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雪次郎の挫折、麻子の戸惑い 『なつぞら』が描く、夢を追う者たちの苦しみ

2019年07月12日 12:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『なつぞら』写真提供=NHK

 グリム童話『ヘンゼルとグレーテル』を原案にした短編映画のストーリーラインがようやく固まった。監督を務める坂場(中川大志)は、早速、新人動画マン・神地(染谷将太)とともに絵コンテに取り掛かろうとする。新人だろうが、使えるものは使うという坂場の姿勢に納得が行かない麻子(貫地谷しほり)。坂場の作り方は今までの漫画映画の制作環境とは大きく外れた突拍子もない姿勢が続いている。


参考:『アラジン』ジーニー役でさらにパワーアップ! 「七色の声を持つ」山寺宏一のマルチな活動


 一方で、咲太郎(岡田将生)が立ち上げた声優プロダクションの一同も、吹替の仕事に動き出していた。今回の仕事は、『拳銃渡世人』という1話30分の西部劇。主演は『白蛇姫』の際、蘭子(鈴木杏樹)とともに主役を務めた元・活弁士の豊富遊声(山寺宏一)が務める。


 吹替の現場は、声と同時に効果音やBGMも録音し、間違えたら初めからやり直しという過酷な現場だ。今ではデジタルで後から切り貼りといった作り方が当たり前となっているが、当時の作り手たちにかかるプレッシャーは生半可なものではなかったことが予想される。


 早速、雪次郎(山田裕貴)たちは暗礁に乗り上げる。島貫(岩谷健司)は口の動きとセリフを合わせる気がまるでなく、雪次郎は北海道なまりを指摘され、リテイクは7回にも及ぶ。


 そして何度やっても訛りが抜けない雪次郎はついに役を降ろされてしまう。雪次郎にとって、芝居という世界で初めての挫折を味わうこととなった。第13週で、ようやく雪之助(安田顕)を説き伏せて踏み出した芝居の世界。やっと手に入れた夢の世界でこのままで終わることはないだろう。


 また、雪次郎の口を隠し、1人2役を即興でやってのける大立ち回りは、山寺がキャスティングされた大きな理由のひとつだろう。七色の声を使いこなす声優のレジェンドが声優の草分けを演じる。今後の登場も楽しみだ。


 そして、なつ(広瀬すず)は麻子と短編映画について話し合う。


 「私はマコさんが納得してないと嫌なんです。私はマコさんと一緒に作りたいんです。もちろん みんなが納得いくものを。日本で初めて原画になる女性はマコさんしかいないと思っています。この会社に入った時からマコさんは私の目標なんです。だから納得のいく漫画映画を作ってほしいんです。それを私も一緒に作りたいんです」と熱く語るなつ。これまで坂場と自由に短編映画制作を続けていたなつが言うにはあまりにも遅すぎたセリフだった。


 「そうやって何でもいちずに自分の情熱だけを貫こうとするんだから。周りに悩んでる人は何も言えなくなるでしょ」と指摘する一方で、「でも、ものを作るには大事なことよ。それがないとすぐに妥協するからね。だから私のことなんて気にしなくていいの。あなたは作品のことだけを考えてなさい」と返す麻子。麻子も坂場や神地などの新しい作り方を認めてはいるのだ。ただ自分のこれまで積み上げてきた仕事とのギャップに戸惑いを隠せないのだろう。


 それぞれの悩みが浮き彫りになった第89話。漫画映画は一体どこへ向かうのだろうか。


(文=安田周平)