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BUMP OF CHICKEN『aurora arc』レビュー:バンドの歩みが“オーロラの弧”のように結実

2019年07月10日 12:52  リアルサウンド

リアルサウンド

BUMP OF CHICKEN『aurora arc (通常盤)』

 BUMP OF CHICKENが、9thアルバム『aurora arc』を完成させた。タイトルは、アーク(=弧)を描くオーロラのかたちを「オーロラアーク」と呼ぶところに由来する。すでにシングルとしてリリースされている「Aurora」が引っ張っているアルバム、という単純な想像に留まらない。美しい光彩を放ちながら、ぐるりと私たちを包み込むような14曲が収録されていると言った方が、しっくり『aurora arc』というタイトルと今作がつながる気がする。そして、老若男女が憧れる、壮大で純粋なオーロラと、BUMP OF CHICKENのイメージが、絶妙に重なり合うという意味でも、素晴らしいタイトルだと思う。


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 前作から今作まで、約3年5カ月。その間、彼らは作品を伴わないツアー『PATHFINDER』を行い、映画やアニメ、ゲームやドラマなど、様々なメディアとコラボレーションした楽曲を発表してきた。つまり、歩みを私たちに(ほぼ)見せ続けてきたのだ。今作には、そうやって発表されてきた楽曲も数多く収録されており、こういったタイプのアルバムは、豪華さがある一方で、“バラバラの楽曲がひとつになったことで継ぎ接ぎ感が出てしまう”あるいは“すでに聴いている楽曲ばかりで物足りなさを感じてしまう”危険性もあったと思う。しかし今作を聴いても、これらのネガティブな印象は感じない。また、正直に言うと“豪華”という感じとも少し異なる。いや、もちろん内容として豪華ではあるのだけれど、ギラギラした華美なイメージはなく、ああ、私たちが見てきた彼らの3年5カ月の歩みは、このオーロラの弧に結実しているのだな、とスッと腑に落ちるような物語性を感じるのだ。彼らは、アーティストとして、年々スキルアップを重ねて、コラボレーションに取り組み、それぞれの作品に寄り添う楽曲を生み出してはいるが、軸足は結成以来“BUMP OF CHICKENの物語”から外れたことはない。こういったタイプのアルバムだからこそ、そのブレのなさが見えてくる。


 そして今作には、“BUMP OF CHICKENの物語”の構造がよくわかる楽曲が目立つ。藤原基央の心の内が見えてくる「ジャングルジム」、メンバー4人の姿が浮かび上がってくる「リボン」、そして私たちリスナーも共に物語を紡いでいるのだと実感する「流れ星の正体」。図式化したくなるような、BUMP OF CHICKEN解剖学が展開されているのだ。今作を聴いて、だから私はBUMP OF CHICKENが好きなんだな、と改めて思う人も、少なくないだろう。


 ここまで、今作の収録曲から如何にひとつのテーマが浮かび上がってくるか、について書いてきたが、サウンドそのものはバラエティに富んでおり、アーティストとしてのチャレンジ精神に溢れている。よくよく考えると、素朴な弾き語りの「ジャングルジム」、おごそかな響きを誇る「アリア」、軽妙なタッチの「新世界」は、曲調というよりは質感そのものがかなり違う。でも、どれも付け焼き刃では生まれ得ない、洗練されたアレンジによって、するりと聴くことができるのだ。物語や歌詞に焦点が当たりがちなバンドではあるが、ここ数年、どれほど彼らがサウンドを探求してきたかということも、今作には刻まれている。


 なお、BUMP OF CHICKENは、ファンがものすごく彼らや、彼らが生み出す作品に対して“向き合っている”バンドだと思う。7月10日に今作がリリースされた後、聴いた人それぞれの解釈が生まれることだろう。それらに触れてから、今作を聴くことも楽しみだ。そして、リリース直後の7月12日からは、『TOUR 2019 aurora ark』(こちらは「ark」=方舟の意味が名付けられている)もはじまる。そこから、また“BUMP OF CHICKENの物語”のページはめくられていくはずだ。まだまだ続く物語の中で、燦然と輝くオーロラの光は、これからの彼らや私たちを照らしていってくれるのではないだろうか。それほど今作は、とても重要で明快なアルバムだと思う。(高橋美穂)