SROモータースポーツ・グループ代表のステファン・ラテル GT3カーを生みだし、いまや世界各国でさまざまなGTカーのレースをプロモートしているSROモータースポーツ・グループ。1990年代から現在まで、GTカーレースの中心にあるSROの創設者にしてCEOのステファン・ラテルに、ブランパンGTワールドチャレンジ・アジア富士戦の現場で独占インタビューを行った。ラテルが見るいまのGTレースの現状、そして将来のプラン、日本におけるGT3レースについてなど、さまざまなことを聞いた。
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■ACO規定とSROのGTレースは「パラレル」
Q:少々聞きづらい質問ですが、GTカーのカテゴリーが増え続けるなか、(ル・マン24時間を運営する)ACOフランス西部自動車クラブとの関係はどうなのでしょう?
SR:とても良好だよ。私は今年ル・マン24時間に招待されたし、彼らもスパ24時間に招待する。いまのACOの規定と我々の規定は、ふたつの成功したプラットフォームになっているんだ。2020年からのACOのハイパーカー規定も成功することを祈っているし、今のLMP2、GTEもマニュファクチャラーは少ないが成功している。
マニュファクチャラーはACO規定に参加することもあれば、我々の側に参加することもある。BMWは今季限りでGTEの活動を終えるが、詳しいことは聞いていないがマクラーレンが出るかもしれない。GTEをとるかGT3をとるか、GT2をとるかは多くのマニュファクチャラーが決めることだ。それにカスタマーレーシングにおいては、どのクルマを買ってどのレースに出るかは購入した彼らが決める。SROはGT2、GT3、GT4によって世界的に成功したプラットフォームになっているし、ACOもハイパーカー、LMP2、GTEによって世界的に成功している。それはパラレルで、競合した関係ではないんだ。
アジアにおいても、春から秋はブランパンGTワールドチャレンジ・アジアに出場して、冬の間は同じクルマでアジアン・ル・マンに出場してもまったく構わないし、むしろぜひやって頂きたい。同様にヨーロッパではSROのレースに出ていて、ACOのレースに出ているチームも多い。TDSレーシングやストラッカ・レーシングなど良い例だろう。彼らに「こちらに出てくれ」と言ってもいないしね。それに我々はすでに多くのエントリーを集めているんだから。スパ24時間のガレージはもういっぱいだよ(笑)。
Q:ブランパンGTではヨーロッパでもアジアでも、BoP(バランス・オブ・パフォーマンス=性能調整)がうまくいっていて各車の性能に差が無いように思いますが、同じBoPを使うスーパーGTのGT300クラスではなかなか難しい部分もあるようですが。
SR:SROのBoPは、ひとつのタイヤメーカーで使われることが前提だ。これをGT300でも活用しているが、やはりタイヤマニュファクチャラーが複数ある影響だろう。バンドウさん(GTA坂東正明代表)がシングルマニュファクチャラーにすれば解決すると思うが(笑)。今のSROのBoPは本来、パーフェクトに近い状態だと思っている。ただGT300では、あるチームはAレベルのタイヤを、別のチームはBレベルのタイヤを使っているし、それがGT300での違いを生み出していると思っている。ベースの性能調整はほぼパーフェクトに近いレベルで、均等になっているはずだ。
■鈴鹿10時間は「さらに高いレベルになる」
Q:今年で鈴鹿10時間が2年目を迎えますが、鈴鹿サーキットとの関係はいかがですか?
