2019年07月10日 14:01 弁護士ドットコム
ジャーナリストの伊藤詩織さんが、元TBS記者の山口敬之さんから性暴力被害にあったとして、慰謝料など1100万円の損害賠償を求めた訴訟の口頭弁論が7月8日、東京地裁(鈴木昭洋裁判長)で開かれた。
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伊藤さんと山口さんの尋問が実施され、伊藤さんは「やめて、痛いと伝えてもやめてくれなかった」と訴え、山口さんは「同意はあった」と話し、双方の主張は対立した。
あの日、何があったのかーー。伊藤さんは原告側の代理人弁護士による尋問で、山口さんと出会ってからの経緯を詳述した。この日、ブルーのシャツに紺色のスーツを着た伊藤さんは時に涙ぐみながら、小さな声で質問に答えていった。
この日の本人尋問には、わずか30席の傍聴券を求めて168人が並ぶなど、世間の注目を大きく集めた。伊藤さんと山口さんの尋問の一部始終を、4本の記事に分けて詳報する。
伊藤さんは2013年、ニューヨークの大学でジャーナリズムを専攻していた。アルバイト先のピアノバーで、当時TBSのワシントン支局長だった山口さんと初めて出会った。その後ほどなくして、山口さんから「TBSのニューヨーク支局長と会う」という誘いを受け、2人が昼食を食べているところに行った。
その次に連絡を取ったのは、伊藤さんが日本に帰国していた2015年3月25日のこと。伊藤さんは、ワシントンにいた山口さんに「就活中なのですが、空いているポジションがあれば教えてください」といったメールを送った。
というのも、当時、フリーランスとして仕事をしたいと思っていたが、両親の「企業で働いてほしい」という説得もあり、日本や海外のメディアに連絡を取り始めていた。
すでにCNN東京支局のインターン採用なども決まっていたものの、「インターンをすることは就活の一環」として続けて探していた。
山口さんからは「インターンを常に募集しているので、いつでも連絡ください」と言った旨の返信があった。また「最大の関門はビザだね。野暮用で一時帰国することになったんだけど、来週は東京にいますか」と連絡があった。
TBSが会社としてビザ取得を支援した実績があるとも聞いていたため、伊藤さんは「是非お会いしたいです」と返した。
4月3日の午後6時過ぎ、伊藤さんは山口さんに仕事が終わったとメールで伝えた。インターン先の通信社に寄ってから自宅に戻り、電車で恵比寿に向かった。山口さんは20時ごろ、恵比寿駅に迎えに来た。その際「日本に帰ってくると寄らなければいけないところがある」と言われ、串焼き屋に向かった。
伊藤さんはその時初めて、2人きりであることに気づいた。山口さんは(事前のやりとりで)「集合場所」といった表現を使っていたため、伊藤さんは他の人もいるものだと思っており「(2人きりで)少々驚いた」と振り返る。
串焼き屋では、串焼き5本、きゅうり、瓶ビールをコップ2杯、ワインをコップ1~2杯を飲食した。ワインは一升瓶のものだった。おかみさんが山口さんのために取っているものと差し出され、隣のグループに振舞いながら飲んだが、それでも飲みきれず、隣のグループにあげた。
注文はすべて山口さんがした。伊藤さんが聞きたいと思っていたビザの話は出なかった。山口さんは、父と初めて酒を飲んだ場所ということで、大将と昔話をしていた。仕事に関連した話は「政治部はどんな場所か」というものくらいだった。
寿司屋に向かうとき、伊藤さんは店にコートを忘れたことにすぐ気がつき、自分で取りに戻った。そのため、「(当時は)酔っていなかったと思う」と自分の酔い具合を振り返る。
寿司屋に行く途中には、山口さんが「このレストランはあの政治家と話した」などと懇意にしている有名人や政治家の名前をあげていた。
寿司屋ではお寿司を食べた記憶はなく、注文は山口さんがした。
ここでも、ビザの話はしていないという。山口さんは、大将と山口さんが執筆した週刊文春の記事について話していた。事前に「読んでおくように」と山口さんから言われていたが、伊藤さんは読んでいなかった。
山口さんは大将と仲が良く、記事の内容について話すのに忙しそうで、伊藤さんは自分の話ができず「会話をリードできるような雰囲気ではなかった」と話した。
トイレに行くとめまいが強くなり立っていられず、便器に腰掛け頭をもたせかけたとこまで覚えている。次に記憶があるのは、目覚めた時だった。
目が覚めた時、仰向けに寝ていた。山口さんは洋服を着ておらず裸で、陰茎を挿入されていた。ホテルの客室だとすぐわからなかった。痛みで起きて、何が行われているかわからず、「痛い痛い、やめて」と伝えた。それでも行為をやめてもらえず、「トイレに行きたい」と伝えたら離してくれた。その際、山口さんが避妊具をつけていないのを見た。
バスルームに駆け込もうとしたら、冷蔵庫の上に不自然にPCがあることに気づいた。PCがベッドの方を向いていたので、「こんなところで仕事するはずない。撮影されていた」と思った。バスルームの中で、何が起きたのか状況を把握しようとした。
小さな白いタオルの上に、髭剃りなどが並んでおり、そこで初めて山口さんのホテルだと認識した。服を着ていない自分の姿が鏡に映り、「この場からすぐに出たい」と思い、バスルームから出た。すると、山口さんがドアの前にいて、バスルームから一番近いベッドに押し倒した。
