2019年07月12日 16:52 弁護士ドットコム
ジャーナリストの伊藤詩織さんが、元TBS記者の山口敬之さんから性暴力被害にあったとして慰謝料など1100万円の損害賠償を求めた訴訟の口頭弁論が7月8日、東京地裁(鈴木昭洋裁判長)で開かれた。
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双方の代理人と裁判官による伊藤さんの尋問が終わると、山口さんの代理人弁護士による山口さんの尋問が実施された。
警視庁は準強姦容疑で告訴状を受理。山口さんは2015年8月に書類送検されたが、2016年7月22日、嫌疑不十分で不起訴処分となっている。
この日グレーのスーツで出廷した山口さん。民事で不法行為に当たることをしているか問われると、「違法なことや不法行為は絶対していません」とはっきり否定。「伊藤さんから積極的に誘ってきた」と主張した。
(本文中の弁護人は全て山口さんの代理人、【】は編集部の補足です)
伊藤さんと会った4月3日の前後に、イランの核問題をめぐる枠組み合意について、オバマ米大統領(当時)がホワイトハウスで言及していた。私も折を見て携帯を見るなど、このニュースを気にしていた。
伊藤さんと会った理由は、大きく2つ。ワシントン支局でジャーナリズムの仕事に挑戦したいという伊藤さんに、仕事の内容を知ってもらうこと、それまで2回しか会ったことがなかったので適性や人柄を見るためだった。
会うにあたっては、どのようなスタイルの仕事があるか、乗り越えなければいけないハードルについて伝えようとした。
【山口さんが会う前のやりとりで「集合場所」といった表現を使っていたため、伊藤さんは他の人もいるものだと思っており「(2人きりで)少々驚いた」と尋問で話している】
自分は一時帰国しているので、他のワシントン支局の人が同席する可能性はゼロだった。
会うのに恵比寿を選んだのは、簡単に言えば、馴染みのある店が多いから。伊藤さんに何時に恵比寿に来れるかと聞くと「20時なら確実にいけます」と言うので、寿司屋は20時に予約した。
自分は18時前後と早めに恵比寿に到着したため、串カツ屋に入って待っていた。恵比寿駅に伊藤さんを迎えに行ったあと、荷物を置いたままだったこと、飲食の途中だったこと、寿司屋の予約よりも早かったことから、伊藤さんを連れて串カツ屋に戻った。行きつけなので、すぐ帰るのも気が引けた。
伊藤さんはお酒を飲むのがとても早い印象を受けた。頼んでいた瓶ビールをついだら、早いスピードで飲んだので、すぐ次をついだ。
(普通の女性なら上司のような人に会うときお酒を控えめにして対応するのではと問われ)取材して帰ってきたら、ビールを飲みたい気持ちは分かるので違和感はないが、伊藤さんはお酒が強いと思った。ビール2杯の後、店名物のしそサワーをおすすめした。
その後、串が残っていたので、「もう少し飲みますか」と聞いたら、「ワインならかなり飲めます」というのでワインを頼んだ。
伊藤さんが一升瓶のワインを自分で持ち上げて注いでいるのを2回は見ている。おかみさんは5~6杯飲んでいたと証言していた。
【串カツ屋のあと、予約していた寿司屋に移動した】
寿司屋でも、日本酒を最初1合頼んでおかわりし、さらにもう1回おかわりした。私は翌朝の便でワシントンに帰る予定だったので、2合半程度で止めた。伊藤さんは自分で1合を頼んでおり、少なくとも追加で2回頼んでいた。
反対側の席に有名人がいて、私はそちら側を向いている時間も短くなかったため、伊藤さんがどのくらい飲んだか全ては目撃していない。
(なぜ伊藤さんをほったらかしにしたのかと問われ)串カツ屋でも、ワシントン支局の仕事や、社員ではない人がどうすればいいか、話した。伊藤さんとはワシントンにいるときにキャバクラのホステス(編集部注:伊藤さんはピアノバーのバイトと話している)として話したが、(その場には)他にも人がいて、その次に会った時も短時間だったので、どんな人かも知らなかった。
