるドラマ』後編はMCバトルが鍵?

2019年07月13日 15:51  リアルサウンド

リアルサウンド

『ラッパーに噛まれたらラッパーになるドラマ』(c)テレビ朝日

 ゾンビと化した町民とのラップバトルで生き残るのははたして誰か?


 ゾンビとラップの新感覚コメディードラマ『ラッパーに噛まれたらラッパーになるドラマ』(テレビ朝日系)前編が7月12日に放送された。原作は漫画家・インカ帝国による「LINEマンガ」オリジナル作品『ラッパーに噛まれたらラッパーになる漫画』だ。


 地元の工場に勤める主人公のみのり(小芝風花)の悩みは恋人・山之内拓馬(佐藤寛太)がハマっているラップ。エスカレートする一方の拓馬のラップ熱は日常会話を侵食し、いまやすべての会話で韻を踏まずにはいられないほど。あるとき、みのりは工場の同僚たちと連絡が取れなくなる。そして拓馬も音信不通に……。


 ニューヨークのサウスブロンクスに落下した隕石が原因で起きた世界的なパンデミック。ラップウイルスに感染したゾンビに噛まれるとラッパーになってしまう本作は、良い意味でカオスな展開と要所要所に小ネタが満載された目の離せない作品となった。スクラッチの効果音に合わせてアングルが変わるカメラワークやテンポの良い進行がドラマ全体に小気味のよいグルーヴを生んでいる。


 肝心のラップだが、ゾンビになると心の奥底にある願望が表出するらしく、開始15分でゾンビ化してしまう奥山かずさの「痩せたい/上げたいの/代謝」など、海の日を目前にユーモラスなフロウが続出。緩慢な動きのゾンビだけに口ごもるようなダウナー系のラップがメインかと思いきや、『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日系)でおなじみのACEやTKda黒ぶちもゾンビメイクで登場し、巧みなスキルを披露。どうやらゾンビになるとラップスキルが上がるようだ。


 主演の小芝風花は『トクサツガガガ』(NHK総合)で見せたサブカルとの相性の良さを存分に発揮。本音を話そうとすると茨城弁が出てしまうみのりは、父親役のブラザートムと命がけのサバイバルに乗り出す。2人と行動をともにする婦警役の片山萌美がまんまミニスカポリスで思わず笑ってしまったが、ほどよいビッチ要素を物語に注入し、2人にゾンビへの対処法を教える前編のMVPだった。


 すでにお気づきかと思うが、ゾンビに噛まれるとゾンビになるという設定は、大ヒットした海外ドラマ『ウォーキング・デッド』を踏襲しており、閉店したスーパーの外にゾンビが押し掛ける場面などはそのオマージュである。往年のヒット曲(「DA.YO.NE」)を彷彿とさせるリリックなど、随所に先行作品へのリスペクトがのぞくストーリーのカギを握るのは、やはりラップ。


 目下最大の謎はなぜゾンビがラッパーなのかという点にあり、ナチュラルボーンなラッパーとラップウイルス感染者の違いがわかれば、解決策が明らかになると思われる。とはいえ、出演者全員がラップしそうな勢いの本作でウイルス拡大を止めるには、ゾンビとのフリースタイルに勝つ以外にない。みのりの父が言う「似たような響きの言葉を使って、相手が傷つくようなことを言えばラップ」という雑すぎる認識でACEたちに太刀打ちできるかは大いに疑問だが、茨城弁のみのりがラッパーとして覚醒する姿を見てみたい気もする。


 ラップは世界的にチャートの主流を占め、日本でも才能あるMCが次々と登場している。ある意味でラップウイルスはすでに広がっている状況だが、ラップのもつ拡散力を示したのが『ラッパーに噛まれたらラッパーになるドラマ』と考えることもできる。新キャラが登場する後編ではさらに白熱したMCバトルが見られるはず。はたして、みのりは拓馬や父親を救いだせるのか。無事にラップウイルスを退治した後も、登場人物たちにはぜひラップを続けてほしいと思う。


■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。