押し倒されて、これ以上暴行を受けないように、膝を閉じ、体を硬くした。自分を守ることに必死だった。山口さんの顔が近づいて、とても嫌で顔を背けた。すると、ベッドに顔を押し付けられた。その後、抵抗の末に山口さんの動きが止まり、伊藤さんは背を向けて窓側を向いた。
「やめて、痛い」と伝えてもやめてくれなかった。落ち着いて「どんな言葉で言えばいいか」と思い、英語で「どうしてこれから一緒に働く人にこんなことをするのか。妊娠したらどうなるのか」と問いただした。英語だった理由は、感情がストレートに入るからだ。
山口さんからは「君のこと好きになっちゃった」「ごめんね」と優しくなだめるように言われた。そして「あと1~2時間で空港に行くので、その間に一緒にシャワーを浴びよう」と言われた。
それから、伊藤さんは部屋中に散らばっている服を探した。ブラウスは、出入り口のドアノブにかかっていて、濡れている状態だった。スラックスは椅子の上にかかっており、ブラジャーはスーツケースの上にあった。
パンツは見つからず、山口さんが差し出したが「パンツぐらいお土産にさせてよ」と言われた。その瞬間、伊藤さんは膝に力が入らなくなり、窓側のベッドに体を隠すようにしゃがんだ。「いつもはできる女みたいなのに今日は困った女の子みたいで可愛いね」と言われた。
その後、山口さんから差し出されたTシャツを着て帰った。濡れていたブラウスに戸惑っていたところ、Tシャツを差し出された。「すぐにその場から出たくて」出されたものを着た。
帰宅してから、Tシャツはゴミ箱に捨て、体はシャワーで洗った。胸からは血が出ていた。右腰にヒリヒリするような痛みがあった。
4日朝、電話で「黒いポーチの忘れ物があるけど君のですか」と聞かれた。「違います」と答えると「じゃあまたビザのことで連絡するので」と言われ、「わかりました。失礼します」と答えた。
これまでと同じように上下関係を崩したくない思いがあり、ビジネス口調で話した。
「いつ失敗したの」。対応した女医は、伊藤さんの方を見ずにそう言ったという。カルテには「午前2~3時ごろ、コンドームが破れた」と記載されていたが、「勝手に書かれたのだと思う」。伊藤さんは「明け方」とだけ言ったそうだ。
寿司屋のトイレから痛みで起きるまで記憶をなくした。だから、いつ被害にあったかわからない。でも、山口さんから「ピルを買ってあげる」と言われたので、「起きる前から性行為をされていたのではないか」と思った。
4月6日には膝が痛くて整形外科に行った。当時はまだ、自分の身に起こったことを整理できていなかった。病院で何があったのか聞かれ、とっさに取材時に膝をついていた時のことを思い出し、「変な姿勢で座っていて」などと話した。
「無事ワシントンに戻られましたでしょうか? VISAのことについてどのような対応を検討していただいているのか案を教えていただけると幸いです」といったメールを送った。
当時は混乱しており、何もなかったように過ごすのが一番だと思っていた。ビザの話をするために会ったのか。会った理由を聞きたかったというのもあった。
疑問に感じていたのは、「なぜ寿司屋からの記憶がないのか」ということだった。それから、デートレイプドラッグの存在を知った。ニューヨークにいた際も、聞いたことがあった。「看護師である友人なら、被害後のケアなどについても知っているかも」。友人に何があったのか、初めて言葉にした。そこで自分の受けた被害について、自分で理解した。
友人は「デートレイプドラッグは1日で体の外に出てしまうので検査も難しいね」と言った。警察に行くことも一緒に考えたが、山口さんが多くの政治家などと繋がっていることを聞いていた。「とても怖くなり、被害届を出したらどう自分の人生に繋がるのかわからなかった」。
次の日、親友2人に会った際には「泣き寝入りしてはだめ」と言われた。「今のうちに証言や言葉を聞いておくべき」と言われたが、メールを送ることも苦しく、友人が文面を考えてくれた。警察に相談することも決めた。
原宿署に行った際は、女性警察官に対応してもらうようお願いした。女性警察官に説明をしたが、その後男性の捜査員に変わった。「原宿署は管轄外」と言われ、高輪署で話すように言われた。高輪署では「こうしたことはよくある話で、捜査するのは難しい」と言われた。
伊藤さんは「どのホテルかもわかっていて、ビデオに残っているはずなので調べてください」と言った。映像を見たら、記憶にはない自分の姿が写っていた。
なぜ山口さんとメールをしていたか。一つの理由は、山口さんがアメリカにいて、いつ証言が取れるかわからなかったためだと言う。また、捜査員から「山口さんの所在地がわからないので会話をして聞いてください」とも言われていた。いつ日本に帰ってくるのか、山口さんに(捜査について)悟られないように聞くため、メールを続けていた。メールは友人たちが作成してくれた。
すぐにアフターピルを飲んだが、月経が予定を超えても来ないので、不安に思っていた。病院に行くと「妊娠の可能性はほぼゼロ」と言われた。
山口さんには「生理が来ていないです。あの夜から恐怖で眠れないです」といった旨のメールをした。
今までお酒を飲んだ中で記憶をなくしたことがない。今回は起きたその後、意識ははっきりしていて、気持ち悪さはなかった。「確証はないが、レイプドラッグを使われたのではないか」。伊藤さんは今もフラッシュバックなどの症状があり、数日間起き上がれなくなることもあると打ち明けた。
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