SR:素晴らしい関係だ。私は日本が大好きだし、もう何年も通っている。私がドライバーとして初めてヨーロッパ以外でレースを戦ったのは、1994年の鈴鹿500km(注:94年鈴鹿耐久シリーズ第2戦インターナショナル鈴鹿500km。ベンチュリ400GTRで参戦し総合6位・GT2クラス2位)だったんだ。私は日本を愛しているし、いつも訪問を楽しんでいる。だから昨年から、鈴鹿1000kmが新しいかたちでインターコンチネンタルGTチャレンジに加わってくれたのは本当に素晴らしかった。今もレースを良くしようと努力しているし、今年はさらに多くの海外のチームが参戦する。昨年よりもいいレースになるはずだし、さらに関係を良くして、イベントを大きくしていきたいと思う。ファンの皆さんは、さらに高いレベルになるレースを楽しみにしていて欲しい。
Q:スパ24時間と鈴鹿10時間の間隔がそれほどなく、いくつかのチームは車両を空輸する必要があるようですが。
SR:もちろん把握している。ただ、どちらのレースも長い伝統があるから、日程をずらすわけにはいかないんだ。重要なのはそのコースにおける伝統だ。その点で鈴鹿1000kmが国際的なレースに戻ってくれて、アジアで冠たるレースに戻ったのは素晴らしい。昨年もKCMGがアジアチームとして活躍してくれたし、優勝したのもグループMレーシングで、これもアジアチームだった。もっと日本チームがトップを争ってくれるように祈っているけどね!
Q:鈴鹿10時間への日本メーカーへの関与はいかがですか?
SR:日本メーカーはもっと関与すべきだと思う。なぜ(鈴鹿10時間に)レクサスRC F GT3が1台もエントリーしていないのか理解に苦しむよ。ホンダもニッサンも、素晴らしいチームを投入してプロモーションに繋げている。レクサスもインターコンチネンタルGTチャレンジに参加するべきだ。彼らは北米IMSAには参戦しているが、よりグローバルに活動を行うべきだろう。彼らはプレミアムブランドとして素晴らしいプラットフォームをもっているはずなのに、なぜそれを使わないのだ?
■カスタマーレーシングカーの成功のための四本柱
Q:レクサスRC F GT3は価格が他車よりも高額と言われているのが理由にあるかもしれません。
SR:それは分かっている。だが彼らはGT3プロジェクトを何年続けているのだろうか。しかし彼らのRC F GT3をグリッドで見ることは少ない。トヨタは世界でも最も大きな自動車メーカーのひとつで、速く快適なクルマを作り続けているだろう。GT3をできない理由など思いつかない。メルセデスもアウディも、どのメーカーもGT3を作っているし、アストンマーティンのようなメーカーでもできている。だがトヨタはコスト面も含め、やらないのはなぜなのだろうか。
カスタマーレーシングカーとしてGT3で成功するためには、コストを下げなければならない。とてもシンプルだ。唯一エンジンリビルドのコストが高いのはフェラーリだが、それはフェラーリとしての価値観だ。車体の価格がヨーロッパで40万ユーロ(約4800万円)以下で、エンジンのライフは20000km、それにリビルド代がリーズナブルなこと。これがGT3で成功するためのベースだよ。それにアシスタントも重要で、チームがパーツが必要になったならば、パソコンで注文して48時間以内に到着するような体制を構築しなければならない。販売価格、ランニングコスト、アシスタント、そしてメーカーのサポート。これがカスタマーレーシングで重要な四本柱だ。
Q:では最後に、日本のファンの皆さんに何かメッセージがあれば。
SR:日本のモータースポーツファンは、とても幸運だと思う。それはスーパーGTという世界でも最も大きな規模で、ハイレベルなシリーズがあるからだ。ただトップクラスには3メーカーしかいない。しかしGT3の世界、特にインターコンチネンタルGTチャレンジには、8つものメーカーが参戦しており、非常にハイレベルなコンペティションが展開されている。彼らがGT300のチームと戦うシーンを見に、ぜひ鈴鹿10時間に来てほしいと思っている。我々は最大のおもてなしで皆さんをお迎えしたいし、さらにGT3の素晴らしい戦いを見たければ、またブランパンGTワールドチャレンジ・アジアを観戦しに来てほしいと思っているよ。
ステファン・ラテル Stephane Ratel
SROモータースポーツのCEO&ファウンダー。フランス出身。レーシングドライバーとして活動するかたわら、1994年にベンチュリのワンメイクレースを立ち上げ、95年からはBPR GTシリーズの共同創設者に。以降ヨーロッパを中心にFIA GTなどのプロモーターを務めた。2006年にGT3コンセプトを築き上げ、その規定は世界的にヒット。いまやSROモータースポーツグループは世界各国のGTレースのプロモーターを務めている。