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TENDREの存在感とフィッシュマンズの遺伝子ーー都市型フェスでのサポートミュージシャンの活躍

2019年07月10日 12:52  リアルサウンド

リアルサウンド

TENDRE「CHOICE」

 優れたミュージシャンが、表だった自らのアーティスト活動と裏方としてのサポート/プロデュースの両方を行き来することによって、音楽の歴史は作られてきた。特に、近年はアーティストの表現形態が自由度を増したことによって、「自ら生み出し、他も支える」というタイプのミュージシャンの活躍が目立つ。そこで、本連載では毎月のリリースやライブをサポート側にスポットを当てながら紹介し、ピープルツリーを広げることによって、現在の音楽シーンの動きを追っていきたい。今回は4月から6月にかけて行われた春の都市型フェスで感じた、TENDREの存在感とフィッシュマンズの遺伝子について。


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 7月に突入し、いよいよ夏フェスシーズンが到来。梅雨の期間が終わりさえすれば、全国各地で野外フェスが続々と開催され、それは今や季節の風物詩となっている。しかし、近年はそれぞれの特色を持った都市型フェスが春から開催され、年間を通じて大小様々なフェスが気軽に楽しめるようになった。そんな春の都市型フェスで確かな存在感を放っていたのが、河原太朗のソロプロジェクトTENDREだ。


 昨年発表された1stアルバム『NOT IN ALMIGHTY』が評判を呼び、今年は『SYNCHRONICITY』、『VIVA LA ROCK』、『CROSSING CARNIVAL』、『GREENROOM FESTIVAL』と、関東近郊の春フェスに次々と出演。4月にひさびさのライブを行ったampelのボーカル/ベースとして活動する一方、裏方としての仕事も多かった河原が、ソロアーティストとして表舞台に立ち、脚光を浴びるというのは、NulbarichのJQや小袋成彬、mabanuaらの活躍にも通じるものがある。僕は『SYNCHRONICITY』でライブを観たのだが、会場のSHIBUYA O-WESTは入場規制がかかり、熱狂的な盛り上がりを見せていた。


 このTENDREのライブにおけるサポートメンバーが非常に面白い。コーラス/シンセサイザーを担当するのはソロやTempalayでも活動する才媛AAAMYYY、サックス/キーボードはCRCK/LCKSの小西遼、ベースはAun BeatzのメンバーでありTempalayのサポートも務める亀山拳四朗だったが、最近は無礼メンのメンバーで、河原とともにCharaのサポートも務める高木祥太が参加している模様。そして、ドラムはTENDREと同じく春フェスに多数出演していたLUCKY TAPESのサポートメンバーでもある松浦大樹という顔触れだ。


 河原はマルチプレーヤーとしても知られ、4月に発表された新曲「SIGN」もハープを除くすべての楽器を自ら演奏しているが、5月に発表された新曲「CHOICE」は一転エレクトロニックな仕上がりであった。そんな河原の音楽に対する柔軟な姿勢を共有しているのが現在のサポートメンバーたちであり、だからこそ、TENDREのステージからは自由で開放的な雰囲気が感じられ、それが多くのオーディエンスを引きつけているのだと思う。


 『SYNCHRONICITY』の2日間の開催の中で、AAAMYYYはソロ、TENDRE、Tempalayの3ステージをこなし、それ以外のサポートメンバーもそれぞれ自分のバンドや別のサポートで2ステージをこなすという多忙ぶり。TENDREは『FUJI ROCK FESTIVAL』、『RISING SUN ROCK FESTIVAL』、『SWEET LOVE SHOWER』といった大型フェスへの出演も決定していて、10月には新作EP『IN SIGHT』を発表と、夏以降もさらなる活躍が期待される。


 『CROSSING CARNIVAL』での「フィッシュマンズトリビュート企画」も非常に印象深い。佐藤伸治の没後20年にあたって行われたこの企画の目玉として、コーラスとホーンセクションを含んだ編成のEmeraldに、フィッシュマンズの元メンバーであるHAKASE-SUN、サポートメンバーの木暮晋也を交え、「フィッシュマンズトリビュートセット」を実施。曽我部恵一や崎山蒼志をゲストボーカルとして迎えながら、「いかれたBaby」、「ゆらめきIN THE AIR」、「BABY BLUE」といった名曲たちをカバーする、スペシャルな内容だった。


 そもそもフィッシュマンズというバンドは、サポートメンバーを加えることによって音楽性を伸長させていったバンドであり、今年2月には同じくサポートメンバーが重要な役割を果たすceroをゲストに迎え、主催イベント『闘魂』を20年ぶりに開催したのも記憶に新しい。前述のTENDREはもちろん、「なんてったの」と「ナイトクルージング」をカバーし、見事『CROSSING CARNIVAL』の大トリを務め上げたYogee New Wavesにしても、近年サポートを迎えてライブの完成度を高めているだけに、この日はサポートミュージシャンの存在がいかに重要かを再確認させるような一日でもあった。


 ちなみに、5月にNHKホールで行われたceroのワンマンライブ『別天』には、小西遼がサックス/フルートで参加し、4月に渋谷WWWで行われた網守将平のワンマンライブにはceroのサポートメンバーでもある厚海義朗(Ba)、古川麦(Gt)、角銅真実(Per)が参加と、cero周辺の動向は相変わらず面白い。厚海は曽我部やbonobosらとともに、2004年に発表されたトリビュートアルバム『Sweet Dreams for Fishmans』に参加したGUIROのメンバーでもあるが、フィッシュマンズにとってひとつの節目である今年、GUIROが7月にひさびさの新作『A MEZZANINE』を発表するというのは、なんだか素敵な巡り合わせだ。(金子厚武)