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そらる「海中の月を掬う」歌詞が作り上げる美しく幻想的な世界 しなやかな歌声と表現力にも注目

2019年07月09日 21:01  リアルサウンド

リアルサウンド

そらる

 シンガーソングライタ―のそらるに大きな注目が集まっている。7月17日に発売される3rdアルバム『ワンダー』のリード曲「海中の月を掬う」のMVが、6月25日にYouTubeで公開された。2週間で228万回再生(7月9日時点)を超えるペースで数字を伸ばしている。まず6月20日に『SCHOOL OF LOCK!』(TOKYO FM)で初オンエアされ、翌21日に歌詞を歌詞検索サイトで先行公開し、切ない恋心を歌った、ミディアムなロックバラードで描かれたその美しい世界観は多くの人をひきつけ、ファンはMVの公開を心待ちにしていた。


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 そらるは2008年から動画投稿サイトにカバー曲を歌った動画などを投稿し瞬く間に人気を集め、2012年に1stアルバム『そらあい』をリリースした。以降、ソロ作品のほか、まふまふとのユニット・After the Rainの作品でも、自身が作詞・作曲を手がけた楽曲が収録されているが、カバー曲を中心に歌ってきたそらるが、本格的にシンガーソングライターとして、楽曲制作に取り組んだのは、昨年リリースしたシングル曲「銀の祈誓」からだ。昨年は10周年の節目でもあり、メディアへの露出も増え、Twitterのフォロワー数も約134万(7月3日時点)、ドラマや映画のタイアップも増え、今年4月には幕張メッセ2daysもソールドアウトした。そんな世間からの注目度が高まる中での3rdアルバム、そのリード曲「海中の月を掬う」では、多くの人を夢中にさせる“表現者”の力を見せつけてくれている。


 同曲のMVについてそらるは「藻掻いても届かない沈んだ心の心情を深海の月になぞらえて書いた楽曲になっています。楽曲に合わせ、自分たちが深海にいるような不思議で幻想的な映像をお楽しみください」とコメントしているが、何よりその歌詞が作り上げる幻想的な世界が、あまりにも美しい。そらるが選ぶ言葉、紡ぐ歌詞から、幻想的な、美しい映像が浮かび上がってくる。〈揺蕩う(たゆたう)〉〈彷徨う〉〈不確か〉〈はかなげに揺れてる〉〈淡く光る〉……そんな想像力を掻き立てる言葉たちが散りばめられ、まるで、少し触れるだけでも壊れそうな儚さや、切なさが、行間からも漂ってくるようだ。聴き手はそんな世界に一瞬にして引き込まれ、歌詞の行間に漂う切なさの波の上で、ただ漂い、〈溢れる涙止めて欲しい 溺れてしまうから〉という歌詞で、涙と感動に包まれる――そんな感覚を味わうことができる。この独特のイノセントな表現こそが、そらるのセンスであり、誰もが引き寄せられ、その世界に身を置きたくなる“肌触り”なのだと思う。


 もちろんこの世界観をさらに魅力的なものしているのは、その歌声だ。力強い地声と、柔らかなファルセットがミックスされた、ミュージカル俳優のようなミックスボイスを駆使している。そして幅広い音域こそが、表現力の幅を生み、歌詞により物語性を持たせ、聴き手に届ける。“しなやか”という言葉はよく女性ボーカリストに使うが、そらるの歌声は、まさにこの“しなやか”という表現がぴったりだ。強くて、柔らかで優しい。これまで様々なカバー曲を歌ってきて、オリジナル曲と自身のセンスとで化学反応を起こし、より素晴らしいものを作り続けてきたキャリアが培った、しなやかな歌声と表現力だ。「海中の月を掬う」は、言葉が生み出すリズムがどこまでも心地よく、せつないメロディと歌声、アレンジと相まって、深く、そして透明感を湛えた極上の美しさを、作り出している。この曲をリードトラックに据えたアルバム『ワンダー』は、全編を通してどのような表現を私たちに届けてくれるのだろうか。楽しみで仕方がない。(田中久勝)