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黒羽麻璃央、荒牧慶彦ら舞台俳優がTVで真価を発揮 『サクセス荘』本番一発勝負に挑む10人の猛者

2019年07月11日 06:11  リアルサウンド

リアルサウンド

『テレビ演劇 サクセス荘』(c)「テレビ演劇 サクセス荘」 製作委員会

 この夏、ちょっと変わり種のドラマが始まる。それが、木ドラ25『テレビ演劇 サクセス荘』(テレビ東京系)だ。


 今作の注目すべき点は3つ。1つ目は演劇界に革命を起こし続ける株式会社ネルケプランニングの代表取締役会長・松田誠が原案・プロデュースを務め、『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)で連ドラ界に絶大なインパクトをもたらした脚本家・徳尾浩司が脚本を手がけること。2つ目はリハは1度だけ、本番一発勝負のガチンコ芝居であること。そして3つ目が、出演陣が舞台を主戦場とする若手俳優であることだ。


 ネルケプランニングとは1994年に創業された舞台制作会社。漫画やアニメ、ゲームを原作とした「2.5次元舞台」のパイオニアであり、ミュージカル『刀剣乱舞』を筆頭に数々のヒット舞台を手がけている。


 松田誠はその仕掛け人としてこれまで数々の舞台をプロデュース。『情熱大陸』(TBS系)でも特集を組まれたヒットメーカーだが、その原点はザ・演劇青年。アングラ演劇の旗手・唐十郎の舞台に魅せられ、自らも20代半ばまで役者として小劇場を中心に活動していた経歴の持ち主だ。


 一方、脚本の徳尾浩司も高校の文化祭でクラス劇の脚本を書き下ろしたことを出発点に、慶應義塾大学在籍時は学内の演劇サークルに所属。社会人となってからは自らが主宰となって「とくお組」を旗揚げし、サラリーマン生活と並行して演劇活動に取り組んでいた。


 つまり、両名共に「演劇」が創作の原点。以前、橘ケンチ(EXILE)を主演に迎えた舞台『ドン・ドラキュラ』(2015年)でもタッグを組んでおり、「本番一発勝負」という連ドラ界から見れば非常識な企画が生まれたのも、演劇にルーツを持つ松田×徳尾の組み合わせだからだろう。


 そして、その「本番一発勝負」に挑むのは、和田雅成、高橋健介、高野洸、髙木俊、黒羽麻璃央、有澤樟太郎、荒牧慶彦、定本楓馬、玉城裕規、寺山武志という10人の若手俳優たち。普段テレビや映画しか見る機会のない視聴者にとっては、率直に言うと馴染みのない顔ぶれかもしれない。


 しかし、無名と侮るなかれ。彼らは舞台の世界ではトップクラスの集客力を誇るスター俳優たち。そのルックスは多くの女性ファンがつくのも頷けるイケメン揃い。彼らが雑誌の表紙を飾ると部数が伸び、たった一言のツイートに万単位のいいねが集まることも。一般知名度では測ることのできない熱狂的な人気を有している。


 だが、決して容姿先行ではなく、それに見合う実力もしっかり備えているのが、彼らの強み。特にこの「テレビ演劇」というフォーマットでは、その真価が遺憾なく発揮されることだろう。


 と言うのも、一般的に連ドラは数回のテストを経て本番となる。しかし、今作はリハーサル1回のみ。そして、本番でのNGは一切許されない。カメラが回ったが最後。何があっても止めることなくラストまで演じ切らなければいけないのだ。


 ミスができないというのは、演者にとって相当メンタルを削られる条件だ。ところが、彼らはそうではない。先日、縁あって撮影の現場を見学させていただいたのだが、もちろん一定の緊張感はあるものの、本番が始まってしまえば実に伸びやか。入念な準備もやり直しもできないハードな環境を楽しむぐらいの余裕で、ノンストップの撮影をこなしていた。


 その強心臓と柔軟性を支えるのは、豊富な舞台経験。彼らは短い公演では1週間程度、長ければ2~3ヶ月に及ぶ間、ほぼ毎日のように舞台に立ち続ける。たとえ台本は同じでも、1回として同じ芝居がないのが舞台の世界。幕が上がれば、何かしら想定外のことは起こり得る。見た目は爽やかでスマートなイマドキのイケメンだが、中身はそんなイレギュラーの事態を幾度も切り抜けてきた百戦錬磨の猛者たち。舞台という芸能の原点と言える場所で芸を磨き続けてきた骨太な俳優たちだからこそ、「本番一発勝負」というリスキーな企画をなし遂げることができるのだ。


 ちなみに作品の内容は「サクセス荘」というアパートを舞台とした、夢見る若者たちの日常劇。感覚的にはかつてカルト的な人気を得た『やっぱり猫が好き』(フジテレビ系)に近いかもしれない。取るに足らない世間話を繰り広げたり、悪ふざけがエスカレートしておかしな事態に発展したり。軽妙な会話の応酬をゆる~く楽しむことができる作品になっている。


 映像/舞台と殊更に線を引く必要はないが、まだまだ劇場という場所は多くの人にとって縁遠いもの。しかし、そこには生でしか感じられないエンターテインメントがあり、テレビや映画だけでは発見することのできない実力者たちが揃っている。2000年代に静かなブームを起こした『演技者。』(フジテレビ系)など舞台とテレビが連動した企画はこれまでにもあったが、近年は久しく途絶えていた。演劇の一端を知るという意味でもこの「テレビ演劇」は有意義な企画。ぜひ新しいエンタメの扉を開いてみてほしい。(文=横川良明)