盛り上がるというか、共通の話題もなく、既にビザの話もしたので、話すことがなくなってしまった。
伊藤さんは、私に対して繰り返し「頑張ります」「ジャーナリズムの世界で生きていきたい」と語った。英語が上手であることや、ガッツがあることなど、自分の適性について自己PRをされた。(寿司屋で)伊藤さんは裸足で店内を歩き回ったり、見知らぬ客に話しかけたりしていた。
【伊藤さんは自身の著書『BlackBox』で、寿司屋での聞き込みを終えた捜査員から「2人で(日本酒を)一升近く飲んだ」と聞き、「驚愕した。本当にそんなに飲んだのだろうか。自分ではとても信じられない」などと記述している】
(寿司屋の店主は嘘をつくような方かと問われ)寿司屋の店主は、魚一本の誠実な方で、尊敬できる方。嘘はつかないし、嘘をつく意味もない。
伊藤さんには自分で帰れるなら帰って欲しかったが、タクシー内で嘔吐された。駅で降ろして嘔吐したら吐瀉物で窒息する可能性もあるし、一人で帰れないと思った。そこで私が宿泊していたホテルで休んでいただこうと思って連れていった。
ホワイトハウスでの会見が翌日午前中にあると聞き、パソコンで作業したい気持ちで切迫していた。金曜夜の渋滞も考えると(伊藤さんを自宅に送って)1~2時間は無駄にできないと思った。
自宅の場所は●●駅(東京都内の駅)だと知らなかった。3月にもらった伊藤さんの履歴書で、住まいは神奈川県方向と理解していた。
【『BlackBox』で、タクシー運転手が捜査員に対し「女性は『●●駅(東京都内の駅)にいってください』と言った」と証言したという記述がある】
●●駅で降りたいと言ったことは、あっています。伊藤さんは「帰れます」と言った後に(タクシー内で)吐いた。これは駅で降ろしても危険だと思いました。タクシーの揺れで酔いが進んだのだと思います。
【『BlackBox』で、ホテル入口の映像を確認したときのことが書かれている。タクシーを降りてホテルから部屋まで向かう際に、伊藤さんは「歩くこともできず抱えられて運ばれる」状態で、友人もその映像をみて「抱えられていく私(伊藤さん)の映像に戦慄し、吐き気を催した」という】
知人が酔っている状態をみて、気持ちのいい人はいない。私がタクシーから引きずりだした事実はありません。映像を見て欲しいですが、私がタクシーの外に立っていて、伊藤さんは自分で左足を出して右足を降ろしている。私が一切手を下さず、両足を降ろしている。私はカバン2つとコートを持っていて、彼女の肘をサポートした。
【伊藤さんは原告側の代理人弁護士による尋問で「確証はないが、レイプドラッグを使われたのではないか」と述べている】
私はデートレイプドラッグの存在すら知らなかった。伊藤さんが根拠なく「薬物を使われた」と会見で話したり著書で書いたりすることは許せない。
性交渉したこと自体は認めます。根拠は反訴状の通りですが、伊藤さんから積極的に誘ってきた。
(伊藤さんが自分から性行為を誘うというのは、特別な事情がないと考えにくいと問われ)類推ですが、ワシントン支局で働きたいという希望があるのに、醜態を晒し、嘔吐したことに気づいて、「このままでは仕事ができなくなるのでは」と思ったのではないか。
私のPCにも伊藤さんの吐瀉物がかかり、(山口さんは伊藤さんに対して)不機嫌を隠すことはなかった。午前2時に伊藤さんがトイレに起きた後「喉が乾いた、冷たいものが飲みたい」と言ってミニバーのものを飲んだ。私は外で買ったものを飲んだので、「飲んでいいですか」と聞いて欲しかった。
翌日ワシントンに帰ることもあり、迷惑だなという気持ちはあった。
伊藤さんはホテルで「私は不合格でしょうか。お酒に強いので、こんなことになったことはないんです。もうこんなことはないようにしますので」と言った。不合格というのは、伊藤さんはアルバイトか契約記者を希望していたが「いずれのチャンスも失ったのではないか」「就職のチャンスが失われた」という意味合いとして受け取りました。伊藤さんは、千鳥足でもなく、言葉も明晰で普通に話していた。
頚椎症で同じ体制を取っていると辛いため、ホテルの部屋の中で座る向きを変えた。その際に、伊藤さんと手が触れた。伊藤さんの方から私の手を握ってきて、引っ張られた。
伊藤さんは夜中に起きた後、部屋の中で嘔吐した。酔ってしまって帰れなかったことについて、私にずっと謝ってきた。私物の上に吐かれたこともあり、伊藤さんに対する態度にも不快感が出ていたと思う。そうした険悪な雰囲気を和らげるために、手を握ったのだと思った。
伊藤さんの意識は、手を握って引っ張られたので、間違いなくあった。
関係を持ったことについて、伊藤さんは結果として大変傷ついておられることは間違いない。他方、私も社会的ダメージを負っている。違う判断をすべきだったと深く反省している。
性交渉を私から働きかけたことはない。性交渉するつもりでベッドに座ったのではない。(伊藤さんの)吐瀉物(のにおい)で行為を続行できなかったため、妊娠の心配はない。(伊藤さんが午前5時ごろに起きた時にされたと主張する)強かんはしていない。
【伊藤さんは、山口さんから「パンツぐらいお土産にさせてよ」「いつもはできる女みたいなのに今日は困った女の子みたいで可愛いね」と言われたと原告側の代理人弁護士による尋問で話している】
そうした発言はしていない。できる女風でもなかったし、今回のことで一切(就職の)チャンスがなくなった訳ではない。
【伊藤さんは、濡れていたブラウスに戸惑い、山口さんから差し出されたTシャツを着て帰ったと原告側の代理人弁護士による尋問で話している】
伊藤さんはTシャツを借りないでも帰れる装いだったことは間違いない。
【伊藤さんは4月6日、「無事ワシントンに戻られましたでしょうか? VISAのことについてどのような対応を検討していただいているのか案を教えていただけると幸いです」といったメールを山口さんに送った】
円満なメールだったのに、その後被害を匂わせるようなメールが急に来て大変驚いた。伊藤さんは「(ホテルの部屋で)罵声を当時浴びせたことを謝り」と著書に記述しているが、私は「罵声は浴びていない」と返信した。
また、伊藤さんは私に「空港に行くまでにピルを買ってあげる」と言われたと伊藤さんは話していますが、ピルは処方箋がなければ買えないことは常識的に知っていますし、私は成田空港に直行する予定でしたので、途中で薬局に寄るはずがありません。
【伊藤さんは冷蔵庫の上に不自然にPCがあり、ベッドの方を向いていたので、「こんなところで仕事するはずない。撮影されていた」と思ったと原告側の代理人弁護士による尋問で話している】
パソコンは窓際のソファーのテーブルに置いていましたが、そこにも伊藤さんの吐瀉物がかかったので、どけて、壁際の冷蔵庫の上に移動させました。
【伊藤さん側は訴状で、2015年6月、山口さんに対する逮捕状が請求されたものの、逮捕状執行が直前になって、警視庁上層部の指示によってとりやめられる事態となったと主張している】
(代理人に逮捕状を執行停止したことはあるかと問われると)そもそも仮に逮捕状が出ていたとしても、被疑者である立場であれば、逮捕状を出ていたことを知る手段はありません。逮捕状をもみ消すことはできない。
ジャーナリストとしてフリーで発言する機会を全て失いました。家族や知人にも「薬物レイプ犯死ね」といったメールやハガキが殺到しました。
【山口さんは2019年2月、名誉を毀損したとして、伊藤さんを相手取り1億3千万円の損害賠償と謝罪広告を求めて伊藤さんを反訴している】
「薬物を盛って、意思に反して性行為をした」という事実と違う発言をしている。また、「胸や膝を怪我して、窒息して死にそうになった」というのも事実ではない。薬物を盛られたという証拠がないなら、「レイプさせられ殺されかけたことは事実と違いました」と世に発信してもらいたい。